眠れない朝
『白い結婚』って言ったけど、……俺、間違いなく、間違ってるよな?
一睡もできずに朝を迎えた。
黎明の薄明かりを、カーテンの隙間の向こうに感じる。
腕の中には、疲れ果てて眠る彼女の姿。
リオノーラ・エルトフォード。
昨日、俺の妻になった女性。
そして、間違いなく、想い焦がれた俺の魔女。
温かくて柔らかくて、きつく抱きしめたら壊して、折ってしまいそうな身体を優しく抱きしめ続ける。
離せずに、離すことなんてできずにいた。
自分が起こした行動のとんでもなさに、気づいていないわけじゃない。
それでも、どうしようもなくて。
眠ってしまえばまた失うという強迫観念と恐怖。
やっと手に入れて、やっと再びこの胸に抱くことができたという高揚感と興奮で、感覚がおかしいことは実感している。
「リオ…、……リオノーラ…」
眠る彼女に呼びかけた。
微かに反応があって、眠たげで、目も開かないまま、わずかにだけ身じろぎする。
「……ん…、…す、…て、ら……?」
小さな声に、ぞくぞくっと身が震えた。
昨晩、どれだけ望んでもそう呼んでくれなかった名を、浅い覚醒と眠りの中で口にする。
そっと、俺の名を呟いた唇に唇を寄せて、開かせた口に舌をねじ込む。
あれだけ注いだというのに、また簡単に高ぶった己を、すっかり柔らかくなったリオノーラのなかへ埋めていく。
「ふ…、あ…っ、いや…ぁ、ア、ステ、ライト、さま…っ、もう、無理ぃ…っ」
「無理じゃない…っ、リオ……!!」
カーテンの隙間から射し込む朝日が確かな輝きを持つ頃、リオノーラは再びこの腕の中で気を失うように眠りに落ちた。
泣き濡れた頬に、目元に何度も口づけを送っても反応はない。
そうしてようやく、俺はベッドを出る気になれた。
これだけ疲れ果てているなら、少々離れていてもすぐに逃げ出すことなどできないだろうと納得して。
ガウンを身にまとって、寝室と続きになっている執務室へ入る。
バタンとドアを閉めると、廊下からのドアを丁寧にノックする音がした。
誰が来たかは分かっている。
入室を許可すると、家令長が入ってきた。
物言いたげだが口を開かず、目も伏せてこちらの言葉を待っている。
「食堂で朝食を取る。各部から報告が届いてるだろう? 持ってきておいてくれ」
「かしこまりました」
「彼女は目を覚ますまでそのままで。水は飲ませてある。目を覚ましたら必ず俺に報告を。……公爵家から彼女用のメイドがついてきているなら、側に寄らせるな。彼女の世話は筆頭メイド長に任せる」
「は? 公爵家のメイドに何か不備でもございましたか? ……いえ、かしこまりました。そのように伝えます」
あまりに疑問に思ったからだろう。珍しく家令長が問い返してきた。だが、主である俺の決定自体には特に否定するつもりはないようだ。
「不備はない。だが、公爵家のメイドはリオと仲が良いのだろう?」
「は、はい。この三日間見ておりましたが、忠義を尽くしている様子です」
「なら、そうさせろ。別に解雇して公爵領へ帰れと言っているわけじゃない。彼女の世話以外の仕事を与えておけ」
なかなかに突然、一方的に采配を振るったから、家令長はさすがに理解できないといった表情を見せた。
だが、そこは長年仕えてくれている者だ。
すぐに態度を改め、恭しく一礼して、手筈を整えに部屋を出ていった。
再び一人になった執務室。
小さくため息を吐いて、眠気で重たい頭を手で押さえる。
リオノーラのことを己が身よりも気遣いそうなメイドなんかが側にいれば、何をどう手引きして、彼女を逃がす算段を組むかも分からない。
のろりと動いて、寝室へ戻る。
寝乱れたベッドには、深く深く眠るリオノーラの姿。
「絶対に逃さないからな、リオノーラ…。……リオ、……俺から、……逃げないでくれ…」
眠る彼女の傍に跪いて身を寄せ、祈るように呟いた。
アステライト
リオノーラ
家令長
(キャラクターの名前は名乗ったり名前紹介が行われた後、書き込みます)




