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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 兄から聞く夜会の話

 王太子殿下の誕生日祝いの夜会が終わり、ソーラス兄様は無事エルトフォード公爵領へと帰ってきた。


 旅の疲れもあるだろうに、すぐに公務に手をつけるソーラス兄様に、彼が不在だった間に決めきるしかなかった采配の良し悪しをまず見てもらう。


「問題ない」


 その一言をもらって、ホッと安堵の息を吐き出す。


 ソーラス兄様はペラペラと別の政策の報告書も同時に見比べながら。


「しいて言うなら、お前の誕生日に合わせて夜会こそしないが、城内の者たちで盛大に祝っていいと思っている。来月の厨房の予算を倍にしても構わないほどだ。なんなら城下町で大々的に祭りを開かせて、領内で祝日にして……。そのための計画と予算と試算、経済波及効果を鑑みて、やはり有用だな。そうしよ…」

「しません!! 城内の者たちとの祝いにとどめてください!!」


 とんでもないことを計画しだしたので、慌てて止めたほどだった。


 その時のソーラス兄様の残念そうな表情で、その提案が冗談じゃないと分かって焦った。

 必死で、何か話題を変えなければと思考を巡らせる。


「王太子殿下の夜会で、何か面白いことはなかったのですか?! 兄様も楽しまれたのでしょう?!」

「うん? 面白いことがなかったわけではないが」


 一度仕事の手を止めて、ソーラス兄様は緩やかに笑う。


「王太子殿下の妃探しだとは誰もが分かっているはずなのだがな、今回の主役はある意味ウォルフィンリード辺境伯だった」

「王太子殿下のための夜会なのに、辺境伯様が主役、ですか?」

「ああ、彼にはまだ決まった相手がいないからな。よほどの野心がない限り、未来の国母の座を狙うより、代々妻を大事にすると定評のあるウォルフィンリード辺境伯夫人になることを狙うほうが現実的で魅力的だったんだろう」


 そして、親友の誕生日のために、夜会用にきちんと身なりを整えた辺境伯の姿の立派さといったら。


「シフィアフラ父様を悼みに来てくれた時は、ウォルフィンリード流に立派な鎧姿で来られた。彼の父、グラジエフ殿と父様の昔からの間柄を汲んでくれたのだろう。だから、夜会用の正装は初めて見た。男から見ても惚れ惚れする男というのは、私には羨望だ。そのあたりは私は父様とよく似ている」


 シフィアフラ父様もソーラス兄様も、武芸を身に着け、秀でているそうだ。


 だが、普段は武器を手にしない。

 装備として帯剣はするが、自ら先陣を切ったりしない。


 まずは騎士、側近たちが武器を取り、主を守る。

 どんな階級の貴族でも、それが普通。


 そうじゃないのが軍侯爵であり、日々戦いの最前線を征くウォルフィンリード辺境伯だという。


 血の繋がった家族である妹の自分の目から見ても、ソーラス兄様の姿は、妖艶で色気に満ちた、洗練された美麗な貴族の男性だった。


 身にまとう超一級品の清潔な衣装。

 一朝一夕で身につけたわけではないと分かる優雅な所作。

 溢れる知性と、為政者の一人と分かる威厳。

 そのすべてを納得させるほどの美貌。


 男から見て惚れ惚れする男を羨ましく思う、とソーラス兄様は言ったが、自身は老若男女問わず目を奪いまくってしかたない容姿をしておられることは、自覚してないわけないよね。


 兄様はその容姿すら、その魅力すら、すべてを計算しつくして、良くも悪くも寄ってくる人たちを手のひらの上で転がし、操るものは操っているはず。


 そんな兄様が憧れる容姿をお持ちのウォルフィンリード辺境伯様が。


「迫ってくる女性たちの熱意に耐えきれず、顔に張り付けた笑顔を引きつらせて会場から逃げ去っていく姿は、哀れで面白…っ、ぐふ…っ」


 思い出し笑いで吹き出して、ソーラス兄様は顔を伏せて隠し、沈黙の中で笑い続けていた。


「確か、ウォルフィンリード辺境伯様は想い人がおられるのですよね?」


 以前に兄様から聞いた話をちゃんと覚えている。

 ウォルフィンリード辺境伯が結婚したとも、想い人が見つかったという話もまだ聞いていない。


「そう、だな。だがその、話を、知っている者は多くないはずだ。そんなこと関係ないと婚姻関係を結ばせようとする貴族ももちろんいる。想い人など、側妃や愛人、妾にしてしまえばいいとな」


 どうにか笑いを押し込めながら顔を上げるソーラス兄様。


 そういうところが、平民と貴族の間で決定的に違う結婚生活倫理観ってやつじゃないだろうか。


 基本は一夫一妻制。

 だが、王族や高位貴族は血を残すことをとても重要としている。

 だから王家なら、場合により第二妃、側妃、妾を持つことも許される。


 その他の貴族も王家と神殿の許可さえ得られれば可能だ。


 商人、平民にいたっては、おおっぴらに認められてはいないが、家族を飢えさせるようなことにならない場合、やむなしな事情がある場合に特例として認められる。


 それぞれにそれぞれ、利点があり、そして問題点もあり、なのだが、一応、世の中はそれでどうにか回っている。


 私は貴族になってしまった。

 これから先、誰かと結婚したら、そんなことが起こったりすることもあるのだろうか、と一抹の不安が胸をよぎった。


「そういえば、兄様に想い人はおられないのですか?」

「ごふっ!!」


 素朴な疑問を投げかけると、ソーラス兄様はかなり動揺して、飲みかけていた紅茶を半ば吐き出すような状態で、執務机に戻した。


 エルトフォード公爵も、いい歳、だ。

 本来なら妻や子どもがいておかしくない年齢であり、そうでないならそれこそ愛人や妾がいてもおかしくない地位と資産がある。


 ソーラス兄様はとくに説明せずに黙っていたが、夜会でウォルフィンリード辺境伯が去ったあと、女性たちに狙われ、囲まれたのは兄様だったらしい。


「私のことは放っておいていい、リオノーラ」

「そうですか…」


 兄様がそう言うなら、それで良いんだろう、と盲目的に納得する。


 でも少し、不服でもある。

 もしも私のために兄様が結婚しないでいた、なんてことなら、許しはできないから。


 それを見透かしてか、ソーラス兄様はゆっくりと目を細めた。


「王都にも行ってあちこち見て、お前の誕生日祝いに何をしようかと考えていたんだ。贈り物はともかくとしてな」


 兄様は公務で城外に出かける際、何かと理由をつけて私に贈り物を買ってくる。

 これは駄目だ、いつものやつだ、と優しい眼差しで私を見るソーラス兄様を睨み返した。


「兄様、ドレスも宝石も、もう毎日着替えても時間が足りないと思えるほどいただきました。それなのにデビュタントの式典や夜会のためにもまだ増えている現状です。控えてください」

「お前への贈り物で財政は傾いたりせんよ。心配するな。だが、そろそろお前が嫌がるだろうなとは思っていたから、……なぁ、リオノーラ、冒険活劇物語は好きか?」


 不思議な問いかけだなと思いながらも、私はソーラス兄様をまっすぐに見ながら、うなずいた。





リオノーラ

ソーラス

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