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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 ウォルフィンリード辺境伯の想い人

リオノーラ視点

 私が森の家に行って帰ってくるまでの約四日、おおよそ五日間の間に、隣領ウォルフィンリード辺境伯の弔問があったそうだ。


 シフィアフラ父様ベタ褒めの隣領ウォルフィンリード辺境伯、その現当主。


 その話を兄様にすると、目を細めながら楽しげに微笑む。ソーラス兄様の、公爵としての、そして政治に深く携わる者としての優雅な笑み。


「現当主アステライト殿は、前当主を超える戦士だ。若い時から国王陛下直々に将軍職に就くようにと見初められていたほどの傑物だよ。王太子殿下のご親友でもある」

「立派な人なんですね」


 私が思ったことをそのまま口にすると、ソーラス兄様は意味ありげに目を細めた。


「立派…、ではあるかな? まだまだ若者だ。ご結婚もこれからだそうだ。想い人がいるらしい。そういう情報をおいそれと気軽に私に教え伝えてしまうところが若者らしい」


 くつくつと喉を鳴らして兄様は笑う。


「なぜ兄様に伝えてはいけないのですか?」


 素直に湧き上がった疑問を伝えると、ソーラス兄様は幼子を見るかのような眼差しで私を見た。


「私は別にアステライト殿を嫌っているわけではない。だが、好いているわけでもない。年齢差も少しあり、子供の頃から会うことはほとんどなかった。そんな感情を抱くほど関わりがないのだ。隣領の当主同士、父上たちのように交流を持っていかなければいけないのはこれからだ」


 そのとおりだ、と納得する。


 同じ年代で学園にでも通わない限り、隣領だろうが遠く離れた領地の貴族だろうが、仲良くなれる機会は少なく、そもそも、自領で王立学園に匹敵するほどの学問を修められる領もある。


 ちなみに、王立学園は貴族が入る学校だ。成績優秀な平民が特待生として入学を許可されることもある。


 七歳から入学可能で、十三から十五までは、王都での寮生活が基本。

 十五歳以上は高等教育学部となり、十八まで在籍できる。広大な領地を持つ貴族の子らは、その歳まで在籍して、知識を磨くものが多い。


 跡継ぎとならなくても、要職に就くために勉強する。貴族の次男や三男、次女三女、教育者になったり学者や医者になる者もいる。


 ソーラスは十六歳のときに高等教育学部までの勉学を修め、領地へ戻った。

 本当ならもう一年早く修めることができる予定だったが、すべては十五のときに、出産を控えた母の身を案じ、父のかわりに領地へ帰っていたときにあった母と妹の失踪により、学園に戻ることが遅れたせいだった。

 もちろん、その事実を知っている者はほとんどいない。


 ソーラスより八歳下の王太子フォーレスタは、同じく十六の歳に高等教育学部のすべてを修め、王城で公務と帝王学に勤しむことを選んだという。


 それには理由があって。


「アステライトがいないから、学園がつまらなすぎる」


 と不貞腐れて言い放つほど、王太子フォーレスタはアステライト・ウォルフィンリードのことを気に入っていた。


 そんなアステライトは十五で学園で学ぶことを終え、自領へ帰り、そこで勉学にも励んでいたらしい。

 驚くべきは、彼が十六になったときには国も認める戦士の称号を得て、ウォルフィンリード軍を率いる将になっていたことだ。


 もちろん私は、学園になど通っていない。

 今から通うつもりもない。


 どちらかというと、十八歳の誕生日のほうが近く、兄からデビュタントのお披露目に、国王陛下の御前へ参る話を、ちらほら振られているくらいだ。


「私がもし、アステライト殿と敵対することを選ぶ、もしくは彼を、ウォルフィンリード辺境伯領を手中に収めたいと思ったとして、手っ取り早い方法はなんだと思う?」


 ソーラス兄様は、簡単な問題だろう? とばかりに緩やかに笑った。


 先ほどから交わされた言葉の中に、答えはもうある。


「彼の想い人を上手く活用する……」


 私の答えに、兄様は満足そうに微笑んだ。


「そういうことだ。ほんの些細な、何でもないと思うような情報でも、事実命取りとなることもある。……まぁ、向こうが私を信用してくれていると思っておいてもいいがな」


 そう続けたソーラス兄様の言葉に確かに含まれていた、嬉しさのようなもの。


 好きでも嫌いでもないと言っておきながら、ソーラス兄様はウォルフィンリード辺境伯のことをなんだかんだと気に入っているんじゃないか。


 隣領の当主様だ。

 そう遠くないうちに会うこともあるだろう。


 そして、いつかウォルフィンリードの稲穂の海を見に、訪問を許してくれるように交渉もしたい。


 いつになるかはわからないけれど。


 そうして、兄と二人だけの家族となった公爵家の兄妹の日々は始まったのだった。





リオノーラ

ソーラス

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