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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 激動のリオノーラ 1

 ステラはできるだけ早く会いに来たい、と言っていたけれど、今までも忙しかったステラがすぐのすぐにまた訪れてくれるなんて期待は抱かなかった。


 彼が去ってからもう一ヶ月。

 私はやっぱり、おおよそいつもどおりの日常に戻って暮らしている。


 ステラの訪れを大人しく待つだけ、なんて暮らし方はどうしても違和感があって、自分の在り方をよく考えた。


 私にできることはなんだろう。

 私はこれからどうやって生きていきたいだろう。


 考えれば考えるだけ、薬を作ることくらいしか自分に能がないことを改めて認識し、実感した。


 だからこそ、今まで作ったことのある薬を全部作ることにした。


 薬草を集めるところから開始し、季節的な薬草を必要とするもの以外は常備のものをもちろん使い、正確にレシピを再現し、技術を確かめる。

 蓄えた少ない知識を総動員して、経験を生かし、そこに少しの想像も加え、薬の性能を上げる。


 毎日毎日そんなことを繰り返し研究していたら、作る薬は全て特級を超えるものばかりになってしまった。


 大きな街で私の薬を冒険者組合に売って、その値段をよく知ってくれている村の雑貨屋のおばさんに、買い取れるほどの金が出せない、と言われて現状にハッとなった。


 ちょっと冷静にならなければいけない。

 買い取ってもらう値段を今まで通りに、なんて提案することも考えたが、それでは技術の安売りとなり、そして薬を売って生計を立てている他の薬師たちにも影響を出すかもしれない。


 今まで蓄えた金で、しばらくは生活にも困らないだろう。

 特級だらけの薬を売るのを一時的に止め、その日は素直に家に帰った。


 自分が持つ技術を最大限に振るっていればいい、というわけではないことを改めて知って、ちょっと打ちのめされてしまう。


 技術も、提供する物体(私の場合は薬)も、世間に合わせたものにする必要がある。


 その世間というやつを私はあまりにも知らない。

 一人で生きられても、世の中を知らなさすぎて、生きにくい。


 私はまさしくそれだ。


 本の中によく出てくる小悪党というやつは、こういう世間知らずを捕まえて、自分のいいように手のひらで転がして金を稼ぐ。上手く騙して、上手く手玉に取って。


 それを思えば、村の雑貨屋のおばさんは本当に私に親切だった。


 さて、これからどうしよう?


 私には、手本になってくれるような大人は身近にいない。


 この世間知らずに、今から親身に世間一般の当たり前を教えてくれるような物好きはいるのか?


 ふと、熱を出して倒れた十六歳のとき、一人で何でもできると自惚れるなとステラに怒られたことを思い出した。


 ああ、お節介な物好き、とはステラみたいな人のことを言うのかもしれない。


 くすりと笑って、売るに売れなかった特級の薬たちが入っている鞄を下ろそうとした。

 その途端、バリッと肌の上を電気が走ったような感覚があって、驚いて飛び上がった。


「なに…?!」


 ビリビリと痺れるほどの感覚。


 それが、この家にかかっている母のまじないの知らせだと合致するまで少しかかった。


 肌で感じる切迫感は、私のために危険を知らせるものじゃない。


 むしろ逆だ。

 今、この場所に訪れた者の危機を救えと駆り立てるもの。


 それほど危機的状態に陥っている者が訪れている?!


 ステラが初めてここに来たときにも、命の危機かというボロボロの様子であったのにもかかわらず、こんな反応しなかったのに。


 それはまるで、その者の血を一滴ですら流させるなと訴える、母の悲痛な意志にも感じられた。


 売り物にするはずだった薬の入った鞄を引っさげたまま、家を飛び出していた。


 辺りを見回し、まじないが知らせる気配のある先へ向かう。


 一人の人がいた。


 木々の隙間から夕陽が射す。

 西日の朱色を帯びた光を吸った銀色の髪が輝いた光景には、見覚えがあった。


 子供の頃、毎日のように見た、母の銀色の髪が輝く様。


「母様……?」


 思わず声に出して呼んでいた。


 そんなわけがない。


 それなのに、輝く銀色の髪は母のそれと同じ色味で。


 驚いてこちらを見た、夕方の光の中で見るその人の瞳の色も、顔立ちの面影も、記憶の中にある母とよく似ていた。


「……、…母様……?」


 「彼」もまた、私を見てそう呟いた。


 歩み寄ってくる彼の足取りに迷いはない。


 どこかで怪我を負ったのだろう、彼の服の腕の部分に裂傷があり、手のひらにまで血が滴っていた。


 その手を迷いなく、私に向かって伸ばしてくる。


 恐ろしくて、動けなかった。

 息は止まり、喉が引きつり、身動きも取れず、眼前に迫った彼の手を見ていた。


 だが、血にまみれたその手は私を掴むのではなく、包み込むように優しく、そして強く抱きしめた。


「やっと、…やっと、見つけた…っ、妹よ……!!」


 銀色の髪が、眼前にある。

 彼の口からこぼれた言葉に、私はただ驚くことしかできなかった。





リオ

銀色の人

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