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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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アステライトという辺境伯 3

 フォーレスタの行動は、本当に速かった。


 朝、「詳しいことは書簡に書いといた!!」と叫んで、自分の近衛に守られて小城を発っていった。


 言っていたとおり、エルトフォード公爵領を通って王都に帰るんだろう。


 まず一日かけて、エルトフォード領へ入る。用を済ませ、そこから早馬で王都まで二日。

 王都から見届け人とやらと荷物を早馬でこちらに送って三日。約一日は余裕がある。


 待て待て待て、本気で一週間後に結婚式?

 あ、いや、エルトフォード公爵令嬢が承諾しなきゃそもそもそんなことはないか。


 ……常識的に考えて、妙齢の令嬢がこんな奇妙な話受けるわけない。

 ……いや、でも、……王命だし?


 片手で顔を覆って、酷い脱力感に襲われてうなだれる。


 そもそも結婚しなくても、エルトフォード公爵令嬢を保護名目で預かれば……?

 いや、そうするとエルトフォード公爵に自分の妹を守る能力がないというレッテルが貼られるのか。駄目だな。


 俺の名で、ウォルフィンリード軍の精鋭をエルトフォード公爵家に護衛として渡す。

 当主不在の間に侵攻かと言われてもおかしくない。他の貴族から無駄なつけ込みの隙を与えそうだ。これも駄目だな。


 王太子の名で近衛を派遣?

 もちろん駄目だ。一つの公爵家に王族が直接目をかけてどうする。それこそ、エルトフォード公爵令嬢はフォーレスタの王太子妃候補という噂が立つ。


 そんなふうに、いくつもいくつも結婚以外の逃げ口を探して思考を巡らせている間に、四日が過ぎた。


 長年仕えてくれている家令長から早馬で手紙が届いた。


『王命により、エルトフォード公爵令嬢様が城へ到着なさいました。話し合いの場を持つためにも、結婚式の二日前、……一日前、……せめて数時間前までには何卒お帰りくださいませ』


 かなり慌てた筆跡だったのは、見て明らかだった。

 すまん。


 また、顔を押さえてうなだれた。


 城に来たってか?

 結構、肝の据わったご令嬢だな?


 王命云々があったとしても、この辺境伯領が境界の森と密接であり、絶えない戦いと粗野な軍、冒険者たちがあちらこちらにいて、決してお綺麗な貴族の令嬢好みの場所とは言えない。


 話し合いのため?

 ああ、穏便に国王に王命の撤回を求めるための話し合いに来たと考えればどうだ?


 当主であるエルトフォード公爵が不在なんだ。

 いくら女主人の権限を持たされていた妹御であっても、決めかねて、なんてことは考えられる。


 そうだ、そうに違いない。


 フォーレスタが提案してた結婚式の日時まであと約三日。

 ここから自城に帰るまで、一日あれば余裕だ。


 この程度の魔物の発生具合が続くようなら、各団長に任せて一日くらい城に帰ることは出来そ……。


「閣下!! 森と山脈の境目にて敵影多数!!」

「閣下!! 南のダンジョンの深層にて新種発見です!! 応援要請!!」

「閣下!! エルトフォード公爵領に近い最北の村で魔物に襲われた報告です!! 現地駐屯兵が耐えてますが…っ!!」


 同時に軍議中のテントに駆け込んでくる伝達兵。


 うん。

 なぜかそういう気がしてたし、帰還したいと望んだら、だいたい叶わないのが最前線で戦う者の運命だ。

 知ってる。


「騎兵隊二個小隊、最速で北へ、村人の安全を最優先。参謀長、昨日ダンジョンに潜りたいとかぬかして仮チームを組んでいた若人どもが今、休憩中だ。蹴り上げて先行させろ。ダンジョン深層部に慣れた者をすぐ選別して追わせろ。歩兵三個小隊ここに残れ。敵、殲滅後、一個小隊は北へ向かい、村の復興を手助けせよ。指揮は任せる。残り騎兵、歩兵二個小隊、弓兵隊、俺に続け」


 テントを出て、馬に跨り、森と山脈の境目を目指す。


 とりあえず三日後の結婚式とやらに間に合うかどうか、不明だった。




 

 森と山脈の敵と交戦しだして丸一日が経とうかというころ、今までに経験したことのない不思議なことが起こった。


 人を見れば襲いかからずにはいられない魔物たちが、交戦中に、一匹、また一匹と戦意を失ったように去っていこうとするのだ。

 もちろん、安易に逃がすなどできずに、矢の餌食となって果てるのだが。


 死した魔物は、特定の魔物以外、専門技術者が解体と処置をしない限り、魔石とある程度の部位アイテム以外のものを残して魔素となって消え失せる。

 その魔素がまた、ダンジョンや境界の森や山脈の深いところに勝手に溜まって、魔物が生み出される。

 魔石や魔物から得られる素材はそれはそれで今の人の生活に必要な物質なので、俺のこの戦いは無駄と言えば無駄だし、意味があると言えば意味がある。


 まぁ、放っておいて魔物が増えすぎて境界の森よりこちらの国土に溢れ出したら普通に国と民の存亡の危機なので意味がある、というほうが大きいかな。

 地上にあふれ出る魔物の量が減って、ダンジョンのみにだけ生まれる、とかになってくれたら楽でいいんだけど。


 そういった状況がエルトフォード公爵領だ。境界の森に隣接しているくせに、ほぼ、少なくないダンジョンの中だけに魔物が湧く。


『……魔女の影響だろうな』


 乾いた空を見上げる。

 すっかり夜は明けていた。


 ウォルフィンリード領は、境界の森に接する面積も山脈に面する面積もダンジョンの数も国内最多だ。


 当たり前の魔物の多さ。

 当たり前の戦いの日々。

 自領を、民を守る、当たり前。


 魔物の行動がおかしいこともあって、思っていたよりも早く制圧が済んだ。

 目処がついたな、と思うと同時に、歩兵団長が背後に控えた。


「閣下、間もなく制圧完了かと。北の村の無事を伝令で受けました。ダンジョンの方は未だ」

「分かった。報告は……、城の方へ届けてくれるか? 王命で、用がある。ちょっと帰ってくる……」


 ふらっとしかける足に力を込める。


「閣下、いくら王命でも、少しお休みになってからでもよろしいのでは?」

「こっから城まで、馬も疲れてるしな、一日半…? 時間がねえ。途中で馬を変えるために砦に寄るから、そこで少し休む」

「はっ」

「指揮権を各団長に移す。完了後、三方に分かれ、各小城と砦へ。不眠不休でついてきたいなら来てもいいぞ? その場合、副団長に指揮権を渡してこい」

「は…、閣下について城に戻るのですか? 確かに帰還は二ヶ月ぶりともなりますが、王命で一体何が?」


 気がつけば歩兵団長のみならず、弓兵団長も、騎兵副団長も控えていた(騎兵団長は北の村へ向かったから)。


 別に言わなくてもよかったんだけど、俺は多分、寝不足でなかなかに頭が回ってなかったんだと思う。


「俺の結婚式があるそうだ」

「ひょ…っ?!」


 歩兵団長が変な声を上げたが、とりあえず聞き流しておく。

 歩き出すと鎧が鳴った。それも少し耳障りだと思うほどには寝不足だった。


 団長たちが後方で大慌てで動き出す。どうやらついてくる気らしい。


 テントに戻って、最後に場の撤収の指示をもう一度確認して、兵糧を口に放り込むと、軍はすでに動き出していた。


 俺に付き従う者も決まったようだ。

 歩兵団長と騎兵副団長は指揮のために(泣く泣く)残るらしい。弓兵団長を筆頭に、歩兵副団長二人、騎兵から補佐が一人。

 全員騎乗して、城を目指し、一足先の帰還。


 ……のはずだったが。


 馬を変えに寄った砦で、さあ少し休むか、と多少身綺麗にした矢先、逃げるように移動している、という不思議な魔物の行動を目の当たりにして再び汚れた鎧を纏い、戦闘をこなし、処理と、魔物のおかしな行動の探査の隊を別で組み、指揮し、指示を残し、なんてしていると城へと出発するしかない時間になった。


 疲れた馬を駆って、城へ駆け戻った。

 前もって「話し合い」をする時間なんか取れそうにもなかった。




アステライト・ウォルフィンリード

部下皆々

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