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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 体調不良・発熱

 なんだか調子が悪いな。

 そう思った冬の終わりの日。


 春はもうすぐだというのに、ここ数日は急に冷え込んだ。また雪でも降るんじゃないかな?


 数日前、この分じゃ暖炉用の薪も足りないかもしれない、と無理をして村に買いに行ったあと、ひどく疲れた気がした。

 秋の間にもうちょっと薪を用意しておくべきだった。反省。


 朝、目が覚めた時にはもう部屋がキンと冷えていた。

 暖炉の火が尽きているんだ。


 ベッドから出にくい。 

 そして、ベッドの中、冬用のブランケットに包まっていても、なんだか寒い。


 ちらりと窓の外を見ると、小雪がちらついているのが見えた。

 寒いわけだ。

 起き出して、薪を取ってきて、暖炉に火を入れて……。


 のろりと目を閉じると意識が落ちて、全身が震えるのを感じて目を覚ました。


 口の中が燃えるように熱い。

 目も、頭もひどくぼんやりする。


 重い。

 熱い。

 なのにひどく寒い。


 ブルブルと筋肉が痙攣するように震えるのがわかった。

 熱があるのか、と思ったあと、また意識が落ちた。


 そして、また寒さで目が覚める。


 普段は母のほうが身体が弱かったけれど、小さい頃は私も幾度か熱を出して寝込んだときがあったなと思い出した。


 母が薬を飲ませてくれて、それがよく効いて、私も母のために薬を作れるようになりたいと思ったのが、今の私に繋がる最初の気持ち。


 その時みたいに、薬を飲ませてくれる母はいない。


 起きて、水と、薬を……。


 だらりと汗が肌を伝ったが、その冷たさに凍えても、身動きが取れない。


 また、まぶたが落ちてくる。

 ここ数年、こんなにもままならない状態になるような熱の上がり具合なんてなかった。


 大丈夫。

 しばらく眠ったら、きっと良くなる。 


 次に目を覚ましたら、多少無理をしてでも起きて、水を飲んで……。


 ……寒いなぁ…。


 子供のときのように、大丈夫? なんて心配してくれる母はもういない。

 私を心配してくれる人はもういない。


 だから、一人で頑張らなきゃ。


 ……そういえば、こんな森で一人で暮らしている私を心配してくれた人がいた。


 隻眼の狼さん、青空色の瞳の星。


「……ステラ…」


 この手を握ってくれたのは、もう一年近くも前のことだった。




 あれだけ寒さを感じていたのに、少し遠のいたみたい。

 口の中が渇ききっていて喉も痛かったのに、飲み込んだものがあって、渇きは少し癒された。


 重く歪む思考。

 まぶたを開けるのはまだ億劫。

 額に触れる少し冷たい、人の手の感触。

 離れていくそれが惜しく思えて、目を開いた。


「……ス、テ…ラ…?」


 熱で潤んでぼやけた視界に、大きな体躯、金色の髪、隻眼の青色。

 目覚めた私に気づいて微笑む優しさ。


「ああ、気分はどうだ? リオ?」


 さっき離れていったはずの大きな手が伸びてくる。


「さ、いぁ…く…、あた、ま、いたぃ…」


 そんな痛む頭をそっと撫でてくれて、額に手のひらが触れた。


「ははっ」


 声を上げて笑ってくれる。


 どうしてステラがここにいるんだろう?

 どうやって家にまでたどり着けたんだろう?


 それにどうしてこの狼さんは、こんなにも私の心配をしてくれるんだろう?


 頑張って起き上がろうとしたのだが、ほとんど身体は動かなかった。

 それに気づいたのか、ステラは慣れた手つきで、私を抱き起こした。


 危なげなくぎゅっと身体を抱き支えて、不安定さなどない。

 口元にコップを持ってこられて、微かにジャムの味がする水を飲み込んだ。


 ステラほど力があれば、人を抱き支えるなんて苦にもならないだろう。

 力強くあるのに、その手には気遣いが感じられて、ぎゅっとされていても痛くない。


 誰かに抱きしめられるなんて、いつぶりだ?

 間違いなく、母が死んで以来。


 どうしてステラはこんなにも優しくしてくれるんだろう?


 私に手当てを受けた恩返しのつもりかな?

 それとも、少しは私のことを特別だと思ってくれているなんてこと?


「いくらなんでも子供相手に、そんな気にはならん」


 まるで私の考えを見透かしていたみたいに、ステラはボソリと呟いた。


 ああ、うん、そうだよね。

 自惚れました。


 最初から、ステラは私を子供扱いしていた。

 手当てをしたときも、森で一人で住んでいる話をしたときも、全部、私が子供だから凄いって思ってくれたし、心配してくれた。


 今も、それと変わらない。

 こんな境界の森に一人で住んでいて、体調を崩して、ステラの世話になってしまって、ほら見たことか、って言いたいのをきっと我慢している。


 どうしてそう言わないんだろう?


 ……それも彼の優しさか。


「さ、寝ろ。朝になったらなにか食べて、薬が飲めるといいんだが、……あるだろう? 風邪薬だとか、熱冷ましだとか」


 薬部屋に、ちゃんと薬はある。

 それさえ取りに行けて、飲めていたら、こんなことにはならなかったはずだ。


 ゆっくりとベッドに寝かせられていく。

 だけど、ステラが言った言葉が気にかかった。


「……ス、テラ」

「ん?」

「朝、まで、居て、くれ、るの?」


 正直、今が昼なのか夜なのかも分からない。

 でも、彼は今、次の朝の話をした。


「ああ、いるさ。俺だって意識もないまま三日間、意識が戻っても丸一日、リオの世話になったのに、そんなあんたがこんな状況になって放置していけるわけはないだろう? まぁ、…多少、……時間の制限がないわけじゃないが」


 やっぱり忙しくはあるんだ。

 本当は長居なんてせずに帰りたかっただろうに、なんて申し訳ないことをしたんだろう。


「とりあえず明日の朝は絶対にいるから、安心して寝ろ。な?」

「ん……」


 まるで大きな手が頭を包むように撫でた。

 また、眠気が襲ってくる。


 でもそれは、今までとは違う眠気に思えた。


『……次に目を覚ましても、ステラはいてくれるんだ……』


 一人で夜を越すわけじゃないと思えたら、ひどく温かな気持ちが胸に灯っていた。


 まぶたが落ちて、大きな手が頭から離れていったときには、眠りに落ちていた。





リオ

ステラ

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