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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 狼を見送る

 きちんと食べて、きちんと眠って、負担のないように身体をほぐして動かしたステラは、驚くほどの回復を見せた。


 それでももちろん、まだ痛み止めのお世話にはならなければいけないほどだけれども。


 朝食をしっかり食べたあと、私が作った痛み止めを飲んで、ステラは鎧の壊れていなかった部分だけを身につけた。


 革の胸当て、腰回り、ズタズタじゃなかったほうの足の装備、使い込まれた籠手は片方だけ、両方の肘当て。


 私のもとには、壊れた鎧の金属部分がかなりの量、置いていかれることになった。

 肩胸胴部分なんてほとんどだ。


 剣がないのに、ステラは最後に帯剣ベルトを装着して支度を終えた。


「いいですか? 痛み止めのお薬は飲みまくっても意味がありませんからね? それ自体強力に作ってありますから、一日四回以上飲まないでくださいね? 鼻血吹きますよ」

「分かった。何から何までありがとう」


 追加の痛み止めと、数回分の食料と水、わずかばかりの路銀、応急処置用具と傷薬を入れた小さな袋をステラは軽く掲げて礼を言ってくれた。


「金も返しに来る。礼はその時に」

「別にいいですよ? あなたの言うとおり、この壊れた鎧を売ったらお金になるんでしょう? それでオアイコで」


 この壊れた鎧がいくらになるのか想像がつかないのだけれど、別に二束三文でも文句はない。


「太陽が昇ってきました。あちら、東へ向かってください。大きめの町に出ます。森は迷いやすいから、お気をつけて」

「大丈夫、境界の森歩きには慣れてるよ。じゃあ、行く。ありがとう、リオ」

「はい。さようなら、ステラさん。もうそんな大怪我、二度とないといいですね」


 ふふっと声に出して笑い合う。

 歩き出したステラを、手を振って見送った。


 すぐに、彼の姿は森の木々の向こうに消えた。


 私は家に帰り、一人、やり遂げた感たっぷりで息を吐いた。


「ああ、眠い……」


 ステラのための痛み止めを作るのに、ほとんど眠っていない。

 重責から解放されて、どっと眠気が襲ってくる。


 フラフラと、やっと本来の持ち主のものに戻ったベッドに倒れ込む。

 枕もシーツもまだ変えてない。


 そんなのあとあと。やる気力もない。


 枕に顔を埋めて、目を閉じる。

 消毒薬と傷薬、かすかな血と滲出液の匂い。


 そして。


『ステラさんの匂いが残ってる……』


 満足気に微笑んで、私は眠りに落ちた。





 ちなみに後日、ステラが残していった壊れた鎧を村の鍛冶屋に持っていって買い取ってもらったら、私が売る傷薬が全部特級だったときと変わらないくらいのお金になった。


 壊れていて、この値段かぁ。

 鎧って高いんだなぁ。

 希少な金属とか使ってるもんなぁ。


 それを平気で売ってしまえとか言えるステラはやはり、かなりの戦士なんだろう。


 冒険者としては、名が知れ渡るほど、とかかな?

 貴族やそれに連なる人だったら、そもそも一人で行動しているわけがないし。必ずお供とかがいる、んだよね、たしか。


 まぁ、もう会うことはないはずだ。


 いくらなんでも死にかけた境界の森にまたわざわざやってくるはずもないだろうし、言っていたみたいに私に礼をしにきてくれたところで、人避けのまじないのせいで家にたどり着きもできないだろう。


 私はいつもどおりの日々に戻るだけ。


 それでも、誰かを助けることができたという確かな事実は、私の人生に輝かしい思い出をくれた。


 母が与えてくれた知識は、私の中で無駄になっていない。

 それが何より、嬉しかった。





リオ

ステラ

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