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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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リオノーラの過去 星の名を戴く狼

 何ごともなかったかのように起き出して、服を着て、朝の支度。


 ええ、もちろん何ごともありませんよ?

 狼さんはまだ目を覚まさないし、寝息は穏やか。

 傷自体は熱を持っているが、全体的に熱が上がっている様子はない。


 新しく作った湯冷ましと、新しく選んだ薬草の葉っぱで今日も彼の口に水を運ぶ。


 昨日取り替えた包帯をきれいに洗って干して、目と背中と足の大きな傷の確認をする。

 膿んできたりしている気配はない。滲出液もしっかり出ている。


 傷の治り、早いような?

 母様の特級の薬のおかげかな?


 この様子じゃ、包帯を変えるのはもっとあとでもいいだろう。

 一日一回くらい。もしくは目を覚ましてからとかでもいいかもしれない。


 さて、まず今日やることは庭と、森に入るまでの境目で採れる傷薬用の薬草の採取。

 売るために作ったものが消し飛んだのだから、補充は必須。

 消毒液の蒸留は、昨日の夜に仕掛けておいたから確認するだけ。


 あとは狼さんの服を繕う。

 お裁縫は別に苦手というわけじゃないのだけど、こんなことになるならハサミを入れる場所をもっと考えるべきだった。

 出来上がりに文句を言わないでくださいね。

 ちらりと眠る狼さんの穏やかな寝顔を見てから動き出した。


 

 彼の傷の治りが異様にはやいことが確信に変わったのは、夜にもう一度、傷が膿んだりしていないかを確認したときだった。


 背中の矢傷の深さが心配だったけれど、そちらが一番よく治ってきている。

 身体強化系、もしくは治癒に特化された加護か祝福でも持っていないと説明のつかない回復力だ。


 ということは彼は貴族かそれに連なるもの。

 もしくはかなり凄腕の冒険者。


 あの満身創痍、血まみれ、ボロボロでありながら戦い抜いて、生き延びてここまで来た姿だけを見ても、彼が卓越した戦士だという答えにたどり着く。

 そんな者が加護の一つや二つ、祝福された血を持っていたとしても、私は驚かない。


 全身からドッと力が抜けた。


 ああ、彼の命は助かる。


 その確信を得られて、安堵で気が抜けた。

 肉体さえ回復すれば、彼は無事目を覚ますだろう。


 それがいつになるかは分からないが、そう遠くは思えない。

 あとは私ができるささやかな看病だけでも、きっと十分だ。


 薬草の葉っぱからまた彼の口に水を運ぶ。

 私がやった手当てのどれだけが彼のためになったのだろうか?

 もしかしたら、意味なんてほとんどなかったんじゃないだろうか。


 いや、そこまで卑下する必要はないか。

 祝福持ちだからと自力で回復したとしても、背中に(やじり)が刺さったままなのはさすがに嫌だったろうし。


 私は私のやれるだけのことをやったんだ。

 それだけのこと。


 全部の怪我に改めて薬を塗って、包帯を巻き直して、もうすぐ私の手当てが必要なくなることに、寂しさと安心感を抱く。


 とりあえず私がその他にできることと言ったら、この狼さんが、目を覚ました途端私の喉笛を噛みちぎりにくるような、怖いほうの狼じゃありませんようにと願うだけだ。


 生きることに執着するような性格じゃないけれど、一生懸命助けた人に殺されるのは嫌だなぁ、と至極真っ当だと思える感情を抱く。


 床に座り込んで、ベッドで眠る狼さんの大きな手が至近距離になるような位置に頭を置いた。


 大きな手だなぁ。

 戦う人の手ってこんななんだ。


 私の首なんて、この手でがっと掴まれたらイチコロで終わりだなぁ。


 物騒なことばかり考えるのは、素直に怖いからだろう。


 助ける命の善悪なんて、選べない。

 それでも助けると決めたのは自分。


 大きな手にそっと自分の手を重ねて、その無骨な手の硬さ、自分とのあまりの違いに小さく息を吐いて、目を閉じた。


 いつの間にか、彼と手を繋いだまま、眠ってしまっていた。

 

 


 朝に洗って干したシーツも、包帯もよく乾いた。 

 全部が真っ白になって、パリッと乾いただけでご機嫌になれる私はお安いね。


「ふんふ〜ん♪」


 シーツを畳みながら部屋へ戻って、棚の引き出しにしまう。

 次に狼さんの包帯を変えるときに、このシーツも一緒に変えよう。


 怪我の回復具合はとても順調だ。

 今日の夜ご飯に野菜もお肉もとろとろになるまで溶かしたスープを作って少し飲ませてみようかな? そろそろお砂糖と塩を加えた栄養水と薬草の雫だけじゃ、回復に支障が出るかも? せっかく立派な筋肉をお持ちだ、衰えたら可哀想?


「ほうたい〜♪ まっしろ〜♪」


 洗って乾いた包帯。消毒もしっかりしたし、血汚れもしっかり落とせている。これならまだまだ使える。

 衛生面は大事だけど、使えるものは使い回さないと、私はそんなに裕福ではありません。まぁ、生活に困るほどでもないけど。


 取り込んだかなりの数の包帯を腕にかけて、一つずつくるくる巻きながら戻る。


 思わず動きを止めた。


 ベッドの上、上体を起こしてじっとこちらを見ている、狼。

 青空色の瞳が、確かな意志を持って私を見ていた。


『歌ってたの、見られちゃった…!!』


 込み上げてきたのは、昨晩あれほど抱いた恐怖や驚きなんかじゃなくて、子供っぽいところをみられてしまったという、純粋な恥ずかしさだった。


 そして、狼は開口一番。


「……迷惑を、かけたようだ」


 なんだかちょっと上から目線だと感じなくもない言葉を紡いだ。


 良かった。

 とりあえず私は今すぐ頭からバリバリ食べられちゃうわけではなさそうだ。


 大きく息を吸う。


 ずっと引っかかっていた「助けなければ良かった」と思う瞬間がくるかもしれないと考えていた思考が、「助けて良かった」と思う気持ちで満たされる。


 狼は、ステラと名乗った。

 星の名前をいただく狼。


 ありがとう、と言ってくれた言葉が嬉しかった。





リオ

ステラ

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