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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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ウォルフィンリード辺境伯夫人として

現代

リオノーラ視点

 昼食の時間に朝食を取る羽目になったのはアステライトのせいだ、と内心憤りながら、筆頭メイド長ニビアの世話を受けた。


「ニビア、私の侍女は? ビオラは?」


 ビオラはエルトフォード公爵家から付いてきてくれた副メイド長であった私の侍女だ。

 もともと母の侍女をしていた経験もあり、公爵家に『戻った』私を見て歓喜し、一生の忠誠を誓ってくれて、この王命のウォルフィンリードへの急な輿入れという名の避難にもついてきてくれたのだが。


 ニビアは少し困った顔をして、髪を結い終わり、私の身支度を完璧に終えた。


「彼女は奥様の側付きを外されました。ご心配はいりません。今は城のメイドの然るべき地位に当てられ、ウォルフィンリード辺境伯城とエルトフォード公爵城の形式の違いを知るべきだと熱意を持って仕事に当たっております」


 ホッとしたのと、なぜ、と思ったのは同時だった。


「どうしてそんなことに?」

「今朝早く、ご当主様がお決めになられました。奥様の側付きは私めが」

「……」


 アステライトはどういう考えなんだろう?


 ウォルフィンリード辺境伯城の者たちは、兵から使用人にいたるまで、私を蔑ろにするとか、冷遇しようなんて根性の持ち主はいない。それもまた、狼辺境伯の威光による、彼の人柄からくる絶対的な仲間意識なのだろう。


 主君に恥じるような行動はしない。


 私は、数日前までは貴賓の隣領エルトフォード公爵令嬢で、今はお飾りでも、『白い結婚』の相手でも、ウォルフィンリード辺境伯夫人となった。

 そんな相手に、彼らはアステライトの機嫌を微塵でも損ねるような行動をしない。


 だからこそ、アステライトがもしも私を気に入らない、冷遇しても構わないと態度に表そうものなら、この全ては一斉に牙を剥く。


 もちろん、狼辺境伯がそんな狭量の人物でないことは、噂でも、物語でも、そして身をもって知っているけれど。


 それでも、私はただ一人の絶対的な味方を取り上げられてしまった。

 それに不安を感じないわけがない。


 落ち込みそうになる私の顔を、ニビアは鏡越しに見て、心配そうな顔をした。

 そっと手を貸されて、鏡台の前から立ち上がる。


「重々ご存知と思われますが、ご当主様の次に我々城内の使用人に対する命令権と決定権をお持ちなのは、奥様でございます。ウォルフィンリード領の内政に関することに唯一、ご当主様に意見することができるのは奥様ただ一人でございます」


 ニビアの進言に顔を上げる。

 そして、そうだ、と思い直す。


 これでも約三年、勉強と経験のためと、それだけの能力がある、と兄に見込まれて、エルトフォード公爵領の女主人が担う内政の仕事に携わってきた。

 城内の使用人の扱いもそのうちに入る。


 ちゃんとアステライトと話し合って、ビオラを私付きに戻してほしいと頼み、彼さえ「うん」といえば私の自由にしていいはずだ。


 メイド一人の異動など、領の情勢を傾けることに触れるとは思えない。

 ちゃんとお願いすれば、聞いてくれるに違いない。


「話しに行こうと思います。辺境伯様はどこに?」

「城に居られる間は、昼食がお済みになられたあとはよくご子息と警護兵士団と遊ん…、手合わせをしておられますが、奥様がお目覚めになられたらお知らせするようにと仰せつかっておりますので、お会いすることは容易かと」


 会う時間を優先的に取ってくれるつもりだったということに、安堵した。

 王命の結婚をした手前、結婚式が終わったら捨て置かれることも想像した。

 できればお互いのために、これからの生活のことを話し合いたいものだ。


 ……その、私の知らない『白い結婚』があるのかどうかも聞かせてほしいし……。


「案内を頼みます」

「かしこまりました」


 ニビアは丁寧に頭を下げて、私の前を歩き出した。




「今向かっておりますのは、主に警護兵士団と城下巡回兵士団を鍛える訓練場でございます。……奥様には、むさ苦しい場所かと思われます」


 途中で思い直したのか、ニビアは重そうな口調で説明をくれた。


「やはりお部屋で待たれて、ご当主様をお招きするほうが」

「気にしないで。エルトフォード公爵城にも訓練場はあり、騎士たちがおりました。ウォルフィンリードは魔物と戦う国の最前線。ちゃんと理解しております」


 私の答えに、ニビアはどこか心配そうな表情を浮かべた。 


「比べられるのが洗練されたエルトフォードの騎士たちでは私は心配になります。奥様は普段より粗暴な冒険者たちにお会いになったことは?」

「え、えっと、多くはありません、……いえ、嘘をつきました。一人、……いえ、一人もいないかも…」


 記憶にある冒険者という冒険者は、ステラだけだ。

 でも、その冒険者ステラも、正体はアステライト・ウォルフィンリード辺境伯だったのだから、実質言葉を交わすほどに接したことのある冒険者はいない、が正しい答えだった。


 ニビアが肩を落とすのが分かる。


「ウォルフィンリードの兵たちはお上品ではやっていけません。もちろん、それなりの教養と礼儀は、軍内で教育されているはずですがね。もし、奥様に粗暴な態度を取りましたら、すぐにでも声を上げて、すぐにご当主様に訴えなさることをお忘れなく」


 何かあったらすぐにアステライト(当主)を頼れと?

 私の立場は辺境伯夫人なのに?


「自分で対処せよとは言わないの?」

「それは主君としての立場を持っているのだから、というものですか?」


 こくこくとうなずいてみせる。

 辺境伯夫人として、内政の最高地位にいる者として、礼を尽くさない下の者を見事治めてみよ、などと言われるかとも思ったのに。

 

「奥様、それは正しい考えではありますが、あくまで一般的な貴族の家の例でしょう。ここはウォルフィンリード。先ほど言われた通り、毎日が戦いの最前線です。長年城に仕える我々メイドですら、兵たちと接するときは気を張ります。善い人だと分かっていても、明日には命を落としているかもしれないと心を張り詰めている者たちが多くおります。それは、どのようなときに、ふとしたきっかけで切れる糸なのか、誰にも分かりません」


 ニビアの言葉に深くうなずきながら傾聴する。


「そんな兵たちがただ一人、忠誠を誓い、戦い抜こうと剣を捧げる相手が我らのご当主様です。共に戦場を駆け、誰よりも敵を屠り、誰一人見捨てない。導き、支え、同じ死線を行く。それがウォルフィンリードの血統です」


 誇らしげな語り口調に、思わず笑顔が溢れた。


「だからこそ、何かございました時にご当主様を頼られることを躊躇われはしませんように。兵士、軍関係の者たちのことは特に」


 人さし指を立ててしっかりと教えてくれるニビアの注意に、微笑みをこぼしながらうなずいた。


 彼女だけでなく、どれだけの者たちがウォルフィンリードの血統を誇り、彼に仕えることを誇り、ここで生きることを誇っているのだろうか。


 きっとこれからも、そんな使用人たちの、兵たちの、領民たちの誇らしげな顔を見ることができるだろう。


 それだけでここに来てよかったと思えた。

 たくさんの人たちに慕われて、彼は決して孤独ではないと知れた。


 ほらやっぱり、私は『どちらでもよかった』。


 疲れてしまったから『何も知らないからこそ』気まぐれに頼って来てくれただけ。

 もう『何もかもを知ってしまった私』は、きっと必要ない。


「リオノーラ」


 名を呼ばれて、そちらへ顔を向ける。

 家令長シアンを伴って、アステライトがこちらへやってくるところだった。


 完全なる軽装。

 シャツとトラウザーズに革の胸当てと同じく革の腰鎧。片手だけに使い込まれた籠手。帯剣していたがこちらに歩いてきながら帯剣ベルトを外して、それをシアンに渡した。


 アステライトの大きな手が、ぐいと前髪をかきあげる。

 汗の浮いた額があらわになって、少し濡れた濃い金髪が流れた。


 私が今までに見たことのあるアステライトの姿のほとんどは鎧姿だ。

 激闘をくぐり抜けた後の破損した鎧と血装束。

 冒険者として身動きのしやすそうな、身体に馴染んだ革鎧。

 王侯貴族の前に出ても見劣りしないどころか目を引く鎧衣装にマント姿。


 その他といったら、全身包帯だらけだったり、……昨日の夜の一糸まとわぬ姿だったり。


『あわわわわ…っ』


 薄闇の中に浮かび上がった、鍛え上げられた無駄のない筋肉質な肉体。

 私を見下ろし、獲物を捕らえたと艶かしく細められた青い瞳の輝きを思い出して、必死で、必死で顔に出ないように心を偽る。


 ちょっと無理そうです!!


 ならばまずは、頭を下げよう。

 ドレス持って、ゆっくりと頭を下げる。


 今の間に落ち着いてください、私の心臓。

 そう願っていたのにバクバクと心音は耳元でしている気がする。

 それが落ち着く間なんてないうちに、大きな手が視界に入った。


「やめろ、リオノーラ。あんたが俺に頭を下げる必要はない」


 頭を下げていることこそが気に入らないと、ぐいと両手で包み込まれるように顎を引き上げられた。


「んぐぅ…っ」


 たったそれだけで、身体が浮きかける。

 シアンとニビアが慌てたのが見えた。

 ハッとなったアステライトの手がぱっと私から離れた。


「すまんっ!!」

「いえ、……でも、辺境伯様、それでは周りに示しがつきません」

「……それもやめろ。俺をそう呼ぶな、リオノーラ」

「ですが…、……では何と呼べば?」


 アステライトが一瞬、表情を険しくする。


 ステラと呼ぶわけにはいかない。

 呼ぶつもりもない。


 ……それは、存在しない人の名前だから。


 アステライトからの返事はない。考え、答え渋っているような苦々しい表情だった。


「よくある貴族の習慣内で考えますと、ご主人様、……旦那様?」


 ビクリとアステライトの肩が震えた気がした。


「一番はやはり、アステライト様、でしょうか?」


 名前を敬称付きで、が一番無難で、一番障りがないはずだ。


「……敬称は抜いてくれ。リオノーラ、あんたは俺の妻だ」

「……はい」


 そこに、名ばかりの、と付くはずだけれども。


 今度は優しく、とても優しく頬に指先が触れた。


「体調は平気か? よく眠っていたな。食事は取ったのか?」

「はい、ちゃんと。お気遣いありがとうございます」


 大きな手が頬を撫でる。

 耳元へ、首筋へ、目の下へ、アステライトが少し手を広げるだけで指が這うように触れていく。


 ゾクゾクと身の内側が震えた。

 たったそれだけで、昨日の夜の触れ合いの感触を思い出してしまう。


 くまなく肌を撫でた、大きくて硬くて無骨なこの手。

 ベッドの上で、反射的に逃げ出してしまいそうになる身体を押さえつけられて、抱きしめられて、熱を注ぎ込まれて。


 思い出して、とろりと思考が蕩けかかる。

 ギリギリのところで、どうにか踏みとどまれたのは、この場所に他にも人がいるからだ。


 私が知らない『白い結婚』の意味があるなら聞いておかなくちゃ。

 私と違って、アステライトは生まれも育ちも本物の貴族様なのだから。

 他にも色々聞きたいことも、言いたいことも、話し合わなきゃいけないこともある。


「あの、アステ、ライトさ、ま…」


 何度も何度も、アステライトの親指がふにふにと唇を撫でるから、上手く喋れなくて呼ぶ名が切れ切れになってしまった。


 困ったように見上げると、ハッと、本当にハッとした様子で、アステライトは私から手を離した。


 そのとき、ようやくまっすぐにアステライトを見た気がした。

 恥ずかしさや、申し訳なさや、いたたまれなさなんかでどうにもまっすぐ目を合わせきれずにいたせいで、自分から見ようと思って見たのは、結婚式のヴェールを上げてもらったあの時以来。


「アステライト様、お疲れではありませんか? あなたの方こそ、よくお休みになられましたか?」


 記憶が確かならば、明け方まで、……いや、朝はもう来ていたんだっけか、まで、私たちは繋がり合っていたわけで。


 彼の目の下にクマが出来ている気がした。

 先ほど身体を動かしてきたからだろう、全体的に血色は良さそうだが、なんだか、はっきりとはしないが、気になってしまった。


 一言で言うなら「いつ寝たの? アステライト様?」だ。


 なぜかアステライトの背後でシアンがソワソワしだした。どうもその行動の意味を汲んでみると、もっと言ってやってくれ、と言われている気がした。


「リオが気にする必要はない」


 それなのに、アステライトはバッサリと私の心配を切り捨てた。

 ぎゅうっと軋んだ胸の内側の痛みを、私は無視する。


「差し出がましいことを申しました」


 ゆっくりと頭を垂れて詫びた。


 そうだった。

 私に心配などされても、彼にはもう迷惑でしかないのだろう。

 でしゃばりも、おせっかいも、勘違いもしないように気をつけなければ。


 私は彼の『特別』にはなり得ない。

 私はお飾りの妻。これは王命による名ばかりの結婚。


 ウォルフィンリード辺境伯から、憐れで無力なエルトフォード公爵令嬢に庇護を与えるためであって、家族のように心配し合うなんて当たり前も必要ないのか。


 私からの心配など、やっぱりいらないのだ。


 何度だって心に刻み直して、身を正さなければ。


「あ……、…違う、リオ、だから俺に頭を下げないでくれ」

「いいえ、身の程はわきまえておりますゆえ」

「……くそっ!!」


 苛立った悪態がこぼれたのを聞いたときには、足が地面から浮いていた。


「ひゃあ?!」


 片手で軽々と抱き上げられる。

 頭の位置が、アステライトよりも高くなる。

 すぐ近くにアステライトの顔があって、青い目が私を見上げた。


「俺のことを気にする必要はない。リオノーラがこの城でどうやって快適に過ごしていけるか、考えてくれればそれでいい」 

「快適? もう十分良くしていただいております。私は客ではありません。今はあなたの妻で、ウォルフィンリード辺境伯夫人という立場にございます。民のために働かなくてなんとしましょう?」

「ふじ……」


 私を抱き上げ、支えているアステライトの手が微かに震えた気がした。

 それでもじっと見つめていたら、アステライトはぎゅっと強く目を閉じて顔を背け、それから口を開いた。


「直近の内政の仕事は今朝のうちにあらかた済ませた。急ぎじゃないもの以外、今、……妻、…夫人にやってもらう仕事はない。やってほしいことは、近いうちに御用達店の者が来るから、身の回りのものを揃えて、服とドレスを作ってくれ」


 確かに、エルトフォード公爵領から持ってきた荷物は極端に少なく、衣服は欲しいところだが、結婚式でもアステライトに告げたとおり、血税を無駄に使う気はない。

 躊躇いが生まれて、答え渋っていると。


「俺に、このウォルフィンリード領当主に、妻のドレスも揃えられない甲斐性なしという噂をたてられるようなことはしないでくれ。リオノーラの好みもあるだろう。エルトフォード公爵領から連れてきたメイドとニビアを必ず同席させて、ゆっくり選ぶといい」


 アステライトの口から出た、私のメイドのこと。


「ビオラを同席させても良いのですか? 彼女を私の元へ戻してもよろしいですか?」

「いや、側付きはあくまでニビアで。ビオラというのか? 彼女には色々学んでもらっている。ウォルフィンリードとエルトフォードとでは、やり方に違いがありすぎるのでな。だが、リオノーラが呼べば優先的にそちらへ行って構わない。……あまりにもべったりは困るが。必ずニビアか他の誰かを伴うんだ」

「はい、ありがとうございます」


 アステライトは私からビオラを取り上げようと思っていたわけではないようだ。


 嬉しくなって、アステライトの首に回していた腕に力がこもった。

 彼の金髪に寄り添うように頭を寄せてくっつく。


「うぐ…っ」


 とても小さく、アステライトが呻く声が聞こえた。


「俺はこのあと軍議があるから行かなきゃいけないが、他にももっと話し合わなきゃいけないことがあるのは分かっている。……時間ができてしまうな。……リオノーラ、内政というわけではないが、うちの薬師団の保管庫を見に行くか? あと、城内の調薬をしている場所も」


 アステライトが提案してくれたことに、驚きと喜びが込み上げた。


「よろしいのですか?!」

「ああ、なんなら調薬所で口を出して、リオが思う薬を調合してくれてもいい。前に塗ってくれた傷薬も、痛み止めもよく効いた。城の薬師たちも腕は良いんだがな、薬の種類は多くあってもいいもんだろう?」

「はいっ!! あ…、でも、私のような新参者が突然行っても……」


 アステライトは後ろに控えている家令長を振り返る。


「シアン、リオノーラについて行ってくれ。必ず一緒にいるように。彼女は俺の傷を見事治したこともある薬師だ。皆に学び合えと伝えろ」

「かしこまりました」


 シアンが丁寧に頭を下げる。


 アステライトは、私が薬師になりたいと言っていたことを忘れずにいてくれたんだ。

 そんな些細なことが嬉しい。


 エルトフォード城にも薬師団はいて、気になりはしていたのだが、立場上、そこに携わりに行くことは三年間、ついぞできなかった。


 アステライトは大手を振って、私に薬に関わる機会をくれた。


「ありがとう、アステライト」


 嬉しくて嬉しくて、つい、貴族の令嬢のフリが抜け落ちた。

 ただ本心から、ただ心からの礼をアステライトに笑顔で告げる。


 アステライトの青い目が驚きに見開かれたのを、間近で見た。


「閣下、軍議の時間でございます」


 少し遠くから、地位のありそうな兵がアステライトに呼びかけた。

 ギシギシと軋むような動きをしながらも危なげなく、アステライトは私を下ろしてくれた。


「それではお言葉に甘えて、薬を見に行ってまいります。アステライト様も午後のご政務、お励みくださいませ」

「あ、ああ」


 どこかぼんやりしたアステライトの返事を聞いてから、シアンに案内されて薬師団の保管庫を目指した。




 

 ちなみに。


 軍議に向かうため、兵に伴われて廊下を進むアステライトは、……途中で耐えられなくなって両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。


「閣下?!」

「なんでもない、ちょっとだけ待ってくれ…っ」


 不意打ちで食らったリオの笑顔は、可愛かった。


 ああいう笑顔をいつだって見ていたくて、妻にしてこの城で一緒に暮らすと夢見たのは、何年前からだった?


 もう四年以上前だ。

 それがようやく叶った。


 いや、こんなの、まだ些細な一歩だ。


 仕事があるから、どうしても側を離れなくちゃいけない。四六時中、目の届く場所に置いておくことなんてもちろんできない。


 だから、リオが逃げ出さないように、彼女の興味惹かれることを提案しただけ。

 薬師になりたかったこと、それに携わっていたいことは、今も変わっていないようだ。


 さも彼女のためのように振る舞ったが、俺に忠実な監視シアンまでしっかりそばにつけて、リオの行動を縛っただけだ。


『これで夕食時くらいまでは安心だろう』


 目を閉じて、小さな安堵を得て、眠気に眩む頭で考える。

 深く息を吸ってから、立ち上がった。





リオノーラ

アステライト

侍女ニビア

家令長シアン

城内の皆々


(ここまでが、応募に出した20話目にあたります。少しでも多く読んでもらいたくて、本来話数として切るところをかなり詰め込んだけれど、本当はもう2話だけでも読んでほしかった。うまくいかないものです。願うことは、続きを読んでみたいとおっしゃってくれた人にもしっかり続きのお話が届くように、最後まで掲載を続けます)

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