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狼辺境伯と魔女令嬢の白い結婚 不器用同士の恋が成就するまで  作者: 庭師K炎


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アステライトの過去 七年前 魔女?

「……それ、魔女じゃないのか?」

「は?」


 フォーレスタに指摘されて、素っ頓狂な声を上げた。


 ここは王城、王太子フォーレスタの私室の応接間。

 部屋の中にいるのは、どこか疲れの見えるフォーレスタとまだ怪我の治りきらない俺。


 ともにダンジョンに潜った五人の近衛騎士のうち、二人は室内で控え、残り三人は廊下に控えている。天井裏にフォーレスタの影が幾人も潜んでいるのは御愛嬌。


 俺がリオの下で治療を受けたりしていた四日間。そして移動に充てた二日。たった六日間の間に、フォーレスタはこの伝統儀式を使った王太子暗殺劇の決着を、ある程度つけ終わっていた。


 さる貴族が一家門、丸ごと消えた。

 ついでに後から加担したらしい、副騎士団長の一人が処刑された。


 彼こそ、フォーレスタを狙って矢を放った射手だった。俺の投げた剣が突き刺さって、もう騎士としては剣を握れない身体になっていたそうだ。


「こっちの細かいところはいいんだよ、アスタ」


 今日の愛称はアスタだそうだ。

 いちいち構っていたらきりがないので受け入れる。


「いや、俺のほうの細かいところも別にいいんだが……」

「いや、聞かせてくれよ!! 私がどんな思いでお前が戻ってくるのを待ってたか、聞く権利はあるだろ?」

「権利があっても、本当に治療を受けただけだ。説明することは何もない。それもかなり無理を言って、何も返せずに彼女のもとを発ったんだ。痛み止めを思いっきり飲ませてくれてな」


 腕を広げて、見ろよこの有様を、とばかりにフォーレスタへ晒す。


「だから、まだ目に包帯、か。……私もその子に会って礼が言いたいよ」

「帰りに寄って、きちんと礼をしようと思ってる。フォーもいつか会いに来ていいか聞いてやるよ」

「そうしてくれ。親友を救ってくれた者だ。褒美は思いのままと伝えてくれ」


 ソファーに深く背をもたせ掛け、フォーレスタは当然とばかりに彼女への恩賞を口にした。


「ああ、さすがに俺も限界だったから彼女が手当てをしてくれなければどうなっていたかと思うよ。若いのに腕は確かで、薬師になりたいと言っていた。なんなら将来うちの領で働いてくれないかな」


 改めて、受けた手厚い看護と薬の効果を思い出し、彼女に思い馳せる俺の様子にフォーレスタは感心の息を吐く。


「アスタがそこまで褒めるなんて……。なんなら王宮の薬師団の下へ来ればいい。勉強し放題だぞって伝えてくれ。推薦状書こうか?」

「それは将来有望な薬師を王宮で囲っちまおうって魂胆か? いつだって最前線のうちの領にこそ必要な人材だろ?」


 本人の意見も聞かずに、優秀な人材の取り合いを始めてしまう。

 お互いに笑顔で睨み合った。


「まぁ、少し先の未来のことは後回しでいい。そろそろ行く。俺が生きているっていう手紙はもう父上に送ったが、顔を見せるのが一番だしな」


 席を立つと、フォーレスタはそんな俺を見上げ、目を細めた。

 俺が五体満足であることを改めて確認し、安堵しているようだった。


「ああ、近々ウォルフィンリード辺境伯にも正式に謝罪と礼を届ける。もちろんお前にもな。アスタがついてきてくれなかったら、私は今頃あのダンジョンで死亡。国は一気に動乱だった」


 語られた想像は、あり得た、あまり考えたくないこの国の未来の様子。


「心配すんな。そうなってたら、お前の敵だけは絶対に俺が(くび)り殺してやってたろうから」


 そうならずに、王太子は無事で、殿(しんがり)を守った親友は生きて帰った。


 フォーレスタにはダンジョン踏破者の称号が付き、自らの手で命を狙ってきた逆賊たちを情け容赦なく処罰した為政者としての箔が付いた。


 普段から物腰柔らかで裏表のない、優しく朗らかな王太子のイメージから、将来国をまとめるのに必要な冷徹さを遺憾無く民に示した。

 そのすべてが自分を命がけで逃がしてくれた、安否の知れない親友に恥じぬ行動であったことを知っている者は、案外少ない。


 ウォルフィンリード長男は、奸計から王太子を命を賭して守った忠臣として讃えられることとなった。


 王家と辺境伯の絆はさらに深まり、次世代のアスラン王国も安泰だと、すぐに国民は噂するようになるだろう。


 自領へ帰る手筈を整えると、その日のうちに王都を発った。


 余裕を持っての帰路。

 境界の森に入り、記憶を頼りにリオの家に向かった。


 だが、どれだけ探そうと彼女の家にたどり着くことはなかった。


「嘘だろ…?」


 半日を彼女の家を探すことに当てたが、ついぞたどり着くことはできなかった。

 ウォルフィンリードの人間ほど、境界の森に慣れた者はいない。

 常人なら迷いもするだろうが、過信ではなく、自惚れでもなく、境界の森歩きで迷子になったり場所を見失うことはない。


 それなのに、たどり着けなかった。


 日が暮れかかるのを感じて、諦めて境界の森を出ることにした。

 予定していた、リオの家に寄る時間のすべてが、森を彷徨うことだけに費やされてしまった。

 後ろ髪を引かれる思いで、帰路につく。


 

 それから、彼女の家に再び訪れることができたのは、一年後のことだった。





アステライト・ウォルフィンリード

フォーレスタ・アスラン

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