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主君が大事すぎる侍従武官と侍女に、普通の恋は難しい  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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2/10

2話 侍従武官と侍女、一触即発

「ようやく気づきました?」


 は、とマリーは鼻で嗤う。どこか既視感があるなと思ったら、あれだ。たぶんさっき自分はこんな顔で笑ったに違いない。


「初めてお会いして以来、殿下は必要以上のお言葉をレイチェル姫におかけなさらない。この婚約に御不満がおありなのではないか、と姫君は心を痛めておられるのです!」

「そんなバカな!」


 怒鳴ってから、はたとレオは動きをとめた。

 というのも、互いに武器を持ってにらみ合っているこの状況を見て、人がチラホラ集まってきたからだ。


「と、とりあえず武器はしまいましょう」

「そうですね。私も殺し合いは本意ではありませんので」

「お互い、三、で」

「承知しました」


 レオとマリーは顔を見合わせ、同時に、それぞれ母国語で「1、2、3」を数えて、納め刀をした。


「それで、セオドア殿下のことですが」

 人目を避けるため、マリーを促してレオは回廊を歩き始めた。


「この国の男児は寡黙であることも美徳とされています。殿下はそれを体現……」

「だとしても『ごきげんよう』『さようなら』しかおっしゃらないようでは、寡黙を通り越して悪意しか覚えませんが⁉」

「ほかにも殿下はおっしゃってます!」

「へぇ、なにを?」

「な、なにを、って……」


 ついひるんでしまったのは、記憶のなかでセオドアがにこにこと微笑んでばかりいるからだ。


「殿下は聞き上手なのです!」

 つい拳を握り締めてマリーに力説する。


「我々武官のたわいない会話や、ご兄弟君の話など、セオドア殿下はそれはそれは慈愛に満ちた笑みで耳を傾け……」

「うちの姫君も聞き上手なのです」


 ぐ、とレオは言葉に詰まった。

 そう。

 片方が多弁であれば聞き上手はその威力を発揮するだろうが。

 ふたりとも聞き上手であれば、これ如何。


「いや、だが……。挨拶しかしないということはないでしょう!」

 レオは記憶をさらに深く探る。腕を組み、うんうん唸って気づく。


「ええ、セオドア殿下はお話なさってますよ。主に、レオ・アドルフ卿と」

 マリーに指摘されるでもなく、レオは冷や汗を噴き出していた。


 そうだ。

 記憶の中のセオドアは笑顔で話している。

 ……自分と。


「姫君は、『自分は場違いなところに嫁いできたのではないか』『殿下は衆道(BL)がお好きなのでは』と……」

「そんなことあるわけがない!」


 レオは怒鳴る。だが、マリーはじっとりとした目を向けてきた。


「そうですか? 我が国に比べ、この国の近衛や侍従武官は随分と外見が重視されているようですが。それはひとえに殿下の性癖によるものでは?」

「殿下は女性がお好きだ!」

「だとしたら性欲が薄いとか」

「そっち方面においてもすくすくと順調にお育ちである!」


 全力で主君の秘密を暴露しているような気もする。レオは咳ばらいをした。


「と、とにかく! 陛下からレイチェル姫との縁組をお聞きになって以来、セオドア殿下は非常に乗り気で! ご興味がないわけではない! きっと緊張なさっておられるのだろう!」

「緊張ねぇ」


 マリーは腕を組み、ほう、とため息をつく。まあ、言い訳としては妥当だ、とでも言いたげな顔だ。


「かといって、緊張がほぐれるまでずっと姫君に声掛けがないのは異常です」

「そう思うのであれば、そちらから殿下にお声がけしてはいかがか」

「は?」

「なぜ殿下ばかりが姫君のご機嫌をうかがわねばならんのか。そっちこそ殿下のご機嫌をうかがってはどうか」

「うかがった結果、すべて無言ニコニコなんですけど」

「にこにこされているのならいいではないか」

「薄ら笑いにも見えるんです」

「無礼者!」

「返り討ちにしてやる!」


 またもや両者抜刀し、そして他人の視線を感じて、無言で武器を納める。


「……とにかく、殿下はにこにこしている能天気王子ではない」

「いまのところ、その印象しかなく、姫君は絶望されておられます」


 口の減らない女め!と、レオはマリーをにらみつけた。


「では殿下が20歳の健やかで雄々しい男であるところを、姫君にもアピールしようではないか! 日を伝える故、練兵場に来られたし!」

「そのような一面があるとは皆目気づきもしませんでしたね」

「その代わり、そちらの姫君も、うちの殿下にふさわしい女性なのだというところを見せていただこう!」

「はあ⁉ いままでの奥ゆかしい態度や、慎ましい行いをみてもなにも感じないと⁉」

「ただじっとしているのであれば人形でもよいわ!」

「その口、潰してくれる!」

「来いよ!」


 またしても抜刀し、そしてにらみ合った結果、間合いは解いたが、今度は武器の放棄はない。保持したままだ。


「姫君はヴァイオリンの名手でもあらせられます。では、殿下の格技を拝見した後、場所を移して姫君のヴァイオリンをお聴きいただこうじゃありませんか」

「望むところだ」


 こうして、ふたりはにらみ合いつつ距離を離していく。互いが豆粒ぐらいになってからようやく背を向け、武器を戻した。



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