第8話:SSランクダンジョン『中央製菓工場』と、主従の連携射撃
グルルルル……ギュルルル……グォォォォッ!!
俺の緑色の腹の底から響き渡った飢餓の咆哮は、唸りを上げて走る『白い鉄の荷馬車』の轟音すらもかき消すほど巨大だった。
西へと続く石の道を疾走する鉄の荷馬車の席で、俺――ゴブは、三つ目の大きな背負い袋の中に頭ごと突っ込み、布の裏地にわずかに張り付いた茶色い秘宝の粉を必死に舌で舐め取っていた。
――ない。一欠片も残っていない。
黒弾で穴が開いた金色の箱から最後の柔らかい秘宝を救出して飲み込んでから、すでにずいぶん時間が経っていた。
身長百二十センチの小さな体に『レベル26』の超高密度筋肉を詰め込んだ俺の肉体は、早くも深刻な魔力炉(胃袋)の飢餓状態に陥っていたのだ!
「ゴブゥ……グガァァァッ!!」
俺は空っぽの背負い袋から頭を引き抜くと、前の黒い棚を小さな拳でバンバンと叩き、丸い舵を握る俺様の鞄持ち――ハルトへ向かって牙を剥いて吠えた。
(おい鞄持ち、その足元の板を床が抜けるまで踏み込め!! 俺様の魔力炉が完全に空っぽなんだよ! 今すぐ温かい神の脂と甘い蜜の海に飛び込まねえと、俺様はこの荷馬車の丸い舵を齧り始めるぞ!!)
もちろん俺の口からは獰猛な獣の唸り声しか出ていないのだが、隣で舵を握っているハルトは、俺を見るなり感動で目を潤ませた。
「分かってるよ、ゴブ……! 一刻も早く工場に辿り着いて、中に取り残されている生存者の人たちを助けたくて、武者震いが止まらないんだね!」
ハルトは丸い舵を強く握りしめ、力強く頷いた。
「自分のお腹が空いているのに、どこまでも人類の平和を優先するなんて、なんて気高い守護精霊なんだ……! あと一分で着くから、もう少しだけ我慢しててくれ、僕の小さな英雄!」
(……誰が生存者の心配なんかするかボケェ! 秘宝が切れて目が回ってんだよ!)
俺が苛立ちのあまり体を縛る帯に噛みつこうとした、まさにその時だった。
割れた横の窓から、生暖かい一陣の風が吹き込んできた。
俺のキャベツの葉のような長い耳が、ピクリと垂直に跳ね上がった。
鼻の穴が限界まで広がる。
灰色の空気の中に混じっていたのは、石や錆びた鉄の臭いではなかった。
それは、山のように焼かれた香ばしい神の豆と、熱でドロドロに溶かされた甘い神の脂、そして濃厚な乳の甘い香りが巨大な風穴から吐き出される――天上の楽園の匂いだった!
「見えたぞ、ゴブ!」
ハルトが前方の透明な板の向こうを指差して叫んだ。
「あれが『武蔵野・中央製菓工場』……僕たちの目的地、『SSランクダンジョン』だ!!」
俺は窓から緑色の頭を半分突き出し、よだれを風になびかせながら前方を見据えた。
そこにそびえ立っていたのは、王都の城よりも巨大な灰色の石の要塞だった。
赤と白に塗られた三本の巨大な塔が空を突き刺し、壁の内側には巨大な銀色の大釜が並び、大木の幹のように太い鉄の管が建物から建物へと張り巡らされている!
(あったぞ……! 大木みてえな鉄の管と、神の秘宝がたっぷり詰まった銀色の大釜だ!! 鞄持ちの言った通り、この世界の神の宝物庫は本当に実在しやがったんだ!!)
だが、俺の愛しき秘宝の大釜と俺たちの間には、招かれざる先客たちが群がっていた。
要塞の分厚い鉄の正門前の広場には、ひっくり返った巨大な鉄の荷馬車の周りに五十体あまりの『感染死体(レベル1)』がひしめき合っていた。
しかもその群れの中心で、横の鉄扉を体当たりで破壊しようとしている三体のアンデッドは、他の雑魚よりも一回り以上図体がデカく、分厚い布鎧(作業着)と黄色い兜を身につけていた。
俺はすかさずスキル【捕食鑑定】を発動した。
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【種族:重作業員アンデッド(パワーローダー)――レベル:3】
【筋力:9/耐久:12/状態:筋繊維硬直化】
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ハルトは正門から三十歩ほど手前の道で白い鉄の荷馬車を停めた。
これまでのハルトなら、ここで荷馬車の中に隠れて震えているところだった。
だが、先ほど『レベル2』へと成長した俺の鞄持ちは違った。
ハルトは腰の帯から、街道の魔王の手下から奪い取った『黒鉄の短杖(38口径リボルバー拳銃)』を引き抜くと、凛々しい表情で扉を開けて外へ降り立ったのだ。
「正門の前に五十体の通常ゾンビと、三体の大型ゾンビが固まっているね!」
ハルトは黒い石の道の上に立ち、両手でしっかりと黒鉄の短杖を構えて言った。
「あいつらを倒さないと、門を開けてトラックで中に入れない。ゴブ、僕がここから銃で君の背後を援護する! 行け、僕の相棒、一緒に正面突破だ!!」
《契約主ハルトの『戦闘命令』を受領しました! 従魔ボーナスにより全ステータスが+10%上昇します!》
(フッ、言うようになったじゃねえか、俺様の『黒魔導師兼鞄持ち』よ! SSランクダンジョンの扉の開け方をたっぷり見せてやるから、後ろからしっかり援護しろよ!)
「ゴブァァァアアアアアッ!!」
俺は白い鉄の荷馬車の鼻先を蹴って大跳躍し、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を構えて五十体のアンデッドの群れのど真ん中へと緑色の隕石のように着地した!
――ドゴォッ! バキィッ! グチャァッ!!
いくら腹が減っているとはいえ、『レベル26』の俺とレベル1の雑魚とでは次元の壁がある。
俺は無駄な飛び跳ねを一切やめ、最短距離を直線的に踏み込みながら、鉄の棍棒の水平殴打だけで群がるアンデッドの膝と頭蓋骨をまとめて粉砕していった。
わずか少しの間で四十体の雑魚が肉片となって床に沈んだ、その時だ。
正門を叩いていた身長二メートル近い三体の『重作業員アンデッド(レベル3)』が、地響きを立てて三方向から同時に俺へと襲いかかってきた!
「グォォォォォォッ!!」
一体目の巨漢が振り下ろしてきた太い鉄の工具を、俺は鉄の棍棒の胴部分でガキィン!と受け流し、その回転力を利用して二体目の重作業員アンデッドの分厚い胸板へと、棍棒の曲がった鉤爪の先端を深く突き刺して後ろの鉄車に縫い止めた!
――ドスッ! メキョッ!
だが、レベル3の硬直した分厚いあばら骨と布鎧に棍棒の曲がった爪が食い込み、俺の鉄の棍棒がほんの一瞬だけ敵の胸から抜けなくなった。
そのわずかな隙を突いて、三体目の重作業員アンデッドが俺の真後ろの死角へと回り込み、腐った大口を開けて俺の首筋へと噛みつこうと飛びかかってきた!
(チッ、棍棒の爪が引っかかった! 手を離して裏拳で叩き潰すか――)
俺が鉄の棍棒から手を離そうとした、その刹那。
三十歩後方の荷馬車の前から、ハルトの鋭い声が響いた。
「僕の大切なペットに指一本触れるな、化け物め!!」
――ズガァンッ! ズガァンッ!!
乾いた二つの雷鳴が広場を切り裂いた。
俺の右耳のすぐ横を、目に見えない超高速の『黒弾』が二発立て続けに通過し――俺の背後に迫っていたレベル3の重作業員アンデッドの左目と眉間を、寸分の狂いもなく正面から撃ち抜いたのだ!
頭蓋骨を内側から吹き飛ばされた三体目の巨体が、俺の背中に触れることなく仰向けに倒れ込む。
俺はその隙に鉄の棍棒を引き抜き、残る一体目の頭蓋骨を真横に叩き割って、正門前の広場を完全に沈黙させた。
《感染死体(Lv.1)を50体、重作業員アンデッド(Lv.3)を3体討伐しました!》
《レベルアップ! レベル26から『レベル27』に上昇しました!》
《主従の連携討伐ボーナスにより、契約主『ハルト』がレベル2から『レベル3』に上昇しました!》
俺は肩に鉄の棍棒を担ぎ直し、後ろの荷馬車へと振り返った。
そこではハルトが、まだ白い煙のくすぶる黒鉄の短杖を両手で構えたまま、誇らしげな笑顔を浮かべていた。
(……す、すげえじゃねえか!!)
俺は感嘆のあまり、自分の緑色の胸板を拳でドン!と叩いた。
(三十歩も離れた場所から、俺様の耳をかすめもせずにレベル3のアンデッドの目玉を正確に撃ち抜きやがったぞ! こいつ、さっき【黒弾の魔導具】を拾ったばかりなのに、もう魔王軍の上級魔導師並みの精密射撃を身につけてやがる! こんな頼もしい黒魔導師の鞄持ちが背中を守ってくれるなら、俺様は両手で秘宝を食いながらでも戦えるぜ!!)
「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!(見事な黒弾魔法だったぞ、鞄持ち! よし、このままこの鉄の門をぶち破って秘宝の大釜へ突撃するぜ!)」




