↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/33

第6話:異常な燃費のレベル25と、白い鉄の荷馬車(トラック)救出戦

身長百二十センチの小さな『ゴブリン・スカベンジャー(腐肉漁り)』の肉体のまま、ステータスだけを『レベル25』まで圧縮強化してしまったことには、たった一つだけ致命的な欠陥があった。


それは――『生命力の消費(腹の減り具合)』が異常に激しくなったことだ。


バリボリ、モグモグ、ゴクン。


西へとまっすぐに伸びる巨大な黒い石の道(街道)のど真ん中を歩きながら、俺――ゴブは背中に背負った二つ目の大きな背負い袋に緑色の鉤爪(かぎづめ)の手を突っ込み、香ばしい木の実が丸ごと入った茶色い『神の秘宝(ミルクチョコレート)』の板を取り出した。


金色のキラキラした皮を牙で引き裂き、二口で丸呑みにする。

舌の上に乗せた瞬間にトロリと溶け出す『甘い神の脂』と濃厚な乳の甘みが喉を通り抜けた瞬間、頭の中にシステム音が響いた。


《契約の供物【高級ミルクチョコレート】を摂取しました》

《高密度筋繊維(全ステータス85以上)を維持するための魔力エネルギーへと変換されます》


「えっと、ゴブ……もしかして、もう二つ目のリュックも空っぽにしちゃったのかい!?」


俺のすぐ横を歩いていた俺様の専属『鞄持ち兼ダンジョン案内役』――黒い枠の目のガラス(メガネ)をかけたレベル1のひ弱な人間・ハルトが、自分の水入り袋の肩紐を握りしめながら目を丸くして叫んだ。


「あのデパートの地下から、最高級のチョコレートを十五キロ分も詰めてきたんだよ!? 普通に食べたら二週間は持つはずなのに、出発してからたった三時間で二つのリュックを全部食べ尽くしちゃうなんて……!」


「ゴブ。グガ、ゴブゴブ」


俺は口の周りについた茶色い秘宝を手甲で拭い、呆れたようにハルトを見上げて喉を鳴らした。


(何を寝ぼけたことを言ってるんだ、このレベル1のモヤシ鞄持ちめ! 人間の大人二十五人分の怪力をこの百二十センチの小さな体に押し込めておくのに、どれだけ魔力と生命力を食うと思ってやがる! 少し歩くたびにこの甘い神の秘宝を腹いっぱいに詰め込まねえと、俺様の胃袋が自分の肉を食い始めちまうんだよ!)


もちろん、ゴブリンである俺の喉からは「ゴブ、グガ」という獣の唸り声しか出ない。

だが、この人間の鞄持ちの良いところは、俺の鳴き声を勝手に都合よく解釈して納得してくれるところだった。


「そっか……ごめんよ、ゴブ! ゾンビの瘴気(しょうき)から僕たちを守る『聖なる結界』を維持するために、常に大量の糖分を燃やし続けなきゃいけないんだね!」


ハルトはハッとしたように神妙な顔になり、自分の両拳をギュッと握りしめた。


「君は日本をこのパンデミックから救うために、僕を選んで契約してくれた誇り高き守護精霊(ペット)だ。いつまでも君一人に戦わせて、僕が後ろに隠れているだけじゃダメだよね。僕も君の主人(マスター)として強くなって、君の隣で一緒に戦ってこのゾンビ危機を終わらせるよ!」


(……聖なる結界だあ? 危機を終わらせるだあ? 俺様がてめえを生かして連れて歩いてやってるのは、てめえが『秘宝のダンジョン』の描かれた羊皮紙(地図)を読めるからってだけだぞ!)


俺は鼻をフンッと鳴らすと、この世界に転生して最初に拾った愛用の武器――俺様が『鉤爪付きの鉄の棍棒』と呼んでいる六角形の頑丈な曲がり鉄棒を肩に担ぎ直して、黒い石の道の上を歩き続けた。


奥歯に挟まった香ばしい木の実を噛み砕きながら、俺は視界の端に浮かぶ半透明のステータスウィンドウを見つめた。


前世の剣と魔法の世界エルドリアでは、俺は十五年間ずっと『レベル7』のまま、泥水をすすりながら生きてきた。あちらの世界では森の角ウサギですらレベル12あり、俺は腐った死肉や苦い甲虫を齧るしか能のない最底辺だったのだ。


それなのに、この異世界に来てからまだ丸一日も経っていないというのに、俺のレベルは7から『25』へと跳ね上がっていた!


理由は単純だ。

この世界を滅ぼした『ゾンビ』とかいう連中は、全員が『レベル1』の雑魚中の雑魚なのだが、システム上は腐っても【アンデッド系モンスター】として判定される。

しかもハルトと結んだ【従魔(ペット)契約】の恩恵によって、神の秘宝(チョコレート)を腹に入れた状態でアンデッドを叩き潰すと『獲得経験値が+300%(4倍)』になるため、エルドリアでは考えられないほどの無法なスピードでレベルが上がり続けていたのだ!


(このまま秘宝を食いまくってダンジョンを潰し続ければ、俺様はどこまで強くなれるんだ……? レベル50か? それともレベル100か!? そこまで強くなれば……前世で三日間腹ペコだった俺様の胸を、短い鉄の杖から放つ卑怯な【黒弾(こくだん)の黒魔法】で撃ち抜きやがったあの魔王軍の幹部魔族にも、借りを返せるんじゃねえのか!?)


俺は忌々しい前世の記憶を振り払うように頭を振ると、背中に残った最後の『三つ目の背負い袋』を叩いた。

中身の秘宝はもう半分しか残っていない。あと少し歩けば、俺の魔力炉(胃袋)は完全に空っぽになってしまう。


「幸い、目的地の『中央チョコレート工場(SSランクダンジョン)』まではあと十五キロだけど……」


ハルトは広げた地図を見ながら、心配そうに眉をひそめた。


「道路の上も乗り捨てられた車で塞がっているし、歩いて行ったら着く前に日が暮れちゃうな。どこか動く車でも見つかればいいんだけど……」


ハルトがそう呟いた、まさにその瞬間だった。

百五十歩ほど先にある『空中に浮かぶ石の橋』の下から、巨大な獣が唸るような重苦しい音と、人間の悲鳴、そして何十体ものアンデッドのうめき声が風に乗って響いてきた。


「エンジンの音だ! ゴブ、あそこで生き残りの人が襲われているぞ!」


ハルトが空中の石橋の鉄柵の端まで駆け寄る。俺も鉤爪付きの鉄の棍棒を担いだまま、トコトコとその後ろについていった。


高さ八メートルほどの石橋から見下ろした道の真ん中では、ひっくり返った白黒の鉄箱にぶつかって動けなくなっている一台の『車輪のついた巨大な白い鉄の荷馬車』があった。

白い鉄の荷馬車の周囲には三十五体の『感染死体(レベル1)』が群がって側面を叩いており、荷馬車の屋根の上では、黒革の鎧を着た三人の大人の男たちが必死に手を振って叫んでいた。


「た、助けてくれーっ!! タイヤが引っかかって動けないんだ! おい、そこの橋の上にいる奴、この化け物どもをなんとかしてくれ!!」


俺はその車輪付きの白い箱を見下ろし、ハルトの袖をグイッと引っ張って、四本の指で下から上へ階段を作る『ダンジョンランク確認』の合図をした。


「ゴブ? グガ?(おい鞄持ち、あの白い鉄の箱は何ランクのダンジョンだ? 中に秘宝は入ってるのか?)」


ハルトは英雄としての使命感に目を輝かせながら、力強く頷いた。


「あれはお店じゃなくてトラック(乗り物)だよ、ゴブ! 三十五体のゾンビに三人の人間が囲まれている……『Dランクの救出ミッション』だ! 行け、僕の頼れる相棒(ペット)! あの人たちを助ければ、あのトラックに乗せてもらって中央チョコレート工場まで一気に行けるぞ!」


(な、なんだと!? あの車輪のついた白い鉄の荷馬車に乗れば、神の秘宝が大釜に詰まっている『SSランクダンジョン』まで歩いて行くより五倍も早く着くのか!? それを早く言え鞄持ち!)


《契約主ハルトの『Dランク救出命令』を受領しました! 従魔ボーナスにより全ステータスが+10%上昇します!》


「ゴブァァァアアッ!!」


俺は鉄の柵を蹴り、高さ八メートルの石橋から真下の道へ向かって砲弾のように飛び降りた!


――ドガアアアアアンッ!!


ひっくり返っていた白黒の鉄箱のど真ん中に両足で着地し、分厚い鉄板を踏み潰した反動で、俺は三十五体のアンデッドの群れの中へと突っ込んだ。


――ドゴォッ! バキィッ! グチャァッ!!


『敏捷88』に達している今の俺にとって、レベル1のアンデッドなど止まっているカカシと同じだ。

俺は地面すれすれを緑色の旋風のように高速回転しながら愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を振り回し、わずか二十秒足らずで、白い鉄の荷馬車を取り囲んでいた三十五体のアンデッドの膝と頭蓋骨をすべて綺麗に粉砕して沈黙させた。


《感染死体(Lv.1)を35体討伐しました》

《チョコレート契約ボーナス(獲得経験値4倍)が発動! レベル25から『レベル26』に上昇しました!》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。