第5話:地下聖域の決戦と、50トンの大釜への旅立ち
地下1階の広間に降り立った瞬間、俺の鼻の奥は天国のような香りに満たされた。
赤い灯りに照らされた通路の両側には、冷気のこもった透明な箱がずらりと並び、その中には金色の帯がかけられた高級ミルクチョコレートの箱や、金色の箱に入った柔らかい秘宝(生チョコレート)の塊が、手つかずのまま山のように眠っていたのだ!
だが――その一番奥、最も甘く気高い香りを放つ宝物庫の真正面に、そいつは立っていた。
俺は【捕食鑑定】を発動した。
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【種族:突然変異・重装鎧アンデッド――レベル:12】
【筋力:38/耐久:45/スキル:硬化皮膚】
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身長二メートル四十センチ。
異常に膨れ上がった筋肉が黒い布鎧を内側から引き裂き、両手には床から引き抜いた太い鉄の柱を握りしめている、文字通りの『Sランクダンジョンの主』だった。
レベル1の人間たちにとっては、絶対に勝てない災害級の怪物だ。
巨大なボスアンデッドは俺の姿を見つけるなり、地下の天井がビリビリと震えるほどの咆哮を上げ、俺を踏み潰そうと巨大な右足を後ろへ引いた――その時だった。
――グシャッ。
ボスアンデッドの血塗られた巨大な靴の裏が、床に落ちていた一箱の金色の箱を踏み抜いた。
箱の中から、香ばしい木の実の蜜が詰まった最高級ミルクチョコレートが十二粒飛び出し、汚い靴底の下で無惨な茶色い泥状に押し潰された。
時間が、止まった。
俺はボスの靴底にこびりついた、神聖な秘宝の残骸を見つめた。
それからゆっくりと首を上げ、二メートル四十センチの巨漢の顔を黄色い目で睨みつけた。
「……ゴブ。(てめえ……今、俺様の目の前で、神の秘宝を足で踏んづけたな……?)」
《固有状態【甘党の逆鱗】が発動! 全ステータスが一時的に『2倍』に跳ね上がります!》
ボスアンデッドが両手の鉄の柱を振り下ろすより速く、俺の姿はその場から消えていた。
ドンッ! と石の床が蜘蛛の巣状に砕け散り、俺の百二十センチの小さな緑の体は、目にも留まらぬ弾丸となってボスの胸板を垂直に駆け上がった!
そしてボスの太い首元の高さまで跳び上がった瞬間、俺はレベル21(バーサーク補正で筋力120相当)のすべての力を右手の『鉤爪付きの鉄の棍棒』に込め、覚えたての武器スキルを解き放った!
「ゴブァァァアアアアアッ!!(くたばれ、【暴食の痛撃 Lv.3】!!)」
――ドゴォォォォォォォンッ!!
俺の渾身の鉄の棍棒が、レベル12の突然変異ボスの顎の下から頭蓋骨を真正面に打ち抜いた!
雷が落ちたような衝撃音とともにボスの頭部が粉々に吹き飛び、二百キロを超える巨体が飾り棚から離れた通路の真ん中へドシン!と仰向けに倒れ込んだ。
《Sランクダンジョンのボス【突然変異・重装鎧アンデッド(Lv.12)】を単独討伐しました!》
《契約ボーナス+格上ボス一撃討伐ボーナスが発動!》
《レベルアップ! レベル22……23……24……『レベル25』に到達しました!(種族:ゴブリン・スカベンジャーのまま筋力・敏捷・耐久がすべて『85』を突破!)》
少しの後。
俺が切り開いた階段を通って、ハルトと屋上にいた三十人の生存者たちが、光る筒を手に恐る恐る地下1階へと降りてきた。
彼らがそこで目にしたのは、四百体以上のアンデッドと、街を恐怖に陥れていた巨大変異種が、バール一本を持ったたった一匹の小さな緑の生き物によって完全に殲滅された光景だった。
「た、助かった……本当に助かったんだわ!!」
「あの青年と、あの小さな緑の守護精霊様がデパートのゾンビを全部倒してくれたんだ! 奇跡だ、人類にはまだ希望があるぞ!!」
人間たちが涙を流して抱き合い、人類を救った気高き英雄の姿を探して拍手を送る中――。
当の俺は、一番奥の最高級チョコレート店の透明な飾り棚のど真ん中にあぐらをかいて座り込み、顔中と長い耳をチョコレートまみれにしながら、両手いっぱいに掴んだミルクチョコの塊と柔らかい生チョコを、頬袋をパンパンにして一心不乱に貪り食っていた!
「あはは、やっぱりここにいたんだね、僕の小さな大英雄!」
ハルトが飾り棚の前に歩み寄り、布で俺の口の周りのチョコを拭きながら、誇らしげに頭を撫でてきた。
「本当にありがとう、ゴブ! 君がこんなに強いなんて思わなかったよ。君がいれば、僕たちは本当に日本中の街を解放して、このゾンビパンデミックを終わらせることができるかもしれない!」
俺は白いチョコと茶色いチョコの二層板をゴクリと飲み込むと、ポンポコリンに膨らんだ緑色の腹を叩き、満足げにハルトを見上げた。
(世界を救うだのなんだのは知らんが、このSランクダンジョンのお宝は最高だったぞ、俺様の優秀な鞄持ちよ! これだけ腹いっぱいに秘宝を詰め込んでレベル25になれば、もしあの顔も知らねえケチな魔王の野郎が俺様にトドメを刺しに追いかけてきても、今度は俺様が逆にぶっ飛ばしてやるぜ!)
俺は店の奥にあった大きな背負い袋三つに、地下聖域中のミルクチョコレートの箱をパンパンに詰め込んだ。
だが、『レベル25』に圧縮強化された俺の異常な腹の減り具合を考えれば、この程度の量などすぐに食い尽くしてしまうだろう。
俺は三つの大きな背負い袋を背負って飾り棚から飛び降りると、ハルトの袖をグイッと引っ張り、彼が脇に抱えていた『さらに大きな羊皮紙(広域地図)』を指差して、再び四本の指でランクの階段を作ってみせた。
「ゴブ! ゴブゴブ?(おい鞄持ち、このSランクダンジョンの秘宝は全部回収したぞ! 次はどこにもっとデカいダンジョンがあるんだ? 案内しろ!)」
ハルトは台の上に大きな地図を広げると、ここから西へ離れた場所にある、赤い危険印が塗られた巨大な要塞を指差した。
「ここを見てごらん、ゴブ」
ハルトは正義感に燃える瞳で、俺に言った。
「ここから西へ行った場所に、何千体ものゾンビや危険な連中がうろつく一番危険な場所があるんだ。でも、そこはお店なんかじゃない。大木の幹みたいな鉄のパイプの中を温かいミルクチョコレートが川のように流れていて、50トンの巨大タンク(大釜)にチョコレートが貯蔵されている『中央チョコレート工場』――いわば『SSランクダンジョン』だ! ……さあ、僕の最高のペット! 世界を救うために、僕と一緒に来てくれるかい!?」
大木の幹のような鉄の管の中を流れる、温かい神の秘宝の川。
そして、50トンのミルクチョコレートが詰まった銀色の大釜。
俺の口の端から、キラキラと輝くよだれが一筋垂れ落ちた。
そしてレベル25に達した俺の黄色い瞳が、暗闇の中でらんらんと黄金色に輝き始めた。
俺は左手首の『契約の紋章』を小さな拳でドン!と叩き、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を出口へ向けて高々と掲げた!
「ゴブァァァアアアアアッ!!(今すぐ出発するぞ、俺様の愛しき鞄持ち!! 俺様の50トンの大釜に近づく奴らは、アンデッドだろうが俺様を追ってきた魔王軍だろうが、一匹残らずこの鉄の棍棒でミンチにしてやるぜええええっ!!)」
こうして、救出された人々の割れんばかりの拍手と歓声に見送られながら、「人類の救世主と気高き守護精霊」――もとい、「チョコ中毒のゴブリン様と優秀な地図読みの鞄持ち」の全く噛み合わない凸凹コンビは、50トンのミルクチョコレートと宿敵『魔王(?)』が待ち受ける西の荒野へと歩き出したのだった。
お読みいただき、誠にありがとうございます!
ゴブ様とハルトのすれ違いゾンビサバイバル、引き続き次話もお楽しみいただけますと幸いです!
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