第4話:『Sランクダンジョン』への突撃
血走った目で抗議する俺を見て、ハルトは困ったように苦笑いすると、広い石の道の突き当たり――広場にそびえ立つ『巨大な白い城塞のような石の建物』を指差した。
それは地上八階・地下二階まである超巨大な建物だった。
入り口の分厚い透明な扉は内側から木の机や棚で塞がれていたが、1階の奥には何百体ものアンデッドが黒い海のようにひしめき合っているのが見えた。
そして一番上の屋上では、逃げ遅れた三十人あまりの生きた人間たちが、白い布を振って必死に助けを求めていた。
俺はその巨大な城塞を睨みつけ、中から漂ってくる『四百体以上のモンスターの臭い』に身震いしながら、ハルトの袖を引いてランク確認の合図をした。
ハルトはゴクリと唾を飲み込み、しゃがみ込んで俺の緑色の両肩に手を置くと、これまでで一番真剣な顔で言った。
「いいかい、ゴブ。よく聞いてくれ。あの巨大なデパートは、これまでの建物とは次元が違う。あそこは――『Sランクダンジョン』だ」
「ゴ、ゴブッ!?」
俺の背中に電撃が走った。
Sランクダンジョン!!
前の世界なら、古竜が寝ている、足を踏み入れた瞬間に消し炭になる魔境だ!
「中には四百体以上のゾンビがいるし、地下へ降りる階段の前には、昨日赤い鉄の車をひっくり返した身長二メートル半の『突然変異ゾンビ(ボス)』が陣取っている」
ハルトはそう言ってから、声を潜めて悪魔の囁きを口にした。
「でもね、ゴブ。そのボスが守っている地下一階――通称『デパ地下』には何があるか知っているかい? そこはね、世界中から集められた最高級のチョコレート専門店が三十店舗も並んでいる『チョコレートの聖域』なんだ! 初日に鉄の扉が閉まったから、人間の略奪者も一人も入れていない。そこを攻略すれば、最高級ミルクチョコレートも、木の実入りのチョコも、柔らかい生チョコの山も全部君のものだ!」
(な……なんだと……!? まだ誰にも荒らされていない、最高級の神の秘宝の宝物庫が三十部屋も詰まった地下聖域だと……!?)
俺の脳内から、「Sランク」に対する恐怖が一瞬で消え去った。
代わりに湧き上がってきたのは、俺の神聖な秘宝の宝物庫に土足で居座りやがった四百体の不法占拠者どもに対する、煮えたぎるような殺意だった。
「ゴブァァァアアッ!(よくやったぞ鞄持ち! さすが俺様が見込んだ案内役だ! そこで大人しく待ってろ、五分で全部ミンチにして秘宝を回収してくる!)」
俺は進化こそしていないものの、すでに『レベル16のゴブリン・スカベンジャー』だ。筋力は人間の大人の二十倍を超えている。
俺は右手に握った相棒――この世界で最初に拾った六角形の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を強く握りしめた。
俺の魔力を吸ったこの頑丈な鉄の棍棒一本あれば、どんなSランクダンジョンだろうが正面から叩き潰せる!
「頼んだよ、僕の最高のペット! 屋上の人たちを助けて、地下の聖域を解放するんだ! 行け、ゴブ!!」
《契約主ハルトの『Sランク攻略命令』を受領! 秘宝への渇望と従魔ボーナスが共鳴し、全ステータスが+30%上昇します!》
「ゴブァァァアアアアアッ!!」
俺は黒い石の道を蹴り砕く勢いで跳躍し、正面の透明な扉の上部を突き破って、四百体のアンデッドがひしめく1階大広間のど真ん中へと砲弾のように突入した!
――ガシャアアアアアアンッ!!
四百体の腐った顔が、一斉に俺の方を向く。
人間にとっては逃げ場のない場所も、身長百二十センチで『敏捷45』に達したゴブリンの俺にとっては、ただの狩り場に過ぎなかった!
俺は床を走らなかった。
ガラスの飾り棚から飾り棚へとカエルのように飛び移り、止まった鉄の階段の手すりを垂直に駆け上がりながら、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を緑色の旋風のように振り回した!
――ドゴォッ! バキィッ! グチャァッ!!
一体につきコンマ五秒。
群がるレベル1のアンデッドどもの頭蓋骨と膝が、俺の鉄の棍棒がかすめるたびに面白いように砕け散る。
1階から3階までの階段を塞いでいた百五十体を瞬く間に掃除して屋上の人間たちの逃げ道を切り開くと、俺の頭の中に心地よい祝福の音が連続で鳴り響いた。
《レベルアップ! レベル18……レベル20……『レベル21』に上昇しました!》
《※種族『ゴブリン・スカベンジャー』の限界突破ボーナスにより、外見とサイズはそのままに、筋力・敏捷・耐久が『上位魔族級』へと圧縮強化されました!》
《武器スキル【暴食の痛撃 Lv.3】を獲得しました!》
俺の身長百二十センチの小さな緑色の体に、鋼鉄のように高密度の筋肉が凝縮され、手にした『鉤爪付きの鉄の棍棒』が小枝のように軽くなる。
そして俺は1階の大広間へ飛び降りると、甘美な神の秘宝の香りが立ち昇ってくる『地下1階』へと続く大階段を、一気に駆け下りた!




