第3話:本物の『従魔契約』と、鞄持ちの案内役
ハルトは胸倉を揺さぶられても怖がるどころか、くすぐったそうに笑いながら俺の緑色の頭を優しく撫でた。
「あはは、そんなにミルクチョコレートが気に入ったのか! ごめんね、僕の袋に入っていたのは今のひと欠片で最後なんだ」
ハルトは空っぽになった金色のキラキラした皮を広げて見せた。
空っぽの皮を見た瞬間、俺は絶望で目の前が真っ暗になった。
「外のゾンビたちのせいで、チョコレートを作る工場も止まってしまったし、街の道もゾンビで塞がれているんだ」
ハルトは真剣な表情になり、懐から色とりどりの図形と人間の文字が描かれた大きな羊皮紙(街の周辺地図)を取り出して広げた。
「でも、街の中にあるお店を探せば、まだチョコレートは残っているはずだ! ねえ、君。正式に僕の『ペット(相棒)』になって、僕の指示でゾンビと戦ってくれないか? その代わり、僕がこの地図を使って、君に街中のチョコレートがある場所を全部教えてあげるよ!」
ハルトはそう言って、俺の前に右手を差し出した。
俺は人間の言葉の細かい意味までは分からなかった。
だが、俺は魔力の世界エルドリアの魔物だ。
人間が明確な『供物の提示』と『使役の条件(指示に従って戦う)』を口にしながら手を差し出した瞬間、俺の血に刻まれた古の魔法法則が、その言葉を一字一句違わぬ『魂の契約書』へと翻訳して頭の中に響かせた!
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《人間『ハルト(Lv.1)』が、あなたに【従魔契約】を申請しています》
《契約条件:あなたは契約主ハルトの戦闘指示に従い、その生命を保護する義務を負う。対価として、契約主ハルトはあなたに神の秘宝『ミルクチョコレート』を継続的に献上する義務を負う》
《※契約主が秘宝の提供を怠った場合、契約主には『魔力逆流の呪い』が発動します。契約を承認しますか?》
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俺はゴクリと唾を飲み込み、ハルトの手にある地図を見た。
俺はこの世界では無敵の強さだが、決定的な弱点が一つだけあった。
俺は『人間の文字』が一切読めないし、どこにこの茶色い秘宝が隠されているのか見当もつかないのだ!
俺の目から見れば、外に立ち並んでいる「アンデッドがうろつき、奥に秘宝の宝箱が眠っている四角い石の建物」はすべて『ダンジョン』だった。
そして、目の前の戦闘力ゼロの貧弱な人間ハルトは、この世界で唯一『秘宝ダンジョンの地図解読スキル』を持った貴重な『生きた地図(案内役)』なのだ!
ちなみに『ペット』という人間の言葉が何を意味するのかは知らなかったが、ハルトが俺にうやうやしく秘宝を献上する契約である以上、きっと人間の言葉で『秘宝の最高司令官』とかそういう偉い王族の称号に違いない!
「ゴブッ!!(よっしゃ契約成立だ! 今日からお前を俺様の専属『鞄持ち兼ダンジョン案内役』に任命してやるぞ、人間!)」
俺がハルトの右手をパシッと握り返した瞬間、黄金色の魔法陣が俺の左手首とハルトの右手の甲に浮かび上がり、光の鎖となって二人の魂を結びつけた!
《【従魔契約】が正式に成立しました!》
《契約ボーナス発動:契約主から献上された供物を摂取した際、魔力変換効率が上昇し、一定時間『獲得経験値が+300%(4倍)』に増加します!》
「す、すごい……! 手から光が出て、本当に魔法のペット契約が結ばれたぞ!」
ハルトは自分の手の甲に浮かんだ小さな金色の紋章を見て、少年のように目を輝かせた。
よし、これで準備は万端だ!
俺はさっそく自分の新しい『鞄持ち(ハルト)』の服の裾をグイグイと引っ張り、石の道の向かい側にある小さな建物を愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』で指差した。
そして、前世で人間の冒険者たちがダンジョンの入り口でよくやっていたように、四本の指で下から上へ階段を作る合図をして尋ねた。
「ゴブ? ゴブゴブ?(おい鞄持ち、まずはあの目の前の小手調べのダンジョンに突入するぞ。あれは『何ランク』のダンジョンだ? Fか? Eか?)」
ハルトは少しの間俺の合図を見つめていたが、すぐにポンと手を打って笑顔を浮かべた。
「ああっ、あのお店の中にどれくらいゾンビがいて危険か、『ダンジョンの難易度ランク』で教えてほしいんだね! なるほど、分かりやすいよ!」
ハルトは道の向こうの小さな小部屋を見つめ、真面目な声で言った。
「あそこは狭い売店で、中にいるゾンビも六体だけだ。ダンジョンで言えば一番簡単な『Fランクダンジョン』だよ! 行け、ゴブ!」
《契約主ハルトの戦闘命令を受領しました! 従魔ボーナスにより全ステータスが+10%上昇します!》
(Fランクダンジョンか! しかも鞄持ちの号令で体が軽いぜ! 待ってろよ、まだ見ぬケチな魔王め、俺様が下働きを断ったのを根に持ってこの世界まで追いかけてきたんだろうが、次は腹いっぱいの状態で返り討ちにしてやるからな!)
俺は『鉤爪付きの鉄の棍棒』を構えて黒い石の道を疾走し、小部屋の割れた鉄戸を蹴り破って突入した。
中にいた六体のアンデッド(レベル1)など、止まって見えるほど遅い。
俺は棚の上を飛び跳ねながら六体の頭を鉄の棍棒で順番に叩き割り、わずか十秒足らずで『Fランクダンジョン』を完全制圧した。
そして奥の棚を漁り、埃をかぶっていた『香ばしい木の実入りミルクチョコレート』を三箱発見した!
俺がその場で箱をむしり取って一口で頬張ると、契約ボーナスの『経験値4倍効果』が発動し、体の中がカッと熱くなった。
《レベルアップ! レベル8から『レベル10』に上昇しました!(種族進化なし:ゴブリン・スカベンジャーのまま基礎ステータスが大幅上昇!)》
「すごいよゴブ、バール一本で一瞬で売店のゾンビを全滅させちゃった!」
後から走ってきた鞄持ちのハルトが、目を丸くして褒め称える。
だが、三箱程度では俺の魔力炉の片隅にも足りない。
俺はすぐさま隣の建物を鉄の棍棒で指差し、「ゴブ!(次だ鞄持ち! あれは何ランクだ!?)」と鼻息を荒くした。
そこからの少しの間は、俺と鞄持ちによる怒涛の『ダンジョン巡り』だった。
二軒目は、二十体のアンデッドがうろつく薬草屋のような建物。
「あそこは通路が狭いドラッグストアだから『Eランクダンジョン』だ、気をつけてねゴブ!」
俺は棚の上から奇襲をかけて鉄の棍棒を振り回し、二十体を瞬く間に全滅させ、棚から『秘宝が塗られた焼き菓子』を五袋回収して丸呑みした。これで『レベル13』!
三軒目は、鉄の吊り扉が半分閉まった真っ暗な中規模の建物。
「このコンビニは明かりが消えていて、四十体以上のゾンビが詰まっている……『Dランクダンジョン』だよ!」
俺は暗闇でも見えるゴブリンの夜目を活かし、石の床を滑るように移動して四十体の足首を『鉤爪付きの鉄の棍棒』で薙ぎ払い、一匹残らず頭蓋骨を粉砕した。これで『レベル16』!
だが――Dランクダンジョンのアンデッドを倒し終えて奥の棚へ駆け寄った俺は、そこで愕然と立ち尽くした。
棚が、空っぽだったのだ。
この世界が滅びた最初の頃に、逃げ惑う人間どもが食料を持ち去ったせいで、棚には秘宝の包み紙のカスしか残っていなかった!
「ゴ、ゴブ……ゴブゥゥゥッ!!(な、ないぞ鞄持ち!! Dランクダンジョンを攻略したのに、宝箱の中身がからっぽじゃねえか!!)」
俺は床に落ちていた小さな茶色い粒を一つだけ拾って舐めながら、ハルトのズボンの裾を掴んで抗議した。契約書には「神の秘宝を継続的に献上する」と書いてあるのだ!




