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第31話:『神格ショコラティエ』覚醒! 魔王の黒雷を生チョコ大河に変えろ!

――ガギィィィィィィィィンッ!!!!


耳をつんざく激突音が玉座の間全体を揺るがし、俺様の鞄持ちであるハルトの足元の黒曜石の床がクモの巣状に砕け散った。

丸腰で立ち尽くすハルトの頭のすぐ上の空間。

空中でそこに割り込んだ百三十五センチの俺は、四本指の小さな緑色の両手で愛用の『鉤爪(かぎづめ)付きの鉄の棍棒(バール)』を必死に握りしめ、レベル80の魔王ヴァルガロスが振り下ろした巨大な『黒雷の大剣』の刃を、棍棒の平らな腹で真正面から受け止めていた!


「ゴ、ゴブ……!?」


煤(すす)で汚れた黒い枠の目のガラス(メガネ)の奥で、ハルトが驚愕に目を見開いた。

彼のすぐ目の前には、大剣の凄まじい重圧に耐えてブルブルと小刻みに震えている、俺の小さな緑色の背中があった。


「ど、どうして逃げなかったんだい、ゴブ!? 僕を置いて、外へ逃げて何か食べてって頼んだじゃないか! チョコレートがない今の君じゃ力が出せないのに……ここで僕の盾になったら、君まで死んじゃうよ!!」


「ゴ、ゴブウッ……グガ、ゴブゴブッ……!!(だ、黙って頭を下げてろ、このドジ眼鏡がァッ……!)」


魔力炉(胃袋)が完全に空っぽの今の俺にとって、レベル80の魔王の一撃は全身の骨が軋むほど重かった。

鉄の棍棒を握る俺の両手からは濃い緑色の血が滴り落ち、ギリギリと奥歯が鳴る。だが、俺にはここを一ミリたりとも退く気はなかった。


たしかに、地球であの鉄の扉の前でレベル1だったこいつを助けたのは、こいつが手に持っていた三欠片の神の秘宝(ミルクチョコレート)を奪い取るためだけだった。

たしかに、ここまでの旅の間も、俺様はこいつを「ダンジョンの羊皮紙(地図)が読めて、後ろから黒弾の魔法を撃てる便利な使い走り」として連れ回していただけだった。つい十秒前までは、黒弾も秘宝もなくなったこいつを「役立たずの荷物」とすら思った!


だが――緑の血を吐きながら魔王の剣を受け止める俺の脳裏に、ここまでの旅の光景が次々と蘇っていた。

この人間は、自分も四日間閉じ込められて餓死寸前だったくせに、最後の三欠片の秘宝を笑顔で俺様に全部くれた。

俺様が顔中を秘宝まみれにして貪り食っていた時も、化け物を見るような目ひとつせず、布で優しく俺様の口の周りを拭いてくれた。

俺様が究極進化しても神格進化しても背が『5センチ』ずつしか伸びなかった時だって、こいつだけは絶対に笑わずに、俺様の王としてのプライドを守るために涙ぐみながら拍手してくれたのだ!

そして今――自分だって怖くて膝がガクガク震えているくせに、俺様を逃がすために丸腰で魔王の大剣の前に立ち塞がりやがった!


(黒鉄の杖から黒弾が出なくなっただの、この世界の地図が読めねえだの、そんなことがどうしたってんだ……!!)


俺の黄色い瞳に、これまでで最も熱く獰猛な炎が宿った。


(いつも俺様の言葉を勝手に勘違いして、世界を救うだのなんだのと抜かしている、おめでたい『ドジでマヌケな人間』だけどよ……こいつは間違いなく、この俺様が見込んだ『俺様の鞄持ち』なんだよ!! 知らねえうちに情が移っちまったもんは仕方ねえだろうが! 自分の気に入った所有物に他人が指一本でも触れるのを許さねえ、それが誇り高きゴブリンの流儀なんだよォォォ!!)


『腹ペコの虫けら風情が、まだ粋がるか! ならば二人まとめて踏み潰してくれるわ!!』


魔王ヴァルガロスが黒雷の大剣にさらに体重を乗せ、俺の小さな膝がミシミシと音を立てて曲がりかけた――その瞬間だった。

俺のすぐ後ろで、ハルトの体の震えがピタリと止まった。


俺が自分の身を削ってまで彼を見捨てなかったことを知ったハルトは、一歩前へ踏み出して俺の小さな背中に自分の胸を重ねると、【従魔(ペット)契約】の金色の紋章が輝く右手を伸ばし、鉄の棍棒を支える俺の左手首の上から力強く握りしめた!


「……ありがとう、ゴブ!!」


ハルトはメガネの奥から熱い涙をこぼしながらも、魔王を真っ直ぐに見据えて魂の底から叫んだ!


「やっぱり君は、契約なんかじゃなく、親友である僕を見捨てないために残ってくれたんだね! たとえ武器がなくなっても、僕たちの心は一つに繋がっている! 今こそ奇跡を起こせ、僕たちの無敵の【友情の力】よおおおおおっ!!」


「ゴブゥゥゥゥゥーーーーーッ!!(誰が友情だボケェ、これは【ゴブリンの誇り】だ!! おいケチな魔王、俺様の『一番お気に入りの鞄持ち』に指一本触れるんじゃねえええええっ!!)」


――ドクゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!


ハルトの純粋すぎる友愛の叫びと、俺様の極めて自己中心的で熱いゴブリンの独占欲が、重なり合った二つの【契約の紋章】を通して正面衝突した、その刹那!

俺たちの手元から黄金と琥珀色の凄まじい光の奔流が爆発し、魔王ヴァルガロスの黒雷の大剣を弾き飛ばして、三メートルの巨体を二十歩後ろへと吹き飛ばしたのだ!


同時に、俺とハルトの頭の中に、限界突破した次元管理システムの荘厳な鐘の音が大いなる勘違いとともに鳴り響いた!


――――――――――――――――――――

《次元管理システムより最高位告知!!》

《契約主ハルトの【純粋無垢なる友情の力】と、従魔ゴブの【ゴブリンの誇り:俺様のお気に入りの鞄持ちに手を出すな!】が、200%の奇跡的波長で完全共鳴しました!!》

《システムは、両者が(考えていることは正反対でありながらも)互いを絶対に見捨てない真の運命共同体であると認定します!!》

《魂の契約条項第1条【神の秘宝(ミルクチョコレート)の永久献上義務】を遂行するため、契約主『ハルト(Lv.25)』の全レベル・全魔力・全銃器適性を、唯一無二の創造神格ジョブへと強制再構築します!!》

《覚醒完了:契約主ハルトが、神話級ユニーククラス【神格ショコラティエ(聖菓の創造主)】へと昇華しました!!》

――――――――――――――――――――


「えっ……!? 僕の空っぽの銃が、黄金の光に溶けていくぞ!?」


ハルトが目を丸くして自分の両手を見つめた。

弾切れになっていた地球の黒鉄の杖(銃器)がすべて眩い金の粒子となって融解し、ハルトの右手には黄金の糸が幾重にも編み込まれた美しい『黄金の泡立て器(金の網杖)』が、そして左手には白銀の光を放つ滑らかな『白金のヘラ(銀の平剣)』が顕現したのだ!


壇上の前で体勢を立て直した魔王ヴァルガロスは、ハルトの両手に握られたその小さな調理道具を見て、呆れたように狂気の哄笑を上げた。


『グハハハハハハッ! なんだその卵を混ぜる網と菓子作りのヘラは!? 恐怖で頭までおかしくなったか人間め! ならばその滑稽な台所道具ごと、塵ひとつ残さず消滅させてくれる――【魔王暗黒消滅波(デモニック・イレイザー)】!!』


――ゴオオオオオオオオオオオオッ!!


魔王ヴァルガロスが両腕を大きく広げ、一つの街を丸ごと消し飛ばすほどの黒紫色の暗黒魔力と黒雷の津波を、幅三十メートルにわたって俺たちへと撃ち出した!

だが、今のハルトは一歩たりとも退かなかった。

【神格ショコラティエ】の本能に導かれるまま、ハルトは俺の隣へ並び立つと、右手の『黄金の泡立て器』を高速回転させながら、迫りくる魔王の暗黒魔力の津波へと真っ向から突き出した!


「僕はもう、ただの役立たずの荷物じゃない! この手がある限り、僕の親友に二度と空腹の思いはさせないぞ! お前の邪悪な魔力はすべて、ゴブの最高のエネルギーになれ――【絶対製菓錬金:皇帝の極上ホットチョコレート&生チョコ大河(インペリアル・ガナッシュ)】!!」


――キィィィィィィンッ……ザバアアアアアアアアンッ!!


魔王ヴァルガロスの目の前で、この世界の魔法法則が根底から覆された。

ハルトの『黄金の泡立て器』の先端がレベル80の暗黒消滅波に触れた瞬間――死と破壊の黒雷魔力が、コンマ一秒のうちに空中で『撹拌(かくはん)・調温(テンパリング)・乳化』されたのだ!


禍々しい黒紫色の闇が、みるみるうちに艶やかで美しい琥珀色の茶色へと変わり、玉座の間じゅうに『香ばしく焼かれた神の豆』『濃厚な白い乳』『とろける甘い神の脂』の天上の香りが大爆発した!

なんと魔王の放った必殺の暗黒魔法が、空中で丸ごと【50トン分の出来立て熱々の最高級ホットチョコレートと生チョコレートの大河】へと作り変えられてしまったのだ!!


『な、なんだとォォォ!? 我が暗黒消滅波が……甘く香る茶色いクリームに変わっただと!? な、なんだそのふざけた魔法はァァァッ!?』


魔王ヴァルガロスが顔面蒼白になって絶叫する中、ハルトは左手の『白金のヘラ』を華麗に振るい、空中に浮かぶ50トンの出来立て秘宝の大河を俺の目の前へと流し込んだ!


「お待たせ、ゴブ!! 正真正銘、僕が君のためだけに作った出来立てのチョコレートだ、お腹いっぱい食べてええええっ!!」


俺は黄色い両目を巨大なハート型に輝かせ、自分の緑色の顎が外れるほど大口を開けて、飛んでくる50トンの温かい秘宝の大河を真正面から迎え撃った!


――ズズズズズズズズズズッ!! ゴクゴクゴクゴクゴクッ!!


俺は掃除機のような吸引力で、空中に浮かぶ50トンの温かい生チョコとホットチョコレートの奔流を、一滴たりとも床にこぼさず一気に胃袋(魔力炉)へと飲み干した!

その熱々で滑らかな甘い液体が俺の舌の上を通り抜けた瞬間――俺のゴブリンの脳天に、これまでの人生で最大の黄金の稲妻が突き刺さった!


(う……美味えええええええええええっ♡♡!!)


俺の長い緑の耳がピンッと垂直に跳ね上がり、黄色い目から歓喜の涙が滝のように噴き出した!


(地球の箱に入っていた秘宝も最高だったが、レベル80の魔王の純粋魔力を材料にして、俺様の【神格ショコラティエ(ハルト)】がその場で手作りしてくれたこの出来立て熱々の秘宝は、箱入りの『千倍』は濃くて甘くて美味えぞおおおおおっ!!)


――ドクゥゥゥンッ!! プシュウウウウウウウッ!!


俺の百三十五センチの小さな体から黄金の蒸気が噴き出し、両腕の傷口が一瞬で完全に消え去った!

ぺちゃんこだった緑色の腹がポンポコリンに膨らみ、頭の小さな王冠の上で消えていた『ドーナツ型の黄金の光輪』が、太陽のように眩い光を放って再点火する!


――――――――――――――――――――

《神話級供物【魔王魔力100%・出来立てインペリアル生チョコレート(神格EXランク)】を大量摂取しました!!》

《あまりの美味しさに魔力炉が世界の限界を突破!!》

《最高神権能【暴食神の絶対全能】がオーバーロード発動!!》

《個体名『ゴブ(Lv.100)』の全ステータスが999+を超越し、【測定不能:無限(∞)】へと突入しました!!》

――――――――――――――――――――


俺は口の周りについた温かいチョコレートを舌でペロリと舐め取り、黄金の泡立て器と白金のヘラを構えるハルトを、神を見るような目で見上げた。


(ど、どこの世界に、こんな人間を「役立たずの荷物」なんて呼ぶバカがいるかよ!! 黒鉄の杖も地図もいらねえ! こいつは敵が強力な黒魔法を撃てば撃つほど、それを俺様の口の中で『宇宙一美味い出来立ての秘宝』に変えてくれる、最高の【生きた秘宝の創造神】様じゃねえか!! よくぞこいつを守ったぜ俺様、この鞄持ちは死んでも誰にも渡さねえぞ!!)


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