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第29話:灰になった70トンの秘宝と、役立たずのお荷物!

黒曜石の柱が立ち並ぶ広大な『魔王の玉座の間』に、俺たちが乗り付けた十輪の銀の荷馬車(20トンタンクローリー)の白いタイヤの煙がゆっくりと広がっていた。


俺たちの目の前、三十歩先の高い壇上。

骸骨と黒鉄で造られた玉座の前に立ち上がったのは、これまでの幹部や将軍とは次元の違う絶対的な威圧感を放つ巨漢だった。

身長は三メートルを超え、全身は生きているかのように脈打つ漆黒の鱗鎧(うろこよろい)に包まれている。天井に届きそうな二本の巨大な黒角を生やし、その背後には純粋な闇と紫色の雷光で織られたマントが渦巻いていた。


俺はすかさずスキル【捕食鑑定】を発動した。


――――――――――――――――――――

【種族:エルドリア魔王『ヴァルガロス』――レベル:80】

【筋力:650/敏捷:620/耐久:680】

【固有権能:暗黒消滅炎/黒雷の断罪剣】

【精神状態:王の激昂・絶対的殺意】

――――――――――――――――――――


(ついにツラを拝ませてやったぜ、レベル80のケチな魔王の野郎め!!)


荷馬車の鼻先の上に百三十五センチの堂々たる巨体で仁王立ちした俺は、頭の黄金の王冠の上で『ドーナツ型の黄金の光輪』をギラリと輝かせ、右手の愛用の『鉤爪(かぎづめ)付きの鉄の棍棒(バール)』をミシミシと音が鳴るほど強く握りしめた。


(ほんの二十分前、沼地で三日間何も食えず腹ペコで動けなかったレベル7の俺様に、ゾルゴンとかいう手下を差し向けて『強制徴兵の試練』とやらで胸を撃ち抜かせやがったな! だがてめえの試練のおかげで、俺様は神の秘宝が眠る天国へ行って【ゴブリン・ゴッド(レベル100)】様になって帰ってきたんだよ! 今日はその自慢の角をへし折って、てめえに沼地の泥水をすすらせてやるぜ!!)


『……忌々しき自然のバグどもめ』


魔王ヴァルガロスの低く重苦しい声が玉座の間全体を震わせ、天井から巨大な岩の破片がパラパラと崩れ落ちた。


『徴兵の刻印は、死の異界で貴様の矮小な魂をへし折り、靴を舐める下働きに変えるはずだった……。だというのに、たかがレベル7の泥すすりの小鬼が神の力を盗み取り、古代勇者の鉄玩具を弄ぶ人間の虫けらを連れて戻ってくるとはな! 我が城門を砕き、我が軍勢を辱めた罪、万死に値する! 玉座守護獣ども、こいつらを八つ裂きにしろ!!』


――グルルルルル……グォォォォォォッ!!


玉座の両脇の巨大な柱の陰から、戦車ほどもある四つ足の黒き魔獣が十二頭同時に飛び出してきた!

それぞれ三つの頭を持ち、口から黒い獄炎を吐き出す魔王直属の番犬――『黒鎧の魔界ケルベロス(レベル60)』の群れだった!


「ゴブ、周りの魔獣は僕が食い止める! 君は魔王を頼む!!」


荷馬車の窓から身を乗り出した俺の鞄持ち――ハルト(レベル25)が、肩に担いだ『漆黒の超巨大魔導長杖(50口径・対物ライフル)』と右手の『爆裂魔石の連射筒(40ミリ自動擲弾銃)』の引き金を同時に引き絞った!


――ドゴォォォン! ドォン! ドォン! ドゴォォォン!!


ハルトが放った特大の黒弾と爆裂魔石の嵐が、先頭を走っていた六頭のレベル60のケルベロスの顔面に寸分の狂いもなく直撃し、紅蓮の爆炎とともに巨大な魔獣たちを床の上へと豪快に転倒させた!


「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!!(さすがだぜ、俺様の初代教皇! 残りの雑魚と魔王は俺様に任せろ!!)」


俺は荷馬車の鼻先を蹴り、黄金の稲妻となって空中に飛び出した!

『筋力999+』の神の剛力を右腕に込め、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を真横に一閃させて、残る六頭のケルベロスと魔王の張った黒い雷の障壁をまとめて薙ぎ払った!


――ズドドドドドドドォォォォォォォンッ!!!!


凄まじい神撃の衝撃波が六頭のレベル60の魔獣を木の葉のように壁へと吹き飛ばし、さらに壇上の黒い障壁をガラスのように粉々に砕いて、後ろに立つ魔王ヴァルガロスの巨体を半歩後ろへと押し下げた!


だが――俺が石の床の上に颯爽と着地した、まさにその瞬間だった。


――グゥゥゥゥゥ……ギュルルルルルルルルッ!!!!


雷鳴すらもかき消すほどの凄まじい飢餓の咆哮が、俺自身の『緑色の腹の底』から玉座の間じゅうに轟き渡った!

ピピピピッ! と視界の端のステータスウィンドウが真っ赤に点滅し、無慈悲な警告音が頭の中に鳴り響く!


――――――――――――――――――――

《重大警告!! 高レベル帯の強敵に対する【ステータス999+】の連続行使により、胃袋内の蓄積カロリーがすべて完全燃焼されました!》

《現在、体内の供物(ミルクチョコレート)の備蓄は『0%』です!!》

《直ちに追加の秘宝を摂取しなければ、神格魔力炉が停止し【極度の腹ペコ状態】へ転落します!!》

――――――――――――――――――――


(な、なんだとォォォ!? 百三十五センチの小さな体に神の力を押し込めて戦うと、こんなに腹が減るのかよ!? 道中で食った分の箱はもう全部消化しちまったぞ!!)


一秒の猶予もない。

俺はすぐさま後ろを振り返り、まだ『20トンの温かい液状チョコレート』と『残りの極上ロイヤル・ミルクチョコレートの木箱』がたっぷり積まれている銀の十輪荷馬車へと飛び乗ろうとした!


だが、魔王ヴァルガロスは伊達にレベル80の頂点に君臨してはいなかった。

その血のように赤い双眸(そうぼう)は、俺が玉座の間に突入する直前に荷馬車の木箱から茶色い塊を貪り食っていたことも、あの銀色の大釜から俺の黄金のオーラと同じ甘い香りが漂っていることも、すでに完全に見抜いていたのだ!


『……ほう。そういうカラクリか、緑の小虫め』


魔王ヴァルガロスが右腕を高く掲げると、その巨大な手のひらの上に、空間そのものを歪めるほど高密度の『漆黒の消滅炎球』が収束した。


『その分不相応な神の力、貴様自身の魔力ではあるまい。その銀色の鉄箱に積まれた奇妙な食料を燃やすことで無理やり維持している借り物の力だな! ならば――そのエサ箱ごと灰にしてやればどうなるかな!?』


「あ、危ないゴブ!! 魔王がチョコレートのトラックを狙ってるぞ!!」


ハルトが悲鳴のような声を上げて運転席の扉から石床へと転がり出ると、魔王の右腕を撃ち抜いて魔法を止めようと、『超巨大魔導長杖(対物ライフル)』と『連射筒』、さらには腰の『二本の短杖』を次々と構えて引き金を引いた!


――カチッ。カチッ。カチャ、カチッ……。


玉座の間に、乾いた虚しい金属音だけが響き渡った。

銃口からは白い煙も出なければ、黒弾も一発も飛び出さない。


「えっ……!?」


ハルトは血の気の引いた顔で、手元のすべての銃の弾倉を見つめた。


「う、嘘だろ……ここまでの街道の騎士団と、さっきのケルベロスを倒すのに撃ちすぎて……ライフルも、グレネードも、ピストルの弾も、地球から持ってきた銃弾が『一発残らず全部弾切れ』になっちゃったぞ!?」


俺が荷馬車へ駆け寄るより一瞬早く、魔王ヴァルガロスが情け容赦なく右腕を振り下ろした!


『消え失せろ――【暗黒消滅炎(ダーク・イレイザー)】!!』


放たれた極太の黒い炎の奔流が俺の頭上を通り過ぎ、後ろに停まっていた『20トンのタンクローリー』と『50トン分のロイヤル・ミルクチョコレートの木箱の山』のど真ん中へと直撃した!


――ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!


凄まじい黒炎の大爆発が銀の荷馬車を呑み込んだ。

しかも恐ろしいことに、レベル80の魔王が放った消滅の黒炎は、鉄の車体を溶かしただけでなく、中に詰まっていた俺様の愛しき【合計70トンの最高級ミルクチョコレート】を一瞬にして最後の一滴まで完全に蒸発・炭化させ、苦くて黒い『ただの灰の山』へと変えてしまったのだ!!


「ゴ……ゴブゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ!?!?」


俺は石の床の上に両膝から崩れ落ち、四本指の両手で緑色の頭を抱えたまま、空中に舞い散る黒い灰を見つめて絶叫した。


(な、ない……! 俺様の20トンの温かい秘宝の大釜も……金色の皮のロイヤル・ミルクチョコレートも……床を舐めて回収する隙間すらなく、一欠片残らず全部炭になって消えちまっただあああああっ!?)


――プシュウウウウウ……。


俺の頭の王冠の上で輝いていた『黄金の光輪』が、二回だけチカチカッと虚しく点滅し、情けない音を立てて完全に消え去った。


――――――――――――――――――――

《緊急警報!! 胃袋内の秘宝残量:0! 周囲の秘宝残量:0グラム!!》

《ペナルティ状態【極度の腹ペコ】が発動しました!!》

《高密度筋繊維の自己崩壊を防ぐため、神格出力が強制ロックされます! 実効ステータスが90%低下し、自動治癒が完全に停止しました!!》

――――――――――――――――――――


パンパンだった俺の緑色の腹が、風船の空気が抜けたようにぺちゃんこに凹み、背中と腹の皮がくっつくほどの猛烈な飢餓の激痛が俺を襲った。

両腕が鉛のように重くなり、二十分前にあの沼地で三日間何も食えずに倒れかけていた時とまったく同じ、惨めな脱力感が全身を支配する!


俺は飢えで血走った黄色い目でハルトの方へ振り返ると、四つん這いで駆け寄ってハルトのズボンの裾を掴み、必死でガタガタと揺さぶった!


「ゴブッ!! グガ、ゴブゴブッ!!(おい鞄持ち、冗談はよせ! 早く懐から予備の秘宝を出せ! 黒弾の魔法を撃て! それが無理なら、今すぐ地図を読んでこの城の宝物庫へ俺様を案内しろおおおっ!!)」


ハルトは涙目でポケットを裏返し、空っぽの銃を見せて首を振った。


「ご、ごめんよゴブ……! ポケットの中のチョコももう一欠片もないし、銃の弾も全部空っぽなんだ! それに、この世界の悪魔の文字は僕には読めないし、地図だって持っていないよ……!」


俺はズボンの裾を掴んだまま、三秒間、ピタリと石像のように固まった。


(………………ゴブ?)


俺のキャベツの葉のような長い緑の耳が、茹でられた葉っぱのようにダラリと垂れ下がった。


(ちょっと待て。俺様に献上する秘宝もゼロ? 自慢の黒鉄の杖もただの鉄くず? しかもこの世界じゃ文字も読めなきゃ地図も読めねえだと……!?)


俺は緑色の両手で自分の顔を覆い、宇宙の真理に気づいてしまったかのように戦慄した。


(な、なんてこった……! 秘宝も持っていねえ、黒弾も撃てねえ、地図も読めねえとなったら……このメガネの人間、初代教皇でも大魔導師でもなんでもねえ! 今のこいつは文字通り、俺様がわざわざ異世界から引っ張ってきた『ただのレベル25の役立たずの荷物(お荷物)』じゃねえかあああああっ!!)



お読みいただき、誠にありがとうございます!

ゴブ様とハルトのすれ違いゾンビサバイバル、引き続き次話もお楽しみいただけますと幸いです!

(※もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマークに追加していただけますと今後の執筆の大きな励みになります!)


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