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第19話:聖なる皇帝のヨダレと、一万トンのチョコ貨物船が待つ横浜港へ!

静まり返った要塞前の広場で、俺は動かなくなった魔王の巨体の上に小さな片足を乗せ、赤いミニマントを風になびかせながら、右手の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を天へ向かって高々と突き上げて勝利の咆哮を上げた!


「ゴブゥゥゥゥゥーーーーーッ!!」


(ふはははははははっ!! 見たか天地の神々よ! 前世では腹ペコだったせいで負けたレベル7の俺様が、神の秘宝を腹いっぱい食って、ついに因縁の宿敵『魔王』をこの手で討ち取ってやったぞ!! 前世の恨みは完全に晴らした、今日からこの世界のすべての神の秘宝は、この【ゴブリン・エンペラー】様のものだあああっ!!)


「やったああああっ!! ゴブ、ついに悪の組織の大ボスを倒したね!!」


荷馬車から飛び降りてきたハルトが、涙ぐみながら俺に駆け寄って、俺の小さな緑色の手と自分の手をパチン!と打ち合わせた。


するとその時、要塞の正門の奥から、救出された職人たちと一緒に、二人の人物が息を切らして走ってきた。

一人は、高級そうな黒い服を着た白髪の気品ある老人――この巨大要塞の主らしき男だった。

そしてもう一人は、白い長い衣を着て、光る薄い石板を抱えた目のガラスをかけた女学者だった。


白髪の老人は、両腕に抱えていた美しい木の箱を俺とハルトの前に差し出し、地面に額がつくほど深く頭を下げた!


「若き英雄様、そしてそこの気高き『小さな皇帝の精霊様』! あなた方は私たちの命の恩人です!」


老人は涙声で言った。


「私はこの製菓会社の社長を務めております。凶悪なクロカワとゴウザブロウから工場と社員を救ってくださったお礼に、私の社長室の地下金庫に眠っていた『我が社最高の秘宝』を、どうかあなた方に受け取っていただきたいのです!」


社長がうやうやしく木の箱の蓋を開けた。

その瞬間――箱の中から、キラキラ光る金色の薄い皮に包まれた、琥珀色に輝く百本の美しい茶色い塊が現れ、これまでのものとは次元が違う神々しいまでの甘い香りが広場全体に広がった!


「これは、十年間熟成させた幻のクリオロ種カカオと、最高峰の高原ミルクだけを使って年に一度だけ皇室献上品として作られる、『日本一の最高級ロイヤル・ミルクチョコレート』です! どうか全部、小さな英雄様で召し上がってください!」


俺の緑色の長い耳が、ピクリと跳ね上がった。

俺は魔王の死体の上から飛び降りると、金色の薄い皮に包まれたその秘宝を二本掴み取り、そのまま口の中に放り込んだ。


――トロリ……。


舌の上に乗せた瞬間、噛む前に溶けてなくなった。

まるで天上の女神が絞ったかのような濃厚で芳醇な乳の甘みと、気品あふれる神の豆の香り、そして魂が震えるほど滑らかな『甘い神の脂』が口いっぱいに広がり、俺の黄色い目からポロポロと歓喜の涙がこぼれ落ちた!


《神話級供物【日本一の極上ロイヤル・ミルクチョコレート(URランク)】を摂取しました!》

《あまりの美味しさに魔力炉が限界突破! 全ステータスが永続的に『+20』上昇します!》


「ゴブゥゥゥ……♡♡(な、なんだこの反則級の美味さはァァァ!? これまで食ってた秘宝が泥団子に思えるほど美味えぞ!! おい白髪のじいさん、てめえを今すぐ俺様の帝国の『筆頭公爵』に任命してやる、もっと持ってこい!!)」


俺がよだれを垂らして木の箱に頬ずりしていると、隣にいた白い衣の女所長が、興奮で震える声でハルトの両肩を掴んだ。


「少年……いえ、英雄くん! よく聞いて、これは人類の歴史を変える世紀の大発見よ!!」


女所長は目のガラスを光らせ、幸せそうに秘宝を舐めている俺を指差した。


「私たち、地下の研究室の監視モニターで一部始終を見ていたの! あなたのその小さな相棒(ゴブちゃん)、地下1階で高濃度のゾンビウイルスと融合したレベル18の変異ゾンビのチョコレート装甲を『そのまま口でバリボリ食べて』傷を治していたわよね!?」


「え? あ、はい! ゴブは聖なる結界の力でゾンビの毒が効かないんです!」とハルトが答える。


「結界どころの話じゃないわ、それは『完璧な生物学的免疫』よ!!」


女所長は感極まって叫んだ。


「あの変異種の体液が一ミリでも口に入れば、どんな生物でも三秒でゾンビ化するはずなの! それなのに、彼がその汚染されたチョコを消化してピンピンしているということは……この小さなゴブちゃんの『DNA』と『血液・唾液』の中には、ゾンビウイルスを瞬時に完全消滅させる【究極の抗体】が存在しているということなのよ!!」


社長も興奮して頷いた。


「そうだとも! もしその小さな皇帝様から『ほんの一滴の唾液(だえき)』を分けていただき、ここから南にある『横浜港の国立バイオ研究所』の設備まで運ぶことができれば……彼のDNAから抗体を培養して、日本中、いや『世界中の人類をゾンビから救う特効薬(ワクチン)』を作ることができるのです!!」


ハルトは目を見開き、箱の中のロイヤル・ミルクチョコレートを夢中で頬張っている俺を見つめた。


(ゴブのDNAと抗体があれば……本当にこの世界のパンデミックを完全に終わらせることができる!?)


ハルトは胸がいっぱいになり、拳を握りしめた。


(やっぱり僕の思った通りだ! ゴブはただの食いしん坊なペットなんかじゃない、僕との『友情の絆』で人類を救うために天から遣わされた救世主だったんだ!!)


すると白い衣の女所長が、俺の前に恐る恐るしゃがみ込み、左手に『新しい極上ロイヤル・ミルクチョコレートの箱』を、右手に『先端に白い綿のついた小さな木の棒』を持って頭を下げた。


「あ、あの、小さな皇帝様……? もしよろしければ、この白い棒をペロッと一舐めしていただけないでしょうか? お礼に、地下金庫に残っているもう九十箱の『極上ロイヤル・ミルクチョコレート』をすべて献上いたします!」


俺は女所長が差し出した白い小さな棒と、後ろで職人たちが荷馬車に積み込んでいる九十箱の最高級秘宝を交互に見た。


(ふははははははっ!! 俺様が魔王を討ち取ったことで、ついにこの世界の人間どもも【ゴブリン・エンペラー】様の偉大さを理解しやがったな! 俺様の『聖なる皇帝のヨダレ』を一滴分けてもらうための供物として、あの気絶するほど美味い最高級秘宝を九十箱も捧げるだと!? いいだろう、俺様のヨダレくらいバケツ一杯でもくれてやるぜ!!)


「ゴブッ! グガ!(ほらよ、ありがたく受け取れ人間ども!)」


俺が緑色の舌を出して白い綿の棒をペロリと舐めてやると、女所長と社長は「おおおっ、人類の希望のDNAが採れたぞーっ!!」と涙を流して万歳三唱し、約束通り九十箱のロイヤル・ミルクチョコレートを俺の前に積み上げた!


「ですが英雄くん、横浜港へ向かうには一つだけ大きな問題があります」


社長が真剣な表情に戻り、ハルトに新しい地図を手渡した。


「横浜港には国立研究所だけでなく、我が社が海外から輸入した『一万トンの最高級カカオとチョコレートを積んだ巨大貨物船』も停泊しています。しかし現在、横浜港エリアは暴走した反乱軍の重武装大隊に占拠されており……連中はゴウザブロウのミニガンよりも遥かに巨大な、『120ミリ主砲を積んだ本物の戦車(タンク)』を何台も配備しているのです!」


その瞬間。

荷馬車の屋根の上で最高級秘宝を舐めていた俺の顎が、ピタリと止まった。

黄金の王冠の下で、俺の長い緑の耳がピンッと垂直に立ち上がる。


「聞いたかい、ゴブ!?」


荷馬車の舵の席に乗り込んだハルトが、友情の炎に目を輝かせて屋根の上の俺を見上げた。


「横浜の港に行けば、君の抗体で世界を救う薬が作れる上に、君へのご褒美として『一万トンのチョコレートの船』が待っているんだって! でも、そこにはさっきの大ボスが持っていた武器より『十倍も太くて巨大な大砲(杖)』を持った鉄の怪物が待ち構えているらしい! 僕たちの友情の力で、一緒に世界を救いに行こう!!」


俺は荷馬車の屋根の上で、南の空を睨みつけたまま三秒間固まった。


(さ、さっきの六連回転杖よりも……『十倍も太くて巨大な黒鉄の杖』を持った軍勢が港にいるだと……!?)


俺のゴブリン・エンペラーの頭脳の中で、戦慄の真実(大誤解)が閃いた。


(な、なんてこった……! つまり、俺様が今ここで叩き潰したレベル15の巨人は『本物の魔王』じゃなかったのか!! あいつは魔王軍の中でも一番弱い先鋒――【魔王軍・四天王(してんのう)の最弱】に過ぎなかったんだ!!)


(そして『本物の魔王』の野郎は、残る三人の四天王と十倍デカい黒魔法の大杖を従えて、一万トンの神の秘宝が眠る『海の浮遊要塞』の上で、この俺様を待ち構えてやがるんだな!!)


俺の緑色の顔に、これまでで最も凶悪で、最も楽しげな覇王の笑みが広がった。

レベル58に達した俺の肉体は、まだ見ぬ『一万トンの秘宝』と『四天王・真の魔王』との戦いを求めて熱く滾(たぎ)っていた。


俺は銀の十輪荷馬車の屋根の上にすっくと立ち上がり、夕風の中に三十センチの小さな赤いマントを勇ましくなびかせると、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を南の海へ向かってビシッと突きつけた!


「ゴブゥゥゥーーッ!! グガ、ゴブゴブゥゥゥーーッ!!」


(今すぐ荷馬車を出せ、俺様の最強の黒魔導師兼鞄持ちよ!! 相手が四天王だろうが本物の魔王だろうが関係ねえ! 港に眠る一万トンの神の秘宝は、すべてこの【ゴブリン・エンペラー】様が食い尽くしてやるぜええええっ!!)


「うん、行こうゴブ! 僕たちの友情で、今度こそ世界を救うんだ!!」


重苦しい獣の唸りを上げて十輪の銀の荷馬車が走り出し、夕日に染まる黒い石の道を、南の港へ向かってまっすぐに突き進んでいく。

人間どもの救世主となった百三十センチの小さな緑の皇帝と、すべてを友情だと信じ込むレベル12の鞄持ちの、全く噛み合わない世界救済の旅は――まだまだ始まったばかりだった!


――――――――――――――――――――

【第1部:中央チョコレート工場編 ―― 完!】

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