第17話:噛み合わない絆の奇跡と、赤い前掛けの『ゴブリン・エンペラー』!
『お、おのれクソガキと緑のチビ助がァァァッ!!』
右膝の鉄の添え木を固定して立ち上がった魔王が、怒り狂った声を上げて六連回転杖を再び構え直し、さらに後ろの黒い鉄の戦車の屋根についた『爆裂魔石を吐き出す黒鉄の大筒』までも俺たちへと向けさせた。
『絶対に生かして帰さねえ! ガトリング砲とグレネードランチャーで、トラックのタンクごと跡形もなく吹き飛ばしてやる!!』
席に座るハルトは、再び自分の前に立って盾となった俺の小さな背中を見て、感極まったように胸を押さえた。
(ゴブは外のゾンビを倒した瞬間、迷わず僕の前に戻ってきてくれた……! 僕とゴブの心は完全に一つに繋がっている! この『互いを信じ合う強い信頼と友情の絆』があれば、どんな強敵にだって絶対に負けない!!)
「ゴブ、僕たちの心は一つだ!」
ハルトは右手の契約の紋章を強く握りしめ、魂の底から叫んだ。
「僕と君の『信頼の絆』で、一緒にもう一度限界を超えよう、僕の最高の相棒よおおおおっ!!」
だが――後ろでハルトが「友情と信頼の絆」について熱く叫んでいるまさにその時。
荷馬車の鼻先に立つ俺の黄色い瞳は、目の前の黒鎧の巨人(魔王)に対する『どす黒い復讐の憎悪』と『極めて自己中心的な怒り』で真っ赤に燃え上がっていた!
(誰が友情だコラァ! てめえが死んだら誰が次のダンジョンの地図を読むんだよ、俺様は文字が読めねえんだぞ!!)
俺は右手の『鉤爪付きの鉄の棍棒』が軋むほど強く握りしめ、目の前の魔王を睨みつけた。
俺の胸の真ん中が、前世で卑怯な黒魔法を撃ち込まれたあの日の記憶でズキズキと熱く疼いた。
(そしてそこの『魔王』の野郎……! 前世のエルドリアで、俺様がてめえの下働きになるのを誇り高く断ったからって、俺様が三日間何も食えず『腹ペコ』で力が出せない隙を突いて、手下の幹部に黒弾で胸を撃ち抜かせやがったな!!)
俺の小さな牙がギリギリと音を立て、全身の毛が逆立った。
(あれが俺様を殺す攻撃だったのか異界へ飛ばす呪いだったのかは腹が減りすぎてて覚えちゃいねえが、俺様にトドメを刺すためにこの世界にまで追いかけてきて、俺様の20トンの神の秘宝と、大切な『生きた地図(鞄持ち)』まで奪おうってのか!? ふざけるなよ魔王ォォォ!! 前世は空きっ腹だったから負けたが、今の俺様は最高級の秘宝で腹いっぱいのレベル43なんだよ! 今度の俺様は、てめえをこの手で叩き潰して『殺す』側なんだよォォォォッ!!)
その瞬間、俺が今しがた粉砕した二百五十体のアンデッドの莫大な経験値(4倍ボーナス)が濁流となって俺の体内に流れ込み、俺の復讐の怒りとハルトの純粋な友情の叫びが最高潮でぶつかり合った!
《共同戦闘により、アンデッド250体を討伐しました!》
《契約ボーナス(獲得経験値4倍)が適用されます!》
《レベルアップ! Lv.43 ➔ Lv.46 ➔ Lv.48 ➔ 『レベル50(ゴブリン・キング上限到達)』!!》
《契約主『ハルト』がレベル8から『レベル10』に上昇しました!》
直後、俺とハルトの頭の中に、これまでで最も荘厳なシステムの声が大いなる勘違いとともに鳴り響いた!
《告! 契約主ハルトの【相棒を信じる無償の友愛】と、従魔ゴブの【魔王への絶対的復讐心&地図係を失いたくない執念】が100%の波長で共鳴しました!》
《システムは両者の(全く噛み合っていない)感情を、最高位の奇跡【魂の信頼と絆の極致】として判定しました!!》
《これより――神話級・最終到達種族への【最終究極進化】を開始します!!》
「グガアアアアアアアアアアアアアッ!!」
俺の小さな体から噴き上がったのは、もはやただの光の柱ではなかった。
黄金の稲妻と真紅の炎が渦を巻く直径二十メートルの巨大な光のドームが炸裂し、その衝撃波だけで周囲の乗り捨てられた鉄箱を吹き飛ばしたのだ!
『な、なんだこの黄金の稲妻はァッ!?』と魔王が驚愕して腕で顔を覆う。
席のハルトは、光の中で目を輝かせて叫んだ。
「やっぱり起きたんだ……僕とゴブの『心の絆と信頼』が、最後の奇跡を起こしたんだ!! 今度こそゴブは、全長三メートルの神々しい大天使か黄金の竜騎士の姿に進化するに違いないよ!!」
黄金の稲妻の中で、俺のすべてのステータスが『240』から一気に『350』の大台を突き抜け、俺の背丈がさらにググッと伸び、頭の黄金の王冠の中心に真紅の魔石が宿り、背中に『絶対支配者の証』がバサリと広がるのを俺は感じた!
そして――轟音とともに黄金の稲妻が晴れ渡った。
《最終究極進化が完了しました!》
《神話級最終種族:【ゴブリン・エンペラー(小鬼の皇帝)】――レベル50》
《現在のステータス ―― 筋力:360/敏捷:370/耐久:355》
《皇帝固有権能:【黒魔法完全支配】および【覇王の剛力】を獲得しました!》
荷馬車の鼻先の上で煙が消え去り、俺は両足を大きく開いて胸を極限まで反らし、空を見上げて神々しいまでの皇帝のポーズを決めた!
(ふ……ふははははははははっ!! キングのさらに上、前世の歴史上ですら誰一人として到達したことのない神話の領域――【ゴブリン・エンペラー(小鬼の皇帝)】様の誕生だぜえええっ!!)
透明な板の向こうで、ハルトが「今度こそ三メートルの巨大な聖獣に……!」と期待に胸を膨らませて身を乗り出し、俺の姿を見た。
そしてハルトは、三秒間ピタリと固まった。
(…………ま、また『5センチ』しか伸びてないーーーーっ!?)
ハルトは心の中で盛大にずっこけた。
(125センチから『130センチ』にちょびっと背が伸びて、頭の小さな金の王冠に赤い宝石がついて、背中に『赤ちゃんの前掛けみたいな30センチの小さな赤いマント』が生えただけで、やっぱりちっちゃな緑のゴブリンのままじゃないか!! ……で、でも本人は新しい赤いミニマントをパタパタさせて「どうだ、これが皇帝の威厳だぞ!」って過去最高のドヤ顔をしてるから、絶対にツッコめないよ!!)
ハルトは必死で笑顔を作り、窓から両手の親指をグッと立てて叫んだ。
「す、すごくカッコいいよゴブ!! その可愛い……じゃなくて威厳たっぷりの赤いマント、僕たちの心の絆の証だね!!」
「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!!(フハハハ、そうだろうそうだろう! この真紅の皇帝マントと百三十センチの巨体を見れば、魔王とて震え上がるはずだぜ!!)」
俺は背中の小さな赤いマントを誇らしげに風になびかせると、黄金と真紅の光を宿した黄色い瞳で、正面二十歩先に立つ宿敵『魔王』を睨み据えた。
俺の右手には、この世界に来て最初に拾ってからずっと使い続けてきた愛用の相棒――『鉤爪付きの鉄の棍棒』が固く握りしめられている。
(待たせたな、ケチな魔王よ。前世で腹ペコだった俺様の胸に黒弾を撃ち込んでくれた借りは、腹いっぱいで無敵になったこの【ゴブリン・エンペラー】様が今ここで、てめえの命でキッチリ払わせてやるぜ!!)




