第13話:殻剥ぎ捕食無双と、5センチ伸びた『ゴブリン・キング』!
――ドォォォンッ!!
俺が完治した左足で石の床を踏み抜いた瞬間、俺の姿は緑色の閃光となって弾け飛んだ!
肩を食われた目の前の怪物が慌てて爪を振り下ろしてきたが、俺は愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』の曲がった先端を、さっき俺が牙で噛み砕いた肩の鎧の割れ目へとガツン!とねじ込み、『筋力90』の怪力で一気に手前へと引き剥がした!
――バキバキバキィッ!!
まるで巨大な甲殻類の殻を鉄の爪でこじ開けるように、怪物の胸と肩を覆っていた分厚い秘宝の鎧がベリィッ!と丸ごと剥がれ落ちる!
俺は宙に舞ったその巨大な秘宝の板を左手で掴み取って口の中に放り込み、バリボリと噛み砕きながら、殻を失って柔らかい腐肉がむき出しになった怪物の頭蓋骨へ、右手の鉄の棍棒を振り下ろした!
――グシャアアアアッ!!
殻さえ剥いでしまえば、中身の肉体は俺の敵ではない。一撃で頭を粉砕された一体目が床へと沈んだ。
《秘宝過食アンデッド(Lv.18)を1体討伐しました!》
《獲得経験値4倍ボーナス適用! レベル27から『レベル28』に上昇しました!》
俺は息をつくことすらやめ、黄色い目を暗闇で爛々と輝かせながら、残る三十九体の群れのど真ん中へと飢えた悪魔のように飛び込んだ!
――ベリィッ! バリボリッ! ドゴォッ!!
――バキィッ! モグモグッ! グチャァッ!!
「ゴブッ! ゴブゴブ! グガァァァッ!!(待てコラァ、どこへ逃げる気だ俺様の晩飯ども!! てめえらの背中にくっついてる秘宝は全部俺様のもんだぞ!! おい鞄持ち、天井の管へ逃げる奴の足を撃ち落とせ!!)」
その瞬間、薄暗い地下通路では、この世界の常識を根底から覆す異常な光景が繰り広げられた。
さっきまでこの地下階層の恐怖の支配者だったはずの『レベル18の変異アンデッド』たちが、ヨダレを垂らして迫りくる緑色の小鬼から逃れようと、「ギャアアアッ!」と悲鳴のようなうめき声を上げながら、必死で壁や天井の管へと逃げ惑い始めたのだ!
だが俺は、天井の管から管へと緑色のバッタのように跳び回り、逃げるアンデッドの足首を掴んで引きずり下ろしては、鉄の棍棒の鉤爪で秘宝の殻をベリベリと引っ剥がしてその場で丸呑みにし、中身を片っ端から粉砕していった!
通路の後ろで短杖を構えていたハルトは、その光景を見てポカンと口を開け、腕を下ろして立ち尽くしていた。
(え……えっと、僕は今、何を見ているんだっけ……!?)
ハルトは混乱する頭を抱えた。
(ゾンビ映画っていうのは普通、お腹を空かせたゾンビが生きている人間を追い回して食べるものだよね!? なんでここでは、四十体もの巨大な変異ゾンビたちが半泣きになって逃げ回って、僕の小さなペットがヨダレを垂らしながらゾンビを追い詰めてバリボリ食べているんだ!? これじゃどっちがモンスターなのか分からないよ!!)
ハルトはそこでブンブンと激しく首を振り、自分の頬を両手でパチン!と叩いた。
(い、いや、何を不謹慎なことを考えているんだ僕は! ゴブは決して食いしん坊でゾンビのチョコを食べているんじゃない! 僕の銃弾が通らないから、自分の口とバールでわざわざあの苦くて汚いチョコレートの装甲を剥がして、僕の攻撃が通るようにしてくれているんだ!)
「今行くよ、ゴブ! 装甲を剥がしたやつは僕に任せてくれ!」
ハルトは近くの柱の陰に転がっていた二体の白骨死体――数日前にクロカワに命じられて地下へ降り、怪物に殺された男たちの死体――の傍らへ駆け寄ると、そこに落ちていた太い黒鉄の中杖(12ゲージ・ショットガン)と赤い弾帯を拾い上げ、俺が殻を剥いだばかりの二体の怪物の脚へ向かって引き金を引いた!
――ドゴォォォンッ!! ガシャッ、ドゴォォォンッ!!
凄まじい轟音とともに放たれた拡散黒弾が、殻を失った二体の怪物の下半身をまとめて吹き飛ばした。
撃ち終えたハルトは、太い黒鉄の中杖を握る自分の両腕を見下ろし、驚きのあまり目を見開いた。
(すごい……! こんな大型のショットガン、普段のひ弱な僕が撃ったら反動で肩が外れて吹っ飛んでいるはずなのに、今の僕にはおもちゃみたいに軽く感じるぞ!)
ハルトは自分の全身に漲る熱い力を感じていた。
(それに、こんな薄暗い地下なのに動く敵の急所がハッキリ見えるし、全力で走っても全然息が切れない……! ゴブと出会って契約を結んでから、ゴブだけじゃなく、僕自身の身体もどんどん強くなっているんだ!!)
自分の成長を実感した俺の鞄持ちは、見違えるような素早い身のこなしで通路を駆け回り、俺が殻を剥いだアンデッドたちへ次々と的確な黒弾を撃ち込んでいった!
十体。二十体。三十体。四十体!
わずか数分後。
蒸し暑い地下通路には、立っているアンデッドはただの一体もいなくなり、俺の魔力炉(胃袋)の中には、山のような量の高純度の神の秘宝がパンパンに詰め込まれていた!
その直後、俺の視界を埋め尽くすほどの金色の文字が爆発的に流れ込んだ。
《秘宝過食アンデッド(Lv.18)を計40体討伐しました!》
《契約ボーナス(獲得経験値4倍)が適用されます!》
《レベルアップ! Lv.28 ➔ Lv.30 ➔ Lv.32 ➔ Lv.34 ➔ 『レベル35(種族上限到達)』!!》
《共同戦闘により、契約主『ハルト』がレベル3から『レベル6』に上昇しました!》
俺は通路のど真ん中で片膝をつき、激しく脈打つ心臓を押さえた。
《告! 個体名『ゴブ』が下級種族【ゴブリン・スカベンジャー】のレベル上限(Lv.35)に到達し、かつ特殊条件【神の秘宝の限界蓄積】を満たしました!》
《これより――ゴブリン族の最高位種族への【究極進化】を開始します!!》
次の瞬間、俺の緑色の肉体から、黄金と黒が入り混じった凄まじい光の柱が噴き上がり、地下通路全体の空気をビリビリと震わせた!
「ゴ、ゴブ!? どうしたんだい、体が黄金の光に包まれているぞ!!」
ハルトが眩しそうに腕で目を覆いながら、期待に胸を膨らませて叫んだ。
(こ、この神々しい黄金の光はまさか……最終進化!? レベル18の変異種を四十体も倒して、ついにゴブが真の姿に覚醒するんだ! いったいどんな巨大で伝説的な幻獣の姿に生まれ変わるんだろう!?)
黄金の光の中で、俺は自分の骨と筋肉、そして皮膚のすべてが一度溶け、神話級の密度で再構築されていくのを感じていた。
ステータス画面の数値が一気に跳ね上がり、すべての項目が『180』の大台を軽々と突破していく!
さらに俺の背丈がググッと『指三本分』も高く伸び、緑色の皮膚が鋼鉄よりも分厚く硬化し、頭頂部に『絶対的な王権の証』がズシリと顕現するのを感じた!
そして――黄金の光の柱が、完全に消え去った。
《種族進化が完了しました!》
《最終到達種族:【ゴブリン・キング(小鬼の王)】――レベル35(筋力:185/敏捷:190/耐久:180)》
《王族固有スキル:【小鬼王の極厚皮】および【黒魔法無効】を獲得しました!(あらゆる黒魔法の呪いと貫通衝撃を皮膚表面で完全に無効化します)》
(ふ……ふはははははははっ!!)
俺は両腕を大きく広げ、これ以上ないほど威厳たっぷりに胸を張り、片手を腰に当てて誇らしげに顎をしゃくり上げた!
(ついにやったぞ!! 泥水をすすっていた最底辺の腐肉漁り(スカベンジャー)だったこの俺様が、ゴブリン一族の歴史上でも数えるほどしか存在しない最高峰の究極形態――伝説の【ゴブリン・キング】様へと登り詰めてやったぜえええっ!!)
俺は自分の長い緑の耳の真ん中に生えた『本物の黄金の王冠』を鉤爪の指先で誇らしげに弾き、全身に溢れる無敵の力に酔いしれた。
(見ろよこの堂々たる王の威容を! 背丈が指三本分も巨大化しただけでなく、王の証である『黄金の王冠』を授かり、さらには前世で俺様を殺した魔王軍の黒魔法を完全に跳ね返す究極能力【黒魔法無効】と【小鬼王の極厚皮】まで手に入れたぞ! さあ鞄持ちよ、究極進化を遂げた俺様の神々しい王の姿を見て、好きなだけひれ伏すがいい!!)
俺の前に立っていたハルトは、目からゆっくりと腕を下ろし、全長三メートルの巨大な聖獣か黄金の騎士を見上げるつもりで視線を上げた。
しかし、ハルトの目の前の空間には何もなかった。
ハルトはもう一度視線を床の方へと下げ……俺の姿を、三秒間じっと無言で見つめた。
(…………あれ?)
ハルトは目をパチクリさせ、心の中で盛大に首を傾げた。
(あ、あれだけ地下全体が揺れるほどド派手に黄金の光が噴き上がったのに……前と全然変わってないぞ!? せいぜい120センチから125センチに『5センチ』くらい背が伸びて、頭の上にコーヒーカップくらいの『小さな金の王冠』がチョコンと乗っかっただけで、見た目は十秒前とまったく同じちっちゃな緑のゴブリンじゃないか!!)
ハルトは、その場でハトのように胸をパンパンに膨らませ、鼻の穴を広げて「どうだ、すごいだろう!」と言わんばかりに自分の頭の小さな王冠を親指でビシッと指差している俺のドヤ顔を見た。
(……でも、本人はこれが究極の最終形態だと思って、めちゃくちゃ誇らしげに胸を張ってる!!)
ハルトは吹き出しそうになるのを必死でこらえ、優しい笑顔を作った。
(ここで「全然変わってないね」なんて言ったら、ゴブのプライドが傷ついちゃうよな!)
ハルトは膝に手をついてしゃがみ込み、大げさなほど感動した声で拍手を送った。
「す、すごいよゴブ!! なんだかすごく立派になって……その伸びた5センチと、頭の小さな金の王冠から、ものすごい王様のオーラを感じるよ! 究極進化おめでとう!!」
「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!!(フハハハ、さすがは俺様の黒魔導師兼鞄持ち、王の威厳がしっかり分かるようだな! 今日からてめえは誇り高き『ゴブリン・キング様』の筆頭臣下だ! さあ、手始めにさっき俺様の足に黒魔法で風穴を開けやがった上の魔王軍幹部どもに、王の鉄槌を下しに行くぜ!!)」
俺は愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を片手で軽々と担ぎ直し、地下通路の最奥へと向き直った。
そこには、討伐された怪物たちの死体の向こうに、天井まで届く巨大な『二重の鉄の扉』がそびえ立っており、その隙間からは、このダンジョンで最も濃密で温かい『神の秘宝』の甘い香りが湯気となって漏れ出していた。
俺は大股でその巨大な鉄扉の前まで歩み寄ると、てこの力すら使わず、右手の鉄の棍棒で扉の真ん中を軽くコツン、と叩いた。
――ドゴォォォォォォォンッ!!
『ゴブリン・キング(筋力185)』へと進化した俺の軽い一撃によって、分厚い鉄の二重扉が羊皮紙のように蝶番から吹き飛び、王城の大広間のように広大な部屋の奥へとぶっ飛んでいった!
開け放たれた扉の向こう、明るい光に照らされた大広間の中心には――ついに俺が夢にまで見た『銀色に輝く神の秘宝の大釜』が、温かい秘宝をなみなみと湛えて鎮座していた。
だが、その大釜を見下ろす上階の鉄の回廊には、俺たちが地下で死んだと思っていた魔王軍の上級幹部首領・クロカワと生き残りの男たちがずらりと並び、人間の背丈ほどもある『漆黒の巨大魔導長杖』の先端をこちらへ向けて待ち構えていたのだ――。




