第14話:対物ライフルを弾く『小鬼王の極厚皮』と、逆さ吊りの幹部部隊
俺が鉄の棍棒で軽く小突いただけで吹き飛んだ分厚い二重鉄扉の轟音が、まだ王城のように広大な部屋の中に反響していた。
明るく照らされたその大広間のど真ん中には、風車小屋ほどもあろうかという巨大な銀色の円筒――俺が夢にまで見た『銀色に輝く神の秘宝の大釜(50トン本タンク)』が天井までそびえ立ち、何本もの太い鉄の管から甘い湯気を吐き出していた。
そこから漂ってくる、温かく溶けた極上の神の秘宝と甘い神の脂の濃密な香りに、百二十五センチに伸びたばかりの俺の両足が武者震いした。
(あったぞ……ついにご対面だぜ、俺様の愛しき『神の秘宝の大釜』よ!!)
だが、俺がその銀の大釜へ向かって一歩を踏み出そうとした、その瞬間だった。
高さ十メートルの頭上を走る2階の鉄の回廊から、恐怖と焦りに裏返った男の怒号が響き渡った!
「な、なぜだ……!? なぜてめえらが、あの地下の化け物の巣窟から無傷で出てこられるんだァッ!?」
俺は頭の上にチョコンと乗った誇り高き『黄金の王冠』を揺らし、黄色い目で上の回廊を見上げた。
そこには、銀の大釜を見下ろす鉄の手すり沿いに、魔王軍の上級幹部首領――『クロカワ(レベル5)』と、生き残りの十四人の黒鎧の男たちがずらりと並んでいた。
首領クロカワは顔を真っ青にして引きつらせていた。
しかも奴が目の前の鉄の手すりに乗せて構えていたのは、これまでの長杖ではなかった。
それは大人の人間の背丈ほどもある『漆黒の超巨大な魔導長杖(50口径・対物ライフル)』だった! 杖の先端の穴は俺の手首ほども太く、背の上には巨大なガラスの覗き筒がついている!
「どうやって地下の化け物を抜けてきたかは知らねえが、ここまでだ!」
クロカワは血走った目でガラスの筒を覗き込み、その超巨大な黒鉄の長杖の先端を、真下に立つ俺の眉間へとピタリと合わせた。
「こいつは装甲車の鉄板すら紙くずみたいにぶち抜く『12・7ミリ対物ライフル』だ!! てめえの頭がどれだけ硬かろうが、長さ十センチの徹甲弾を脳天に食らえばただの緑のミンチだ――くたばれ化け物ォッ!!」
俺のすぐ後ろで、鞄持ちのハルトが顔を蒼白にして絶叫した。
「ゴブ、避けてーっ!! あれは普通の銃じゃない、戦車や装甲車を壊すための大砲みたいな銃だ!!」
だが――俺はミリ単位たりとも動かなかった。
それどころか、俺はその場に仁王立ちになって百二十五センチの胸をパンパンに張り、緑色の両腕を組んで、自分の額と『黄金の王冠』をわざと敵の杖の真正面に突き出してニヤリと笑ってやったのだ!
(避けろだと? フハハハ、冗談を言うな鞄持ち! なぜゴブリン族の最高峰に君臨するこの『ゴブリン・キング(レベル35)』様が、たかがレベル5の雑魚が放つ黒魔法ごときから逃げ隠れしなきゃならねえんだ! さあ撃ってこい魔王軍の幹部め、俺様の新しい王の肉体で受け止めてやるぜ!!)
クロカワが引き金を引いた。
――ドゴォォォォォォォンッ!!
超巨大な黒鉄の長杖の先端から一メートルを超えるオレンジ色の火柱が噴き出し、大広間全体の空気を震わせる大砲のような轟音が炸裂した!
空気が引き裂かれる。
進化前に俺の太ももを貫いた黒弾の『五倍』は巨大で速い、凶悪な【特大の黒弾】が黒い彗星のように飛来し――俺の緑色の額と、頭の上の小さな黄金の王冠の境目へと、真正面から直撃した!
「ゴブーーーーーーッ!!」
俺の頭が粉々に吹き飛んだと思ったハルトが、悲痛な叫び声を上げた。
だが――直撃からコンマ一秒後。
――キィィィィンッ……チャリンッ!
大広間に響き渡ったのは、頭蓋骨が砕ける音ではなく、ダイヤモンドの金床に小さな硬貨を投げつけたような、澄み切った高い金属音だった。
《王族固有スキル【小鬼王の極厚皮】および【黒魔法無効】が発動!》
《敵の上級貫通黒魔法を皮膚表面で完全に無効化しました! 受けたダメージ:0!》
痛くも痒くもなかった。
まるで森の小さな蝶々が、俺の鼻先にふわりと止まったかのような軽い感触。
『耐久180』に達した俺の王の皮膚と王冠に激突したその特大の黒弾は、俺の皮一枚すら傷つけることができず、逆に黒弾の方がせんべいのようにペシャンコに潰れて、俺の足元の石床へチャリンと哀れな音を立てて転がり落ちたのだ!
俺は片手の鉤爪で自分の額をポリポリと掻いた。
傷どころか、煤一つ付いていない。頭の上の小さな黄金の王冠が、誇らしげにキラリと光った。
「ゴブ。グガ、ゴブゴブ(おい魔王軍の幹部、今のがてめえの必殺の黒魔法か? おかげで王冠についたホコリが綺麗に吹き飛んだぜ、礼を言ってやるよ!)」
高さ十メートルの回廊の上で、首領クロカワの顎が外れんばかりにガクンと落ちた。
「ば……馬鹿な……っ!?」
クロカワは恐怖で裏返った声を絞り出し、後ずさった。
「た、対物ライフルの徹甲弾が……至近距離から額に直撃して、ゴム弾みたいに跳ね返されただと!? な、なんだあの緑色の化け物は、ダイヤモンドで出来てやがるのか!? う、撃て! 全員で一斉射撃だ、撃ちまくれええええっ!!」
――ダダダダダダダダダダッ!!
上の回廊に並んだ十四人の黒鎧の男たちが、パニックに陥りながら手にした『黒鉄の長杖』から一斉に黒弾の嵐を浴びせかけてきた!
だが、今の俺は鉄の盾など掲げもしなかった。
俺は愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を右肩に担いだまま、腕を振って悠々と黒弾の豪雨の中を歩き出した!
――キンッ! カンッ! ピンッ! チャリンッ!!
何百発という黒弾が俺の胸板や肩、太もも、さらには鼻先にまで次々と突き刺さるが、【小鬼王の極厚皮】と【黒魔法無効】の前ではすべてが無意味だった。
すべての黒弾が金色の火花を散らして俺の緑色の肌から弾き返され、床の上に潰れた鉛の絨毯を作っていく!
(ふははははははっ!! 最高だぜ!!)
俺は全身に黒弾の雨を浴びながら、心の中で腹を抱えて高笑いした。
(進化前はあんなに痛かった長杖の黒弾が、今の俺様には気持ちのいい肩叩きにしかならねえ! これぞゴブリン族の頂点、『ゴブリン・キング』様の絶対無敵の肉体よ!!)
俺のすぐ後ろでは、ハルトが太い黒鉄の中杖を下ろし、火花の中を無傷で歩く俺の小さな背中を、まるで神様でも見るかのような畏敬の眼差しで見つめていた。
「アサルトライフルの連射も、対物ライフルの弾丸すらも、ゴブの肌に触れた瞬間に全部無効化されている……」
ハルトは震える声で呟いた。
「あの小さな金の王冠は、ただの可愛い飾りなんかじゃなかったんだ……! ゴブが王の力に目覚めたことで、彼の『聖なる結界』は地球上のどんな重火器でも絶対に傷つけられない完全無欠の鎧になったんだ!!」
俺は上の回廊の真下まで歩いていくと、そこでピタリと足を止め、青い顔で弾の箱を交換しようとしている上の十五人の男たちを見上げた。
「ゴブ……グガァァァッ!!(さて、さっき俺様の足に穴を開けてくれたお礼を返しに行くぞ、黒鎧のダニども! おい鞄持ち、下からその太い中杖で援護しろ!!)」
「分かったよ、ゴブ! 左側の敵は僕が抑える!」
『レベル6』へと成長し、身体能力が飛躍的に高まったハルトは、熟練の狩人のような素早い動きで横へ飛び出すと、下から太い黒鉄の中杖を構えて二発連続で轟音を放ち、上から狙いをつけていた三人の男の手から長杖を弾き飛ばした!
そして同時に、俺はグッと両膝を曲げた。
『敏捷190』に達した今の俺には、二階へ上がるのに階段も柱も必要ない。
――ドォォォォンッ!!
俺が足の裏で石の床をクモの巣状に踏み砕いた瞬間、俺の百二十五センチの体は緑色の砲弾となって垂直に飛び上がり、わずか瞬き一つで高さ十メートルの空間を跳び越えて、2階の鉄の回廊のど真ん中へと着地した!
「ひぃっ!? い、1階から一足飛びで跳んで来やがったぞ!?」
近くにいた副官の男が悲鳴を上げ、長杖を俺に向けようとする。
――ガキィィィンッ! バキョッ! ドゴォッ!!
俺は右手の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を一閃させ、曲がった鉤爪で四人の男が構えていた『黒鉄の長杖』の筒をまとめて引っ掛けて枯れ枝のようにグニャリとへし曲げると、そのまま棍棒の平らな腹で十四人の男たちの膝とみぞおちを順番に薙ぎ払った!
『筋力185』の俺が軽く撫でるだけで、黒鉄の長杖は真っ二つに折れ、分厚い黒鎧は紙のようにへこみ、十四人の上級幹部どもは「ぐえっ!」「ぎゃあっ!」とカエルのような声を上げて次々と回廊の床に伸びていった。
わずか二十秒後。
鉄の回廊の上で立っている人間は、一番奥の手すりに背中を押し付けてガタガタと震えている首領クロカワただ一人となっていた。
クロカワは、小さな黄金の王冠をキラキラさせながら鉄の棍棒を片手でクルクルと回して歩いてくる俺を見て、狂ったように自分の襟元に付いていた『黒い小さな箱(軍用無線機)』を掴み、赤いボタンを押して喉が裂けんばかりに絶叫した!
「ボ、ボス!! ボス、聞こえますか!? こちら中央工場のクロカワです! ダメです、俺たちの部隊が全滅しました! 対物ライフルの弾すら跳ね返す、頭に金の王冠を乗せた緑色の化け物が工場の中にいます!! 今すぐそっちの『装甲車』とボスの『6連ガトリング砲』を持ってきて、正門の前でこいつらを食い止めてくださいいいいっ!!」
すると、クロカワの手にある小さな黒い箱から、氷のように冷たく、地底の怪物のように重苦しい男の声が響き渡った。
『……ほう、俺の工場で銃弾を跳ね返す化け物だと? 使えねえゴミどもめ、クロカワ。俺の装甲車はもう正門の二キロ手前まで来ている。そのまま外へ誘い出せ、俺が直々にそいつをミンチにしてやる』
俺はその小さな箱から聞こえてきた禍々しい声を聞いて緑色の眉をひそめたが、目の前のクロカワにそれ以上喋らせるつもりはなかった。
「ゴブッ!(遠話の魔石で泣きつくのは終わったか、この腰抜けめ!)」
――コツンッ!
俺は鉄の棍棒の平らな部分でクロカワの兜のてっぺんを軽く叩き、白目を剥かせて気絶させた。
そしていつものように、気絶したクロカワと十四人の手下どもの足首を縄で縛り上げ、2階の回廊の手すりから干し肉のようにズラリと逆さ吊りにしてやった。
《敵の幹部部隊(Lv.5)計15名を完全に無力化しました!》
《共同戦闘により、契約主『ハルト』がレベル6から『レベル7』に上昇しました!》




