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第11話:爆裂魔石からの緊急脱出と、歩く高級秘宝(カカオ変異種)

だが、敵がひるんだ三秒間だけでは、この石の牢獄からは出られない。


頭上の柱の陰から、頬をかすり傷で濡らした首領クロカワが憎々しげに顔を出し、懐から『緑色の小さな鉄の卵』を取り出して、その頭の輪っかを歯で引き抜いた。


「クソガキがァッ、調子に乗るなよ! トラックごと肉片にしてやる、手榴弾を食らえ!!」


頭上から投げ落とされた緑色の鉄の卵が、カラン、コロンと乾いた音を立てて俺たちの盾の四メートル前に転がり落ちた。


俺は『手榴弾』という言葉は知らなかったが、長年の腐肉漁りで培った死の嗅覚が、その小さな緑色の鉄の卵の中に『部屋ごとハルトを吹き飛ばすほどの超高密度の爆裂魔力』が圧縮されていることを瞬時に察知した!


(まずい! あれは魔王軍の『爆裂魔石』だ!!)


俺は周囲を見回した。

上の回廊までは高さ十メートルのツルツルした石壁だ。太ももを撃ち抜かれた今の足で、ハルトを抱えて跳び上がるのは間に合わない。後ろの鉄の門は分厚すぎて壊せない。


俺の視線が、自分たちの足元の『石の床』へと落ちた。

俺たちのすぐ横一メートルの床の中央に、四本の太い鉄の杭(ボルト)で固定された、一メートル四方の分厚い『格子状の鉄の蓋(鋳鉄製の床ハッチ)』が埋め込まれていたのだ。


しかも――その鉄の蓋の隙間からは、むせ返るような熱気とともに、二つの強烈な匂いが下から吹き上げてきていた!

一つは、俺が魂の底から求めている『温かく溶けた大量の神の秘宝(チョコレート)と甘い蜜』の天上の香り。

そしてもう一つは、その地下の暗闇をうろついている『何百体もの飢えたモンスターども』の野生の獣臭だった!


ハルトも爆裂魔石と足元の鉄蓋に気づき、必死の声で叫んだ。


「ゴブ、もう上には逃げられないし、あの爆弾が爆発する! この床の鉄格子は、地下1階の『カカオ調合フロア』に繋がる点検口だ! 君のバールでその鉄の蓋をこじ開けてくれ、下へ飛び降りるぞ!!」


《契約主ハルトの『緊急突破命令』を受領! 3秒間だけ肉体のリミッターを強制解除し、筋力が+20%上昇します!》


(この鉄の蓋の下が、神の秘宝が眠る地下階層なのか!? 上等だ鞄持ち、爆裂魔石ごとあばよだぜ!!)


俺は穴だらけの鉄扉の盾を投げ捨てると、愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』を両手で逆手に握り直し、その曲がった鉤爪の先端を、床の鉄蓋と石床のわずかな隙間へとガツン!と力任せに叩き込んだ!


俺の緑色の両腕の血管が、縄のように太く浮き上がる。

撃ち抜かれた左太ももから緑の血が噴き出す痛みも忘れ、俺は石床を踏みしめて唯一の武器スキルを解き放った!


「ゴブァァァアアアアアアアッ!!(開けやァッ、【暴食の痛撃 Lv.3】!!)」


――ギギギギギッ……バキィィィィンッ!!


全身の筋肉を絞った俺の渾身のてこの力が、人間が固定した四本の太い鉄の杭を根元からねじ切り、周囲の石床を砕いて重さ百キロの分厚い鉄の蓋を栓抜きのように宙へと跳ね飛ばした!


足元に、直径一メートル半の真っ暗な縦穴が口を開ける。

俺はハルトの腰帯を片手で小麦粉の袋のように引っ掴んで自分の胸に抱え込むと、ためらうことなくその暗闇の縦穴へと頭から飛び込んだ――その直後、俺たちの頭上で緑色の爆裂魔石が大爆発を起こした!


――ドゴォォォォォォォンッ!!


灼熱の爆風と鉄片の嵐が、俺たちのつむじが縦穴へ消えたコンマ一秒後に上の部屋の床を薙ぎ払った。

俺たちは暗闇の空間を六メートルほど落下し、俺が下で受け身を取って、香ばしい匂いのする麻袋(空のカカオ豆の袋)が山積みにされた柔らかい山の上へとドサッ!と着地した。


「ゴホッ、ゴホッ……! い、生きてる……助かったよ、ゴブ!」


麻袋の山から転がり落ちたハルトが、煤(すす)で汚れたメガネを直しながら、黒い煙が噴き込んでいる天井の穴を見上げた。

六メートル上の穴の縁から、首領クロカワが忌々しそうに顔を覗かせ、吐き捨てるように怒鳴るのが聞こえた。


『チッ、あの緑の化け物め、素手で点検口の鉄格子を引き剥がして地下1階へ逃げやがったか! ……まあいい、あいつらはもう終わりだ! あの地下フロアの扉は外から全部溶接して封鎖してある! 銃弾で死ななくても、地下のカカオタンクに巣食う「あの化け物ども」に骨まで食い尽くされるだけだ、ほっとけ!!』


上の男たちの足音が遠ざかり、重い鉄の蓋が再び上から塞がれて周囲が薄暗闇に包まれた。

だが、俺は上の臆病者どもの言葉などどうでもよかった。


俺は麻袋の山の前で四つん這いになり、左太ももから滴り落ちる緑の血を押さえながら、荒い息を吐いていた。


《現在のHP:28%(重傷・魔力枯渇状態)》


暑い。

この地下階層は、まるで熱帯の沼地のように蒸し暑く、空気そのものが甘く重苦しい熱気を帯びていた。

赤い非常灯のわずかな光に照らされた周囲には、巨大な鉄の釜や、ひっくり返った銀色の桶、そして大木の幹のように太い鉄の管が迷路のように入り組んでおり、割れた管の継ぎ目からは、茶色く固まった『神の秘宝(チョコレート)』が鍾乳石のように垂れ下がっていた。


だが――この地下階層には、俺たち以外の『主(ぬし)』がいた。


――カリカリ……ペチャ、ペチャ……グルルルル……。


巨大な鉄の釜の陰や、さらには天井を走る太い管の上――まるで巨大な蜘蛛のように逆さまに張り付いた何十体もの異形の影が、一斉に真っ赤に充血した目を開いて俺とハルトを見下ろしたのだ。


そいつらは、外の街をノロノロと歩いていたレベル1の腐った死体とはまったく別物のモンスターだった。

そいつらの全身は、黒くツヤツヤと輝く『分厚い結晶化した秘宝(カカオと焦がし砂糖)の黒い鎧』にすっぽりと覆われており、その内側の筋肉は過剰なまでの栄養と魔力を吸い上げてドクンドクンと異常な速さで脈打っていた!


俺は血のついた『鉤爪付きの鉄の棍棒』を構え、天井の管から猛スピードで這い降りてきた先頭の一体に【捕食鑑定】を発動した。


――――――――――――――――――――

【種族:秘宝過食アンデッド(高カロリー・カカオ変異種)――レベル:18】

【筋力:52/敏捷:58/防御:45】

【特徴:結晶化カカオの重装甲/過剰栄養による超高速駆動】

――――――――――――――――――――


レベル18の上位アンデッドが、暗闇の中にざっと四十体以上。

四方を完全に囲まれたハルトは、壁や天井をゴキブリのような猛スピードで這い回る黒い鎧の怪物たちを見て、絶望に顔をひきつらせた。


だが――重傷を負い、飢えに苦しんでいた俺の緑色の顔に浮かんだのは、恐怖ではなく、生まれて初めて見せるほど凶悪で歓喜に満ちた笑みだった。


(……ほう。なるほどな)


俺は唇についた自分の緑色の血を舌で舐め取り、目の前のレベル18の怪物たちが身に纏っている『分厚い黒光りするチョコレートの鎧』をギラついた目で睨みつけた。


(てめえらアンデッドの分際で……この一ヶ月間、俺様の神の秘宝の泉に勝手に浸かって、体に鎧が生えるまで俺様のミルクチョコレートを食い散らかしてやがったのか……!!)


俺が握りしめた鉄の棍棒が、ミシミシと音を立てて軋んだ。


「ゴブ……グガアアアアアアアッ!!(おい鞄持ち、その二本の短杖を構えろ!! この地下階層じゃ、最高級の秘宝(メシ)と大量の経験値が向こうから歩いてきやがるぞ……一匹残らず引っ剥がして俺様の胃袋にぶち込んでやるぜええええっ!!)」


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