02 表面だけの甘さ
人生初めての正式な告白を受けて、初めてその"恋心"を食した。
だが、だからといってその女子が初めての"恋人"ではない。
目の前の女子生徒には食べ尽くされて恋心はもはや無い。当然、付き合いたいという意志も無くなっているだろう。今はただ自分が何をしたのか分からず混乱している。
「私どうしてここにいるんだっけ……? 夜岸……くん」
恋愛感情とそれに伴う行動についてはあやふやになるが、記憶は残っているようだ。
「さあ? 僕は誰かいるなって覗いたら具合が悪そうだったから入って来ただけ。もう大丈夫?」
尋ねると彼女は少し時間がかかったが、強くうなずいた。
私に"何か言っても仕方ない"と思ったのだろう。──それでいい。
教室を出る時、一言だけ彼女に声をかけた。
「さようなら」
真の"食事"の味を知った自分は何というか……
簡単に言えば有頂天になっていた。
ずっと気になっていた鍵のかかった箱が開き、自分の探していたものの答えがそこにあったような気持ち──
自分はついに見つけた
これだ
これだったのだ
意識を集中して嗅ぎ分けると、教室内には何人かがよい香りを漂わせていた。しっかり見ると、他の人間よりも艶やかで魅力的に感じる。──自分にとって必要なものに。
翌日から 私は社交的な人間になった。
人ざわり良く誰にでも声をかけた。──女子には特に。
良い香りがする人間には、ぶつかったり握手をする程度でも触れれば飢えが癒やされることも覚えた。
人の食事は変わらず食べ続けることは勿論できた。感覚としては、肉体維持のために。だが飢えや渇き、空腹の気持ちを鎮められるのは唯一"恋心"だけだった。
それを補充することは意外にも容易かった。
よい香りのする──食欲を刺激する女子を呼び出し、自分から告白をした。
"私も好きだった"と言われたら喜ぶ仕草として抱き締める。そうすれば恋心は吸収できた。しかもすぐに相手の女性達はその一連の出来事は忘れてしまうのだ。
実験的な告白をしたことさえあった。
中学2年の頃にもなると、背丈は伸び、女優の母親の血のおかげもあってか外見で目を惹くようになっていた。
愛想を振る舞うよりも、この時期はスポーツが得意なら人間からの人気は上がるようだった。
バスケットボールには真剣に取り込み、朝はジョギングをして、走り込みだけは常にクラスでトップを競っていた。
狙いは当たり、部活や体育祭では黄色い歓声をよく耳にするようになった。
そして行動はエスカレートしていく──
ある日、自分に好意があることが明白な2人の女子生徒を家に連れて帰った。
期末考査前で、部活動は休みだった。テスト勉強をしようと言うのが集まった目的だった。
ところが私の部屋で3人で話しているうちに、内容は妙な方向に向かい出した──
「連くん 私たちさ、2人とも……連くんが好きなんだよね」
橋本爽子と加々見舞は顔を見合わせながら、お互いを探るようにした。
「えっ?」
びっくりした顔をする。もう何度もしてきた顔だ。だが続く爽子の言葉には、演技ではなく驚かされることになる──
「連くんは、あたしと舞…………どっちが好き?」
部屋は静まり返る。
女の子達は不安そうにしながらも、少し いたずらめいたような笑みを浮かべてこちらを見ている。
その期待した瞳の輝きを際立たせたものは、確かな闇だ。
彼女達の奥に潜む"無邪気な獰猛さ"に気付かされた瞬間だった。
ただ喰われるだけの生き物ではないらしい。
面白い──
心から そう 思った。




