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お姫様は少年との初恋を捨てずに持ち続けた〜恋のゴミ箱のある魔法の王国にて〜

掲載日:2026/04/30

魔法のある王国・オリジナル異世界設定です。

よろしくお願いします。

 



 魔法王国(まほうおうこく)ヴェダイン



 ここでは様々(さまざま)魔術(まじゅつ)や魔法によって 魔道具(まどうぐ)魔法薬(まほうやく)が生み出され、人々に活用(かつよう)されていた。

 しかしそれも ほとんどは王族(おうぞく)貴族(きぞく)のもの。

 平民(へいみん)は魔法に(たよ)らず(みずか)らの力で生きなければならなかった。




 王国第3王女である6歳のフィリシア姫には、さらなる特殊(とくしゅ)な魔法がかけられていた。


 "初恋(はつこい)()てる魔法" だ。


 家や国のために結婚(けっこん)することの多い王族や貴族達には"初恋"は不要(ふよう)のものだからである。


 "初恋を捨てる魔法"が かかっていると (だれ)かに初めて恋をしたとき、その気持ちが(かみ)の形となって(むね)から()き出てくるのだ。

 そして魔力(まりょく)でクシャクシャになり、近くの魔法のゴミ箱に入る仕組(しく)みになっている。


 多くの王族や貴族には好評(こうひょう)だった。

 (かな)わない想いが苦しくなる前に消し去れるのだから。面倒(めんどう)ごとや危険性(きけんせい)()る。

 初恋が結婚相手(けっこんあいて)場合(ばあい)解除魔法(かいじょまほう)もあった。




 だが今トコトコと厩舎(きゅうしゃ)に向かうフィリシア姫は(ちが)った。



 フィリシアはクシャクシャになった"初恋の紙"をゴミ箱から(ひろ)い、小さな手で一生懸命(いっしょうけんめい)()ばしたのだ。

 そうして大事(だいじ)にたたんでポケットにしまって、ゴミ箱には近づかないようにした。


 時間が()つとポケットの中でクシャクシャに(もど)っていることもあった。でもフィリシィアは根気(こんき)()くまたシワを伸ばす。


 そうしていつも──今も、彼女は厩番(うまやばん)の息子のカイトを見に行った。彼はまだ8歳なのに、とっても馬を上手(じょうず)(あやつ)るのだ。


 馬に(やさ)しいし……大人より速く走らせていてカッコイイっ!


 そうやって毎日を()ごしていたら、いつの間にか"初恋の紙"はシワ無しになっていた。魔法のゴミ箱の方も ()()もうとしなくなったようだ。

 フィリシアはその小さな手でガッツポーズした。

 


 わたしは彼を ずぅっと大好きでいよう



 そう思った。






 ある日──信じられないことが起こった。

 いつも(さく)から見ているフィリシアの(もと)に、カイトが馬に乗って近づいて来たのだ。

 フィリシアはドキドキした。自分の心臓(しんぞう)の音を初めて聞いた。

 カイトは


「馬が好き? 良かったら君も()る?」


 と聞いてくれた。フィリシアは元気に返事(へんじ)をし柵の内側(うちがわ)に入る。そしてなんとカイトの乗る馬に一緒(いっしょ)に乗せてもらったのだ。

 背の低いフィリシアは当然(とうぜん)前に乗り、手綱(たづな)(にぎ)るためにカイトの腕が両脇(りょうわき)に回される。


(わぁ……! まるで()きしめられているみたい……!)


 フィリシアは真っ赤(まっか)になったが 乗馬(じょうば)を心から楽しんだ。

 カイトは見事(みごと)に馬を(あやつ)り 馬は風を切って走った。







 翌日(よくじつ)──飛び起きて厩舎(きゅうしゃ)にトテトテと向かう。また彼に会いたくて早足(はやあし)になった。


 息を切らして到着(とうちゃく)すると、カイトの姿(すがた)は右を見ても左を見てもどこにも無い。


早く来すぎたのかも……


 古参(こさん)調教師(ちょうきょうし)にカイトのことを聞くと 思わぬ返事がきた。


「お(しか)りを受けたんですよ。姫様を乗せて子供と走らせたってね。アイツと父親は、もう少ししないと出て来れないんです」


 衝撃(しょうげき)だった。

 フィリシアは初めて──カイトと自分との身分(みぶん)()現実(げんじつ)を知った。

 トボトボと……泣きながらお城へと戻った。






 暗い夜が(おとず)れる──

 ベッドで(ねむ)りにつく前に フィリシアは"初恋の紙"を手に取った。

 フィリシアは……フィリシアは それを(むね)の上に()いて眠った。

 月明(つきあ)かりを通す窓は それを静かに見守(みまも)った。






 フィリシアは厩舎に行くことはやめなかった。

けれども柵までは行かず、カイトの姿(すがた)を遠くから見つけては 安堵(あんど)した。






 やがてフィリシアにも乗馬の練習(れんしゅう)許可(きょか)が王様から(くだ)された。熟練(じゅくれん)の調教師が専属(せんぞく)で付いた。

 フィリシアは本当はカイトに教わりたかったが、それは口にしない。

 いつもより ただ近くにいられるだけで充分(じゅうぶん)だった。





 "初恋の紙"は時折(ときおり)シワが()った。

 フィリシアはその(たび)にシワを伸ばした。

 少し 大きくなった手で。


 




 それから数年も()った頃、厩舎からカイトの姿が見えなくなった。

 フィリシアは彼の父親に


「カイトの姿が最近(さいきん)無いようですが、あの……?」


 と(たず)ねた。父親は()れたように笑って


「アイツ兵士(へいし)になりたいだなんて言いだしたんですよ、姫様。だから先日から剣の訓練に参加(さんか)してるんです」


 と教えてくれた。





 フィリシアはその(ばん)"初恋の紙"を机に広げて、彼のために心から(いの)った。

 自分はこれくらいしか出来(でき)ないけれど、どうか彼が怪我(けが)をしたりしませんように……






 カイトの姿はやがて 城内(じょうない)の広場で訓練兵として見かけることになった。

 彼が一生懸命(いっしょうけんめい) 剣を(にぎ)って戦う姿を、フィリシアは城壁(じょうへき)や窓から見守った。





 さらに数年経つとカイトは騎馬隊(きばたい)抜擢(ばってき)されていた。

 フィリシアは納得(なっとく)だった。

 彼の乗馬のうまさを知っているから。



 城内を彼が歩いていることもあり、挨拶(あいさつ)()わすこともあった。短くて形式的(けいしきてき)なやり取りを お互い一言だけ。

 それでもフィリシアはとても嬉しかった。

 日記にはいつも そのたった一言(ひとこと)の挨拶がどう交わされたかが、(こま)やかに(つづ)られる。


『カイトは颯爽(さっそう)と現れて チラリと私を見てから立ち止まり、少し微笑(ほほえ)んで"おはようございます"と言ってくれる…………』


 また ある日は


『カイトは長い(あし)で駆けてきたけれど、私の前で(あわ)てて止まった。それから一礼(いちれい)して"すみません、(おく)れそうで──おはようございます!"とまた駿馬(しゅんめ)のように走り出した。…………』



 同じような文章ばかり(なら)んだが、フィリシアは幸せだった。

 日記だけが彼女の恋心(こいごごろ)を知っていた。






 王国内でも"お年頃(としごろ)"と呼ばれる年齢(ねんれい)になり、フィリシアは気付き始めてもいた。

 自分達はこのままではいられない……と。


 青年になったカイトはとても魅力的(みりょくてき)で、騎馬隊としての働きも(たた)えられ最近は──女性達にも(かこ)まれている。




 "初恋の紙"にはシワがまた見え始めていた。

 白く細い女性の指と手となったフィリシアは、その日初めてシワを消そうとすることを────やめた。





 明るいブラウンの髪にチョコレート色の(あい)らしい(ひとみ)のフィリシアには、16才になると縁談(えんだん)の話が持ち上がるようになった。第3王女という立場(たちば)は、いずれは国益(こくえき)のために良縁(りょうえん)があれば(とつ)がなければいけない。


 分かっていたが フィリシアは首を(たて)に振れなかった。自分でも(おろ)かで……罰当(ばちあ)たりな王女だと思った。





 乗馬はしなくなり 日記は(かぎ)のかかった引き出しにしまわれた。

 "初恋の紙"はポケットの中でシワをどんどんと増やしたが、フィリシアはもう伸ばそうとすることが出来なかった。

 日記の無い机でフィリシアは泣き、(はね)ペンも項垂(うなだ)れた。

 窓はただ燭台(しょくだい)(あか)りに照らされる彼女のその姿を(うつ)した。









 ある日、(やみ)の森の魔獣達(まじゅうたち)王都(おうと)へと襲撃(しゅうげき)してきた。

 歩兵(ほへい)弓兵(きゅうへい)騎馬隊(きばたい)魔術師部隊達(まじゅつしぶたいたち)総出(そうで)し、大方(おおかた)の魔獣は(たお)された。しかしこちらも被害(ひがい)は大きく、最後の一体の強力(きょうりょく)な魔獣は城内の玉座(ぎょくざ)にまで(せま)った。

 近衛隊(このえたい)までが出撃(しゅつげき)し、王族達を守る。

 フィリシアもその中にいたが、彼女は近衛隊の前で1人敵と戦うカイトを見つけた。


 彼は頭から血を流し 左脚(ひだりあし)の一部が石化(せきか)していた。(てき)(へび)と女が合わさったような魔獣の力だった。

 フィリシアは


「誰か! カイトを助けて!!」


 と近衛隊にすがったが、すでに負傷(ふしょう)も多い彼らには


退()がっていて下さい! 姫様!」

「我々は貴方(あなた)がたをお守りするのが使命(しめい)です!」


 と動いてはもらえなかった。

 フィリシアは必死(ひっし)(はし)で倒れている兵士の下の剣を取ろうとしたが、彼女だけでは それを引き抜けない。


(私の力では駄目(だめ)だわ…………!)


 絶望(ぜつぼう)でフィリシアの瞳からは涙が落ちる。

 カイトは(さら)なる攻撃(こうげき)を受けて左腕も石化されていた。蛇の女は口を大きく開け、彼を飲み込もうとしている!

 その視界(しかい)中央(ちゅうおう)、フィリシィアの対角(たいかく)には───魔法のゴミ箱が何故(なぜ)かあった。


(おも)いものは()てないけれど……)


 フィリシィアはポケットから、持ち続けて──今はクシャクシャになった"初恋の紙"を(にぎ)りしめた。彼女は魔術師ではないけれど その(おも)いの(すべ)てを()める……!


真っ直(まっす)ぐゴミ箱に向かって!!」


 精一杯(せいいっぱい)投げたが、玉座(ぎょくざ)()の広さは相当(そうとう)なものだ。

 だが 魔法を宿(やど)す"初恋の紙"はグングン伸びた。ゴミ箱は心無(こころな)しか(かたむ)き、吸い込もうとしているかのようだ。

 割れたガラスが()れ、窓は風を取り込んだ。


 ビシッ!!!


 と強烈(きょうれつ)な音がして魔獣の顔に"初恋の紙"は当たり、魔獣が顔を触手(しょくしゅ)()さえた。その(すき)にカイトは剣を振り上げる────!!!


 魔獣は(たお)れ、近衛隊がオォ!と()く。国王も王族達もだ。あっという間にカイトとフィリシアはみんなに抱きしめられ、賞賛(しょうさん)される。

 フィリシアも心から嬉しかった。


 私でも 彼を助けられた


 けれども彼女は落胆(らくたん)もしていた。

 持ち続けた"初恋の紙"はついに魔法のゴミ箱に吸い込まれていた。


 彼女は



 私の初恋は()わったのだ──



 と思った。








 魔獣の襲撃(しゅうげき)()らされた場内(じょうない)片付(かたづ)けられ、(いのち)ある兵士達は治癒魔法(ちゆまほう)でほとんどが回復(かいふく)していた。石化したカイトの体もすっかり元通りだった。

 被害(ひがい)の少なかった大広間(おおひろま)を使って、その日はカイトの奨励式(しょうれいしき)が行われた。

 その功績(こうせき)から彼は男爵位(だんしゃくい)となって領地(りょうち)(さず)かった。

 大出世(だいしゅっせ)だった。


「他に何か()しいものがあれば()べてみよ。今なら考えても良い」


 国王の言葉に笑いも起こったが、カイトは真剣(しんけん)な顔をした。


「ではフィリシア姫への求婚(きゅうこん)機会(きかい)を自分に(いただ)けませんか?」



 ズベン……



 変な音にみんなが振り返ると、フィリシアが椅子(いす)から落ちていた。カイトはすぐに駆け寄った。


大丈夫(だいじょうぶ)ですか? 姫」


 大丈夫ではなかった。フィリシアは混乱(こんらん)しながら聞いた。


「……ど、ど、どうしてですか? 私はあなたへの"初恋の紙"を()ててしまったのに。なぜ私に求婚を?」


 フィリシアの言葉から、カイトは彼女の初恋の相手が自分なのだと気づいた。顔を赤らめながらも、(うれ)しそうに()げる。


「僕もあなたが厩舎(きゅうしゃ)に見に来てくれた頃から ずっと好きだったからです。()程知(ほどし)らずとは分かっていても。

 助けてくれて本当にありがとう」



 彼はそうしてぎゅっ と()()めた──初恋の人を。



 フィリシアの耳には 周囲(しゅうい)拍手(はくしゅ)歓声(かんせい)(とど)いた。


 不思議(ふしぎ)とそれは、人間達だけではないように感じられた。



 大好きな人に抱き締められ、フィリシアはその(ぬく)もりと幸せに 微笑(ほほえ)んだ。









本文に載せれませんでしたが、日記帳はパタパタと、羽ペンも羽をフワリとさせて喜んでいるかも。

魔法のゴミ箱はカイトのために一生懸命ピョコピョコ 移動したのかもしれません。


私はいろいろ楽しい想像をして書きました。

魔法の王国での 小さなお姫様のたった1人の初恋の奮闘を、優しい気持ちで書きたいと思いました。


お読み頂いた方々、大変ありがとうございました。


                  シロクマシロウ子

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― 新着の感想 ―
 すんごく可愛らしいお話ですね❗  6歳からずっと変わらない一途な想いがいじらしくて。  めちゃ可愛かったですう❗゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
 この物語で使われる魔術や魔法具や魔法薬を操る方々と同じかは判りませんが、フィリシアは恋を通して魔女となる才に目覚めたのかもしれませんね。
フィリシアのけなげさが報われた感じですね。 初恋を捨てさせる魔法というアイディアにむむむです。 現実にもどこか通じるところがあるかなあ……
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