01 目覚めの刻
自分が人間とは違うことに気がついたのはいつだろう
思えば父親もどこか──演技は上手いが感情の薄い男だった。
産みの母親は女優の爾来領子
だが自分にその女性との記憶は無く、父は次から次へと新しい女性を連れてきた。
────何故だろう
それが全く嫌ではなかった
なんとも思わない──どころか
当然だ と思った。
次から次に来る様々な女性達に とり入って
物分かりの良い 楽しい子供を演じる
可愛がられ育まれ
新しい女性が来ればまた
彼女達を褒めて 喜ばせる
慈しまれ愛される
父親も そういう私に満足しているようだった。
だがどうしても────
料理だけは 誰の作ったものも 美味しい とは思えなかった
ある朝 父の寝室のドアが開いていた。
彼が眠っている女性に心底 愛おしいそうに触れているのが見えた。
彼のその表情に驚いて 目が離せないでいると
やがてその瞳と目が合った。
父は楽しそうに微笑んで言った。
"お前も もうすぐ 分かるようになる"
と。
朝日の差し込む部屋で聞いたのに
その時の彼の瞳は 夜のような漆黒の闇を 宿していた。
それは中学1年の秋だったと思う。
校内で体育祭が行われて、自分はバスケットボールに参加した。
何本かシュートが決まり そのチームは優勝した。決勝では3年生に勝ったので クラス中大盛り上がりだった。
その日帰ろうとした時──
「連くん、話があるんだけど……いい?」
と呼び止められて、クラスの女子に上目遣いに見られた。
瞬間、相手からなんとも言えない香りがした。
本能的に湧き起こる──"飢え"
自分でもよく分からないが、とにかく今目の前にいる女の子は魅力があると感じた。なんだか……惹きつけられる。
「いいよ、何?」
優しく微笑むと彼女はホッとしたような顔をして手招きした。
2人で 使っていない教室に入る。
どうしようもなく……気持ちが高揚している。それでいて研ぎ澄まされていて……
逃すまいと目の前の女子を真剣に見つめた。
彼女は もじもじしていたが 話し出した。
「あの……あのね、私 前から連くんがいいなって思っていたの。今日はもうシュートも連発だし、すっごいカッコイイなって思っちゃって、それで……」
顔を赤らめて 息をついてから彼女は言った。
「好きなので、付き合って下さい!!」
言われたことに答える必要は感じなかった。
大切なのは──
「好きになってくれて 嬉しいよ」
それだ。告白してくれた彼女の腕を掴み 抱き寄せた。
「れ、連くん……!」
驚きと戸惑いを含む声がしたが、全身で包み込んで抱き締めた。
誰にも──父にも教わりもしていないのに 自然と身体はそう動き、そして──
流れ込んできた……!
確かに その感情が
この肉体に
血に肉に
五臓六腑に
骨にまでも
染み渡る
満たされる
今まで常にあった渇きと飢えが
ひび割れていた土のようにそれを取り込む
埋められて はめ込まれて
足りていなかったものに初めて気づく
そして知る
父が味わっていたものはこれだったのだ──と。
この個体からはもう無くなったことを感じ、腕の中で呆然としている女子を支えながら自然に笑みが浮かんだ。
食い尽くされてせっかくの好意は消えてしまったようだ。
本当にありがとう
“ごちそうさま”
そして、見えないけれども何故か これはハッキリと分かった。
自分の瞳は今きっと 夜のような闇を宿しているのだろう────あの人と同じ。




