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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
106/107

106.実験跡?

「なんか書いてあります?」


 オレが助手席で和綴じノートを読んでいると、畑谷はエンジンをかけながら訊いてきた。

 畑谷の店に帰る前に、先ほどの公園の岩について、岡田教授の和綴じノートに書かれていないか1ぺージ1ページ確認してみることにしたのだ。何も知らずに読むのと、岡田教授の周囲に何があったかを知ってから読むのとでは、見え方が変わるかもしれないという淡い期待を込めてだ。

 和綴じノートに書かれているのは、基本的にヒスイの産地と住んでいるオルダの様子となっている。それ以外に、鬼虎と千代の家系図と、お湯をかけた、冷凍庫に入れた等の実験について記されている。


「これ、さ」


 オレはあるページを開いて畑谷に渡した。

 畑谷は一旦エンジンを止めて、ノートを受け取った。


「前に読んだときは、そういう実験をしてみた的な中の一つだと思ってたんだが。そこに描かれている下の石、さっきの公園の岩の一つに似てない? 緑色片岩、ちょっと緑っぽかった石」

「どんなでしたっけ?」

「一番手前にあったやつ」

「ああ、確かにこんな形だったかもっす」

「で、この矢印。上にある砂利みたいなのから下の石に矢印出てるじゃん? 最初読んだときは何のことだか分からなかったけどさ、これオルダが移動したってことじゃないか?」


 そのページには、下に横長に大きな石が描かれ、上に小石のようなものがたくさん描かれている。その小石群から下の大きな石に向けて矢印が描かれていた。コメントは書かれておらず、オルダも描かれてはいない。ただ丸っぽい石のようなものと矢印だけが描かれている。


「上の部分がよく分かんねえんだけど。このページ、なんでコメント書いてないんだろう」

「この上の砂利はオルダの石を割ったってことじゃないっすかね?」

「割った?」

「あの岩の上で、石を割って、下に移したとか」

「空中に浮かんでいたから何を意味してるのか分かんなかったが、確かに割ったと言われれば、割ったようにも見える。その割った中の一つから下の石に移ったってことか」

「そういう風にも見えるっす」

「つまり、石の上で砕いていって…オルダのサイズよりも小さくしたらオルダが飛び出るとか、そういう実験をした可能性あるな」

「もっかい公園に行ってみます? 石の破片落ちてるかどうか確認しに」

「行くか」


 オレたちは車を降り、公園へと戻った。

 岩が埋められている付近に到着すると、先ほどは目に入ってこなかったが、大きな岩の周辺に細かい石が所々に落ちていることに気づいた。細かい石は砂利のように丸いものが多いが、その中に角が鋭くなっている石も混じっている。

 畑谷は角が鋭い石をいくつか拾って、くっつけたり離したりしている。


「あっ」


 畑谷が声を出した。


「どうした?」

「くっついたっす」


 畑谷は二つの小さい石を右手と左手にそれぞれ持ち、石と石を合わせた。それは見事に隙間なく合わさった。


「やっぱ、ここで石を割った説はあるっすね」

「ってことは…」


 オレは他の岩の方に移動した。その周囲にも同じように割ったと思われる小さな石が所々に落ちていた。

 面が真っ平らで角が鋭い石を拾い上げた。それは蛇紋岩の破片のようだった。ヒスイが含まれていた可能性のある石である。周辺に落ちている同じ蛇紋岩の石を一つ一つ拾って確認した。ぴったりと面がくっつく石がいくつかあり、元の石に近い形になりそうだが、すべてのピースが揃っているわけでもなさそうだった。また、ヒスイは見当たらなかった。


「破片の一部は持ち帰っていた可能性あるな」

「いらない石だけここに捨ててったってことっすか? ダメじゃないっすか」

「この蛇紋岩、ヒスイが含まれている可能性のあるものだ。で、これをいろいろ合わせてみたが、ピッタリとはくっつかない。もしかしたら、この欠けてる部分にヒスイがあったかもしれない」

「ヒスイがあった可能性があるってことは、オルダがいた可能性があるってことっすね」

「この状況証拠からして、教授はそれぞれの石で実験を繰り返していた可能性ありそうだな」

「でも、オルダがいた岩はこれと、それと、あれだけっすよね。こっちの岩の周りにも落ちてるっすよ」

「岡田教授はオーナーから売り物にならない石を譲ってもらってたってことだから、オレが挨拶済みの石でやってた可能性はある」

「あ~、三田さんがいたら完璧に分かるのに」

「検視官の?」

「三田さんは今、生まれたての赤ちゃんみたいなもんじゃないっすか。ほとんどの石と挨拶したことがない人が一番オルダを見つけられるっす」

「確かにな。でも、このために三田さん呼ぶのも悪いもんなあ。そういう意味では、呼んでも無駄なのは清水さんか」

「五十嵐さんのお古っすもんね。逆にその岩のオルダと共鳴しないとかあるかも」

「岡田教授が生きてたらな。本人に確認できたのに」

「生きてたら、戸塚さんここ来てないっすよ。俺ともきっと出会ってないっす」

「そっか。オレたちは岡田教授が死んでる世界線いるのか…」


 オレは思わず笑ってしまった。


「どうしたんすか?」

「いやさ、会ったこともない人が生きているか、亡くなっているかで、オレの人生も変わるのかと思ったら面白いなって」


 畑谷は「あ~、確かに」と納得した。


「俺もそうっすよね。岡田教授が亡くなってなかったら、俺はオルダを知らないまま、普通に店で骨董マニアの相手しながら過ごしてただけっす。根音村の存在だって、戸塚さんはもしかしたらオーナー経由で知ったかもしれなかったっすけど、俺は知らないまま過ごしてたっす。診療所の先生と看護師さんに会うこともなければ、刑事さんと一緒に捜査するって経験もきっとしなかったす」

「香川さんだって、清水さんだって、三田さんだって、岡田教授が亡くなってなければ、オルダと契約することもなかったんだ。きっと五十嵐だって、岡田教授が生きていれば片目を失っていなかったし、今もオルダハンターとして色んな所に行ってたんだろう。黙光寺の住職さんは今も寺に引きこもっていたかもしれない。一人の死が、こんなに色んな人の人生に影響与えるんだな…」

「人の繋がりって、面白いっすね」

「な」


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