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光よ、満ちろ  作者: 織 航(しき わたる)


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第31話 光の刃

 イリアが、何も言わずに僕の腕を取った。

 城壁の上ではできない。

 門の陰、滑車と太い綱が積まれた石造りの小部屋へ移される。

 外からは見えない。

 門を支える兵士にも、壁の下にいる人たちにも。

 ただ、鎧猪が地面を踏む音だけが、石の床から伝わってきた。

 サリアが部屋の入口で杖を構える。


「切り離された器の形を保ちます。光が散る前に、剣へ定着させます」


 声が震えていた。

 イリアは欠けた剣を床へ置き、予備の剣を抜いた。

 刃はまだ一度も使われていないように澄んでいる。

 その剣へ、僕の身体を使う。

 吐きそうになった。


「……見ない方がいいですか」


 僕は訊いた。

 イリアは一度だけ、目を伏せた。


「好きにしろ」


「そんな言い方」


「目を逸らしても、起きることは変わらない」


 その通りだった。

 だから、僕は見た。

 右腕を石台の上へ置く。

 手が震えている。

 押さえようとしても止まらない。


「リュシアン」


 アニエスが僕の名を呼んだ。

 僕は答えられなかった。


「許してとは言わない」


 イリアの剣が上がった。

 ガルヴァンの前で感じた痛みが、まだ刃が落ちてもいないのに蘇る。


「や――」


 剣が落ちた。

 熱い。

 右腕が、肘の少し上から床へ落ちた。


「あ、あああっ……!」


 身体が崩れる。

 石床へ膝をつく。

 痛みは遅れて来なかった。

 切られる前から身体の中に隠れていたものが、一度に溢れたみたいだった。

 アニエスが僕の身体を支える。


「サリア!」


「はい!」


 床へ落ちるはずだった右腕が、淡い白い線に包まれる。


「光の精霊よ、散らず、崩れず、刃の内へ留まりなさい!」


 サリアの杖から伸びた線が、切り離された腕へ絡みつく。

 指が崩れる。

 皮膚がほどける。

 骨も、血も、白い粒へ変わっていく。

 自分の腕だったものが、光になっていく。

 イリアが予備の剣を差し出す。

 白い粒が刃へ吸い寄せられた。

 銀色の剣の上へ薄い光が重なり、もう一本の刃のように形を結ぶ。

 剣が、低く鳴った。

 同時に、僕の腕の切断面からも白い光が溢れた。

 肉が戻る。

 骨が伸びる。

 指が形を取り戻していく。

 右腕は戻った。

 けれど、痛みは残っていた。

 床に落ちたはずの腕は、光となってイリアの剣にまとわりついている。


「……できました」


 サリアが言った。

 声はひどく小さかった。


「長くは保たない」


 アニエスが立ち上がる。


「イリア。核まで一度で届けて」


「分かっている」


 イリアは光の剣を持ち、部屋を出た。

 門の外で、鎧猪の吼える声が響く。


「門を開ける」

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