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光よ、満ちろ  作者: 織 航(しき わたる)


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第18話 勇者という毒

 イリアの反応は速かった。

 一歩で踏み込む。

 大剣が横に走る。

 蛇の頭が飛んだ。

 声が途切れる。

 その瞬間、狼魔王の目から迷いが消えた。

 喰うな。

 その命令だけが消えたのだと、遅れて分かった。

 狼魔王が跳んだ。

 速い。

 避けられなかった。

 肩口に、牙が入る。

 骨の奥まで冷たいものが届いた。

 次の瞬間、熱が爆ぜた。


「あ――」


 声にならなかった。

 肩を噛まれている。

 痛い。

 痛いはずなのに、それよりも熱い。

 狼魔王の牙が肉を裂く。

 僕の身体から何かが持っていかれる。

 腕ではない。

 けれど、身体の一部が喰われている。

 狼魔王の喉が動いた。

 飲み込んだ。

 その瞬間、狼魔王の胸の奥で白い光が弾けた。

 黒い輪が内側から焼ける。

 狼魔王が吠えた。

 獣の声ではなかった。

 石を砕き、泥を煮立たせるような悲鳴だった。

 肋骨の隙間から白い光が漏れる。

 黒い結晶の目が割れた。

 牙が砕け、毛皮の下で光が走る。

 僕は地面に倒れていた。

 肩が熱い。

 喰われたはずの場所が、焼けるように痛む。

 けれど、そこから光があふれている。

 サリアが僕の横に膝をつく。


「動かないでください」


 声が少しだけ揺れていた。

 狼魔王はまだ暴れている。

 イリアが下がる。

 サリアが結界を張る。

 アニエスだけが、狼魔王を見ている。

 表情は変わらない。

 けれど、僕には分かった。

 こうなると分かっていた。

 蛇を殺したのは僕を守るためじゃない。

 見られないようにするためだ。

 そして、止める声が消えれば、魔王は僕を喰う。

 それも、分かっていた。

 全部、アニエスの思惑通りだった。

 狼魔王の体躯が内側から裂ける。

 白い光が黒い核を焼き、黒い霧を押し出していく。

 肉が崩れ、骨が灰になり、巨大な狼の形が保てなくなる。

 最後に、胸の奥の黒い輪が砕けた。

 狼魔王は、音もなく崩れた。

 残ったのは、焼けた土と黒い灰だけだった。

 息が荒い。

 肩を押さえる。

 指の間に血はない。

 傷口は、もう塞がり始めていた。

 でも、噛まれた感覚だけが残っている。

 喰われた。

 僕はまた、喰われた。

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