第12話 死にたくないなら
「……今回も、喰わせるんですよね」
声が震えた。
イリアがこちらを見た。
「必要ならな」
昨日と同じ言い方だった。
僕は唇を噛んだ。
「また――腕を?」
「状況による」
状況。
人の体のことを荷物の重さみたいに言った。
「魔王が喰うならその方が早い」
イリアは続けた。
「喰わないなら喰わせるだけだ」
「――僕は、死ぬんですか」
聞きたくなかった。
でも、聞かなければもっと怖かった。
部屋が静かになった。
アニエスが僕を見る。
「君の魂は、この器に定着している。昨日のような損傷なら再生する」
「答えになっていません」
「死ぬ可能性はある」
あまりにも簡単に言われた。
「魔王の核に直接触れれば魂ごと焼けることもある。器が戻っても、中身が残らない場合もある」
僕は息を吸った。
吸ったはずなのに、肺に空気が入ってこない。
「じゃあ、僕の前の人は――」
「残らなかった」
アニエスは言った。
前の勇者。
僕の前にいたはずの誰か。
僕が入る前に、勇者リュシアンとして扱われていた誰か。
その人は、もういない。
聖都では勇者リュシアンの勝利として語られている。
今も変わらず健在だ、と人々は祈っていた。
でも、その中身は残っていない。
「……僕は、どうすればいいんですか」
声が震えた。
「また腕を切られて……喰われて、それで終わりなんですか」
アニエスはすぐには答えなかった。
机の上の地図ではなく、僕の身体を見ていた。
「喰われるだけなら、そうなる」
喰われるだけ。
その言い方に、喉が詰まった。
「だが、この器は喰わせるためだけに作ったものではない」
アニエスが言った。
「本来は、光の精霊を扱うための身体だ」
「光の……精霊」
「魔王の核を焼く光。昨日、ガルヴァンの内側で弾けたものと同じだよ」
あの白い光。
魔王の口の奥で弾けた熱。
自分の腕が、自分から離れていく感覚。
「あれを、自分で使うんですか」
「使えれば喰われずに済む」
アニエスは淡々と言った。
「魔王の核へ光を届かせる。そうすれば君の魂が巻き込まれる危険は減る」
「――できるんですか?」
「理論上は、ね」
その答えは、ひどく正直だった。
「今までの器は、ほとんどできなかった。だから喰わせた」
部屋の空気が少しだけ重くなった。
「だが、次の魔王がガルヴァンと同じように喰うとは限らない。喰われたとしても、昨日と同じように戻れる保証はない。君の魂が残るとは限らないからね」
アニエスは、言い飽きた説明をまた一つ終えたように、わずかに息を吐いた。
「だから、最低限の使い方を覚えなさい。魔王を倒すためではない。君の魂を残すためだ」
「明日までに?」
「今日のうちに」
アニエスは言った。
「死にたくないなら覚えなさい」




