↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺解釈三国志  作者: じる
十五話 石を布く(永漢元年九月/189)
197/205

3 招集


「おう」


 手を挙げた伍瓊《ごけい》は、おう、の後の「お前もか」を省略した。後から入って来た何顒は控えの間に集まっていた面々を見回し、「なるほど」とだけ言った。


 董卓からの招集に応じた──実質的には連行されたのだが──のは、緊張の面持ちの周毖《しゅうひつ》。泰然と座る鄭泰。何故か面白げな荀攸。みな、何進の大将軍府に出入りしていた面々である。

 陳琳、許攸、逢紀らは居ない。招集に応じなかったのか、その前に出奔していたのか。


(後者だろうな)


 何顒は思った。


 周毖がつぶやいた。


「太尉には我々《ほんそうのとも》の力が必要、という事だろうな。これは」


 すかさず荀攸が小さな咳払いをした。


 ──余計な事を言うな、誰が聞いているか判らんのだぞ。


 そういう警告と理解して周毖は黙った。


***


「先生方とようやくお会いできました」


 董卓は上機嫌だったし、えらく遜っていた。


「宦官を倒して本懐を遂げたのにどういうわけか袁司隷が出奔なされたので途方に暮れておったのですよ」


 その本懐は我々のものであってお前のものではない。皆がそう思ったが表情を崩すものはいない。なんなれば党錮の中で鍛えられた面々である。


「宦官を討ち滅ぼした後の政《まつりごと》に関して、先生方には方策がおありの筈。同志として助けて貰えまいか、とご足労頂いた次第」

 

 同志、という所で誰かがぴくりと身じろぎしたが、それを無視して何顒は応えた。


「宦官を打倒し、士大夫による政治を取り戻すのが、我々の悲願でした。前半は成りました。後半を成立させるためなら、力を惜しむことなどありません」


 董卓はにっこりと笑った。


「では先生方。その為にわしは何をすればよろしいですかな?」


 伍瓊が答えた。


「そうですな。我々から選部尚書を任命してください」


 選部尚書は人事を司る。


「都から宦官は居なくなりましたが、郡県には宦官が任命した守令が居座り、いまだに民を貪っております。順次高潔な士大夫に入れ換えねばなりません」


 宦官が派遣した地方官の乱脈腐敗が黄巾はじめ全国の乱を生んだ、というのが士大夫の実感である。


「また宦官は封侯され全国に食邑を持っています。これを取り上げる為に清廉な刺史を送る必要があります」


 すでに中官親族を捕らえよ、という何進からの命令が袁紹から出ている。だがこれが守られるには宦官に阿らない刺史の存在が不可欠だろう。


「なるほど。他には?」


 荀攸がにこりと笑って言った。


「党錮で傷付けられた竇游平と陳仲舉の名誉の回復を」


 何顒の顔が曇った。自分が気付くべき進言だと思ったからだ。


「おうおう、よかろうとも。わしも議郎としてあの場に居たが、実に痛ましい事件だった」


 董卓はことさら鎮痛な面持ちで言った。


***


 今はもぬけの殻となった袁紹の家。かつて知ったるそこへ奔走の友は集まっていた。ここなら盗み聴きされる心配はないからである。


「俺が選部尚書、ということになったが、具体的にどうする?」


 周毖が切り出した。周毖、字は仲遠《ちゅうえん》。涼州武威郡の出である。この人選は同郷人を置くことで董卓を油断させる意味合いもあった。


「まずは我々で帝の側近になること、だな」


 伍瓊が言った。伍瓊、徳瑜《とくゆ》。かつて太學で八厨と呼ばれた一人である。


 帝の廃嫡を勝手に決めた董卓を追い落さねばならない。それは彼らの前提で、議論するまでもないことだった。それには新帝の勅命が最後の切札になるだろう。


 だが荀攸は首を横に振った。


「政争だけで対峙するのは危うい。あらゆる手を使って排除すべきだ」

「あらゆる……とは?」


 荀攸は答えた。


「暗殺」


 驚く何顒らに鄭泰が付け加えた。


「戦《いく》さ」


 聞いて荀攸がニィっと笑った。


「左将軍をぶつける気か?だがあの堅物が動くかな?」


 今、まとまった兵を持って外征しているのは長安にいる左将軍の皇甫嵩である。董卓・皇甫嵩合わせて四万で外征していた兵のうち、精兵三万を手にしており、董卓の推定一万程度の兵に負けるとは思えなかった。だが、循吏中の循吏である皇甫嵩が自発的に董卓討伐に出るともまた、思えなかった。

 

「動かないなら押しつけるまで。東で討伐軍を起こすのだ」


 鄭泰が右手を縦に持ち上げた。


「西には皇甫将軍の三万」


 左手を縦に持ち上げた。


「東に我らの討伐軍」


 そして無言で右手を左手にそっと合わせた。


 荀攸が笑って言った。


「挟み撃ちの形勢か。では関東に同志を送り込む必要があるわけだな」

「それが俺の仕事か……で、誰を大将にするんだ?」


 周毖の問いに何顒が答える。


「本初しか居るまい」

「だがあいつは出奔して──まぁ居場所はわかるか」


 奥方劉氏の実家、青州東莱であろう事は全員想像していた。


「しかし、本初の復権を董卓が認めるかね?」

「認めるさ」


 荀攸はこともなげに言う。


「あいつは自分の事をただの兵隊ではない士大夫でござい、と見せたがっている。陳竇の名誉回復に賛成したのがその証拠だ」

「それでわざわざ持ち出したのか……」


 何顒は僅かに落胆した。


 鄭泰が提案した。


「これは実際に東に行ってもらう孟卓達を呼んで打ち合せた方がいいな」


 張邈ら大将軍府に出入りしていない面々は董卓に奔走の友であることがバレてはいないと思われた。だから怪しまれず東に配置するのにうってつけだった。


「いや、呼ぶべきでない」


 荀攸が反対した。


「呼ぶ以前に、この話をすることもいかん」


 全員の疑問の視線が荀攸に集中した。


「任命する奴に我々の真意を一切明かさないのが肝要だ。東方に着任したら合力して蜂起しろ、などと伝えたら絶対に董卓に洩れると思え」


 確かにその通りである。陽球のように家人から計略が洩れる事もあるのだから。


「赴任先へ我々の誰かが行って直に説明するしかあるまい」

「では蜂起の時期は?」 


 これには鄭泰が答えた。


「刺史、太守の現地着任はどうしてもばらばらになるから、ある程度余裕が欲しいな」


 辞令が出たからと言ってすぐに赴任するとは限らない。前任の引き継ぎもあれば、旅立ちの送別なども行なわれる。


「兵を集めることも考えれば粟の蒔種の時期を外さねばならん」

「──となると来年の五月くらいか」


 鄭泰が頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。