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砂漠の月  作者: ちあき
第二章 囚われた光
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セオとバンビ

階下ではまだバンビがソファで眠りこけていた。


「あーあぁ。だらしない格好しちゃって」


体の半分を床に投げ出しながら寝ているバンビを見ていると、さっきまでの不思議な空間から一気に現実に引き戻された気がした。

リョウはバンビの肩を揺すった。


「バンビちゃん。バンビちゃん起きてよ。もう朝だよ?お腹見えてるよ?」


バンビはしばらくうにゃうにゃと言いながらソファに噛り付いていたが、ぼけた目がセオを捉えると急に飛び起きた。


「うあぁ!?うそっ!!レディの寝床に来るなんて信じられない!!!」

「仕方がないだろう。何をするにもこの場所を使うんだから」

「なんてデリカシーがない奴なの!?ありえない!!信じられない!!」


リョウはパニックに陥るバンビを宥めた。


「落ち着いてバンビちゃん。とりあえず見えてるもの隠そう?」


緩めた襟元からはかわいらしい胸が半分も見えてるし、寝崩れたズボンからはまだ白い下着がのぞいている。

バンビは悲鳴をあげると部屋の隅へ引っ込んだ。


「…。とりあえず何も見てないことにしようねセオ」

「知るかっ」


二人が朝食の準備を整えていると、バンビが奥からぷりぷりと怒りながら出てきた。


「信じられない…本当に信じられないわっ。無神経な男ってこれだから嫌なのよね!!」

「まだ言ってんのか」

「当然よ!!!あんた!!どれだけ失礼なことしたか分かってんの!?」

「なんで俺だけなんだよっ」


リョウは険悪な二人の間に急いで入った。


「ま、まぁまぁ。とにかく食べようよ!すぐにまた出発しなきゃだし!」


穏やかとは言い難い朝食タイムとなったので、三人はさっさと食べ終わると外に出た。

セオは不思議な球体を砂へ返すと空を見上げた。


「風が強い」

「風?」

「砂嵐になる可能性が高いな。こんな気候に最も気をつけなければならないのは…」


バンビは僅かな地響きに気付き毛を逆立てた。


「砂獣の気配だわ!!」


バンビの言う通り、砂山から巨大なサソリが大量に現れた。


「砂サソリ!!ここは砂サソリの通り道なんだわ!!」

「何これ!?何これ何これ!?なんでこのサソリこんな樽みたいに大きいの!?」

「それが砂獣ってもんよ!!リョウ、下がって!!」


バンビはセオに返してもらった短剣を引き抜くと自ら前に飛び出した。


「バンビ、待て!!」


セオが制止するのも聞かずに先頭のサソリに立ち向かう。

攻撃態勢を見せていたサソリの尾を叩き弾くと、側面から思い切り蹴りを入れた。


「バンビちゃん!!

「お前はここにいろ!!」


セオは腰の長剣を引き抜きバンビに続いた。


「バンビ!!闇雲に立ち向かうな!!」

「闇雲なんかじゃないわ!!走っているうちは砂サソリは全匹リーダーに続くの!!だから散らばる前にそいつの進路を変えてやれば…!!」


先頭のサソリは起き上がるとバンビ目指して襲ってきた。

バンビは短剣を構えなおしたが、リーダーサソリの後ろら他のサソリが三体飛び出してきた。


「危ない!!」


リョウはひやりとして叫んだが、セオは風のように舞うとあっという間にその三匹を叩き切った。

それは普段穏やかなセオの動きとは思えないくらい鮮やかで綺麗な動きだ。

だがそれを合図に砂サソリは一斉に散らばると二人を取り囲んだ。


「まずい!!」


リョウは転がるように駆けだすと反対方向へ走った。

急いで砂を滑り、止めていたバイクに飛び乗った。


「ええぇっと!!確かこうやってエンジンを入れてぇ…!!」


見よう見まねで触るとエンジンが唸りを上げる。

リョウは砂サソリの群れにハンドルを向けた。


「うわっ!!」


動き出したバイクはリョウの力では制御しきれずに大きく揺れた。


「ままま、真っ直ぐ走らないいい!!セオおぉおおお!!」


何匹も砂サソリを叩き斬っていたセオは突撃してきたリョウに気付くと声を張り上げた。


「リョウ、こっちだ!!何とかここまで来い!!」

「うははは、はぁい!!」


左右に揺れるバイクが近づくと、セオはタイミングを合わせて大きく跳んだ。

リョウの手の上からがっちりとハンドルを掴み、力技で乗り上げる。

不安定な揺れを立て直すとセオは砂を巻き上げながら急旋回させた。


「バンビ!!」


セオは戦うバンビの腰を後ろからさらった。


「うわっ!!わわわ!!」

「このまま逃げ切る!!掴まれ!!」

「あ、う、分かった!!」


バンビは短剣を握りしめたままセオの背中にしがみついた。

襲い来る砂サソリは縦横無尽に走ることで躱し、加速をかけて群れから飛び出す。

サソリはしばらく後を追いかけてきたが、セオのスピードには追いつけず次第に小さくなっていった。


「やった!!もう大丈夫だ!!」

「リョウ、頭を上げるな。見えん」

「あ、うん」


一番前に乗るリョウはセオの邪魔にならないように再び小さくなった。

セオはしばらく砂を駆けると、徐々に速度を下げ巨大なサボテンがいくつも生えた岩山でバイクを止めた。

リョウはバイクから飛び降りると大きく息を吐いた。


「はあぁぁ、朝一からびっくりしたね。おれあんなの初めて。それにしてもセオって強いだなぁ!」


セオは水を取り出すとバンビに渡した。


「怪我はないか」

「え、…ええ」


バンビは大人しく受け取ったがその手が震えている。

セオは呆れて言った。


「恐いなら先陣切って飛び出すな」

「し、仕方ないじゃない!!砂漠では判断に迷うほど仲間が死ぬのよ!!それに私だってちゃんとした武器さえあればもっと戦えたわ!!」

「お前、とんでもないじゃじゃ馬だな」

「何よ!!悪い!?」


顔を真っ赤にしながら怒ったが、セオは鮮やかな青い瞳でバンビを見つめた。


「バンビ」

「だから、誰がバンビよっ」

「次から俺といる時は先に飛び出すな」

「え…」

「お前、一応女なんだぞ」

「い…一応ってのはいらないんじゃない?」


思わず突っ込むとセオは少しだけ笑みを浮かべた。

バンビは不覚にもどきりとした。

そういえばこうやってまともにセオの顔を見たのは初めてな気がする。

端正な顔立ちに今更ながらにドギマギとしたが、セオは気にもかけずにリョウと見回りに行ってしまった。


「な、なん、何なのよあいつ」


バンビは熱くなった頬をぴたぴたと手で冷ましながら大きく深呼吸をした。

三人は小休憩を終えると再び南を目指して移動をした。

砂嵐の影響を受けて砂獣が他でも湧き出ている。

セオは巧みにそれらから距離をとり、進路を訂正しながら進んだ。


「セオ、見て!!あそこ!!空が変だ!!」


リョウは空まで黄色く染まった西を指差した。

セオはバイクを止めるとゴーグルを上げた。


「あれが砂嵐だ」

「砂嵐!?砂嵐ってもっと竜巻みたいに渦巻いてるんじゃないの!?あれじゃ空一面まで伸びた砂の壁だよ!!」

「どうやら南西からこっちへ向けて移動しているようだな。バンビ、お前の基地はここからどれくらいだ」


バンビはバイクから降りるとウロウロと辺りを見回した。


「えーと、あれがああだから…、あと二十分くらいで着くわ」

「二十分か。際どいな」

「新都軍は…?」

「分からん。とりあえずこのままあの砂嵐に向けて突き進むぞ。リョウ、バンビと席を変われ。この先の方向はバンビが直接指示しろ」

「えっ」


セオはさっさとゴーグルを装着し直した。

リョウは動こうとしないバンビに気付き首を傾げた。


「バンビちゃん?どうしたの?」

「え!?あ、いや、私、い、一番後ろでいいかなぁって…」

「へ??」


バンビの顔は心なしか赤い。

今更何を意識しているのかと焦っていると、リョウがくすりと笑った。


「バンビちゃん、もしかしてセオのこと気になっちゃうの?」


ちょっとした冗談のつもりだったのだが、バンビは真っ赤になりながら勢いよく振り返った。


「ちがぁーう!!そんっっなわけないでしょ!?私にはずうぅっと好きな人がいるんだから!!」

「そうなの?」

「そーなのぉ!!その人はねぇ、あんな奴とぜんっぜん違って、強くて皆から慕われてて、クールで優しくてかっこよくて、全てが完璧なの!!そりゃ、あいつもちょっと顔はいいかもしれないけど!!でも絶対にそんなことないから!!」


ぐいぐい来られてリョウは体を反らせた。


「で、でもセオだって優しいよ?強かったし。というかバンビちゃんって面食い?」

「うっ…」


バンビはぐっと詰まった。

反論できないところが悲しい事実だ。


「と、とにかく。時間がないんだし早く行くわよ!!」

「うん」


ここは逆らわずにリョウはバンビの後に続いた。

早くしろと怒るセオの後ろに乗ると、バンビは努めて平常心を装いながらセオの服の裾をぎゅっと握った。

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