セオの色
リョウとバンビは球体の中が思った以上にきちんとした生活空間だったことに目を丸くしていた。
「テーブルとソファ。それにキッチンまである…」
セオは天井に伸びる梯子を顎でしゃくった。
「上は簡単な寝室になってる。水は出ないが、そこのボトルに常備してある。一晩過ごすには充分な設備だろ」
「充分どころじゃないよ!!何ここ!?凄い快適!!」
リョウは疲れも何なその、大はしゃぎであちこち見て回った。
「ねぇセオ。これとかってさ、一体どこから来るの?」
「俺の家に倉庫があっただろ。あそこからだ」
「え!?あのセオが引きこもってた部屋!?あそこからどうやって引っ張り出すの!?」
「どうって…ただそういう仕掛けがあるだけだ」
「仕掛けって!?」
セオはわくわくと身を乗り出すリョウを押し返した。
「…別にどうでもいいだろ」
「えぇー!?詳しく知りたいじゃん!!」
「面倒くさい」
「けちー!!」
ふくれるリョウを放置して、セオはさっさと棚を開きだした。
コトコトと音を立てて積まれていくのは非常食用の缶詰だ。
バンビはセオの隣に並び缶詰出しを手伝いながら訝しげに言った。
「あんたってさ、何者なの?」
「リョウからは何も聞いてないのか?」
「リョウのお世話係りっていうのは聞いた」
「おせわ…」
端整な顔が苦虫を噛み潰したようになる。
あながち間違ってもいなさそうな現状が余計に何とも言えない。
「俺は…」
「あー!!サバの缶詰!!鯖缶だ鯖缶!!」
リョウは勝手に次々と缶詰を吟味しだした。
「バンビちゃん!!鶏肉もあるよ!?うわぁ、コラーゲンぷるぷる!!」
「え!?どれどれ!?」
荒い砂漠に在籍しようともそこは美容が気になるお年頃。
バンビはついリョウにつられて鳥の缶詰を手に取った。
「セオぉ!!早く食べよ!!おれお腹減ってたまんないよぉ!!バンビちゃん、あそこに水のストックもあるよ。もうこれ全部開けちゃおうよ!!」
「ちょっとリョウ、全部飲み食いしちゃだめよ!?ちゃんと明日の分も残しておかないと!!」
バンビが慌てて言うものの、リョウの耳にはちっとも入っていないようだ。
開けた缶詰めを片っ端から口に放りこむリョウを二人で止めながらも、三人で囲んだ食卓は大変騒がし…賑やかな席となった。
お腹も膨れ満足したリョウはセオを引っ張ってさっさと二階へ引っ込んだ。
「じゃあねバンビちゃん。おれたち雑魚寝してるから、バンビちゃんはソファでゆっくり寝てね」
「ふぁーい、おやすみぃ」
ひと心地ついたバンビも欠伸を噛み殺しながら手を振った。
ソファに横になると一気に眠気が襲ってくる。
バンビはセオを訝しく思ったことなんてころりと忘れてそのままぐっすりと寝入ってしまった。
一方、セオは今更ながらリョウがどうやってバンビを説得したのかが気になっていた。
今にも寝落ちしそうなリョウを見下ろしながら、難しい顔で腕を組んだ。
「リョウ、お前バンビに俺のことを何て説明したんだ?」
「ほぇ?」
リョウは目をこすりながら大欠伸をした。
「おれの、お世話がかり」
「…。バンビは基地にお前を連れて行き保護させると言っていた。何故お前なんだ?一体どんな話をした?」
リョウは面倒そうに眉を寄せると小さく丸まった。
「別にいいじゃん…。おれはただ、セオをまもりたいだけだよ」
「…」
「おれは何もできないけど…、おれだって、…まもり…たい…」
言葉が途切れると変わって寝息が聞こえてくる。
一人残されたセオは仕方なくこの話を諦めることにした。
立ち上がると棚にしまってあったブランケットを取り出しリョウの体にふわりとかける。
「守りたい、か…」
小さく呟くと自分もリョウの隣に転がった。
ーーーーーーーー
「あきら」
可愛らしい声で呼んではちょこちょこ後ろをついてくる小さな小さな女の子。
クリームイエローの髪は肩の下まで長くて、触るとふわふわした。
ユキネは世界でたった一人の仲間。
大切だった。
最後まで一緒に生きていくのだと思っていた。
あの日、ユキネが新都に行ってしまうまでは。
「…お、せお」
薄く目を開くと、クリームイエローのふわりとした髪が見えた。
ユキネ?
…いや違う。
自分を“セオ”と呼ぶのは…
「あ、セオ、おはよう。ぴくりともしないからちょっと心配しちゃったぁ。ぐっすり眠り込んでるなんて珍しいね」
セオは頭が切り替わらずに、体を起こしてもぼんやりと壁を見つめた。
「セオ?大丈夫?」
ミルクティ色の瞳が心配そうに覗き込む。
リョウの胸元で、結晶石が揺れた。
セオがそれを黙って見ていることに気付いたリョウは小首を傾げた。
セオは手を伸ばすとその石を右手で握りしめた。
リョウの頬を、さわりと温かい空気が撫で上げる。
「あ…」
リョウは目を丸くした。
セオの周りを黄金色の光が取り巻いていた。
それは目を焼くような太陽ではなく、闇夜を照らす砂漠の月のような透明度の高い金色だった。
これが、セオの色。
リョウは初めて見たその美しい光に魅入られた。
体の中の、何かが熱い。
気が付けばリョウの体も蒼い光に包まれていた。
部屋に散らばる、黄金と蒼の光。
まるで二人に流れる同じ血が同時に共鳴しているみたいだ。
それは不思議な感覚だった。
でも、どこかで知っているような…。
リョウが心地よさに恍惚としていると、急に光の洪水が消えた。
目がついていけずに一瞬視界の全てが闇に堕ちる。
「セオ…?」
目を擦りながら顔を上げると、セオは無表情のまま俯いていた。
リョウは何だか何も言えなかった。
セオが泣きそうに見えたからだ。
「今日は…」
「え?」
「今日は、早く出た方がいい。バンビを起こしに行こう」
そう言うセオの顔はもういつも通りに戻っていた。
リョウはひとつ頷くとセオの後に続いて梯子を降りた。




