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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~(小学校までの道1)~

 私が残ると宣言したあと、吹奏楽部に戻って木乃美ちゃんのレッスンを見てあげていた。

 江角くんたちはそのまま帰ったのかと思っていたら、少し遅れて音楽室に戻ってきた。

 同じく江角くんと戻ってきた伊藤くんが、後ろから急に私の肩をポンと軽く叩いて言った。

「楽しみだな、小学校」と。

 私は伊藤くんが私の提案した一部が認められたことを喜んでくれていると思い「うん」とだけ笑顔を向けて答え、また練習に戻った。


 私の掲げたものは多かったものの、いまはそのほとんどは認められなかった。

 けれどもすべてが拒否されたとは思わないし、いつか必ずそれらが叶う日がくると信じている。

 持田先生と南小と夢小の先生から、小さな一歩を与えてもらった。

 いまは本当に小さな一歩かもしれない。

 それを育むのも壊すのも、私たちにかかっている。

 私はこの一歩を大切に育てたい。


 部活が終わり家に帰ると私はすぐにロンを連れて散歩に出た。

 いつも散歩によく行く相模川方向ではないのでロンは大喜び。

 しばらく進むと厚相バイパスの上を立体交差で通るときは、転落防止用に張られた網に鼻先をくっつけて下を通る車を見ていてまるで子供のようでおかしかった。


 バイパスの上を越えて少し行くと、丘を降りる日の当たらない暗くて急な下り坂がある。

 その名も「ひかげ坂」

 この坂道の名のとおり、一日中日が当たらないから「ひかげ坂」と命名されたそうだ。


 ここを降りると、いよいよこの行程の難所である県道を通る。

 この道は橋本や八王子方面に向かう道で、交通量が多いわりに道幅が狭く、そのうえ道路沿いには多くの家が建っているのでガードレールのない箇所が多いから、犬の散歩には向かない。


 県道を少し通ってから脇道にそれて長い坂道を登って行く。

 坂道の名前は「無量坂」と言い、そのいわれは昔この地域一帯は当麻山無量光寺を寺領としていたことが由来で、坂の途中にはその名を示す石碑が立っている。

 石碑を過ぎてから少し登り、来た坂道を振り向いて見ると、夕焼けが忍び寄るはるか西には丹沢山系の山々がくっきりと見えて壮観だった。


 坂を上って私立高校の前を通り抜けて左に曲がり、町田に向かう道路の交差点をわたって少し行けば、私の母校の小学校に到着する。

 もう遅い時間だから、校門は閉まっていて生徒もいない。

 職員室の灯りが薄暗くなり始めた中に灯っていた。

 あのころの先生や同級生たちは今何をしているのだろう?


 私たちが通ったこの小学校は、中学に上がるときに学区が二つに分かれる。

 ほとんどの生徒は南中に行くけれど、私の住む地域だけ西中に行くことになる。

 美緒と伊藤くん甲本くん、そして私の四人だけが西中に行くことになり、その四人全員が小学生のときは鼓笛隊に入っていて、中学では吹奏楽部に入った。


 懐かしいついでに帰りは、当時の通学路を通って帰ることにした。

 老人ホームの脇を通る、雑木林に囲まれた狭い坂道。

 坂の名前は「子の神坂」と言うらしいが、由来は知らない。

 小学生の頃に伊藤くんが「子の神坂」は昔「子の髪坂」と言われていて、大昔に新田義貞という武将が敵の兵隊を大勢切り殺したところ、その殆どが子供たちだったので、新田義貞は供養のために死んだ子供たちの髪をすべて切り落として坊主にして遺体を無量光寺で葬ったそうで、その髪を切った場所がこの「子の神坂」だと言って私と美緒を怖がらせた。


 伊藤くんの話だから、嘘に決まっているとは思うけれど、そんなことを聞かされると妙に意識してしまう。

 早く通りすぎたい私とは逆に、こういった土がむき出しのところに来るとロンはクンクンと匂いを嗅ぎまくってなかなか進んでくれなくなる。

 ようやくロンが動いてくれて県道まで出たが、ここには信号機がないのでいったん五十メートル離れた信号機のある交差点まで坂を下り、また坂を五十メートル上がって「子の神坂」の向かいの道から今度は厚相バイパスの下を潜り、ひばり橋を渡るルートで家に帰った。


 家に着くころには、もう夕焼けは相模川の向うに少しだけ赤く残るだけで、西の空はもう群青色に変わっていた。

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