↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/114

   ~中学最後の大会6(楽譜を書き直す江角くんと、出発を手伝う里沙)~

 次の日は体育館が持田先生から言われている使用制限の人数をすぐに超えてしまったので、いままでになかったくらいはやく音楽室に上がった。


 音楽室で楽器の演奏ができるのは、夏は八時から。

 そして今はまだ七時半もきていない。

「おはよぉー……」

 静かな音楽室の扉を静かに開け、小さな声で挨拶をすると静かに練習している部員の中に、練習をしないで散らかした譜面を見ている江角くんがいた。


「おはよう。いいよ、遠慮しなくて、別に驚きはしないから」

「何しているんですか?」


「譜面のチェック。どこで誰が間違えたのか、なぜ間違えるのか考えている」

 江角くんは、じっと譜面をにらみつけながら返事だけを返した。



 朝の会では各パートリーダーが集められ、江角くんが用意していた新しい譜面が配られた。


 そして今日の予定は午前中の全部の時間がパート練習。

 午後からもほとんどがパート練習で、最後に1回だけ全体練習が入る。


 予定を聞いて皆緊張した。

 つまり最後の全体練習にミスしないように、パートごとに練習をくり返すわけだ。


 休憩時間も惜しみ、みなが練習をくり返し、パート練習は完璧になった。


 それでも全体練習ではミスが出てしまった。

 しかも私が担当する木管の一年生。


 演奏が一旦止まりかけたとき江角くんが「止めるな!」と大声を出して続けさせた。


 いつもの江角くんなら真っ先に演奏を止めてしまうのに……。


 終わりの会で、江角くんが言った。

 どんなに練習しても100パーセントにはならないときもあるし練習しすぎて逆にミスをすることもある。

 だから、今日みたいに誰かがミスをしたときに慌てずに、ミスなんかなかったように平然と演奏を続ければいい。

 それがチームプレーだと。


 話を聞き終わって、私もそう思った。

 そして思い当たることもあった。


 それは、先週のソフトボールの試合。

 確かに里沙は県下でも有名な好投手だったけど、試合に出ている九人がひとつになっていたとは言えない。

 里沙は打たれまいとして一人で頑張っていて、他の人もそれが当たり前のようにしていた。

 むしろ相手チームのほうが九人の役割をきちんと分担して、ひとつになっていたように思う。

 江角くんの言葉はまるであの試合を見てきたようにさえ思えた。




 そしていよいよ県大会当日。

 十日前に行われた相模原支部大会を突破した私たちが目指すのは、この大会でいい成績を収めること。

 去年は銀賞だったから、今年の目標は金賞だ!


 もちろん音楽ホールなのでロンは中に入ることは許されない。

 それでもロンは絶対に応援してくれているよね!

 ロンの頭をなでていたら、いつものようにペロリとキスされて、それだけで心がウキウキしてがんばろうという気になる。


「ありがとうロン!いってきまぁ~す!」

 ロンに手を振って玄関を出ると、ロンからも「ワン!」という激励の挨拶が帰って来た。

 真夏の空は今日も快晴だ!


 六時半に学校に着くと、もう何人か来ていて楽譜の確認や、音を出さずに運指の練習をしていて、その中には当然江角くんの姿もあった。


 譜面をにらみつけるようにしている江角くんに「おはよう!」と声をかけると「あっチョット……」と、意味深に呼び止められ何か注意されるのだろうと恐る恐る近づくと江角くんは譜面から目を離さないまま「やっぱ、いい」と断ってきて、変な感じ。


 七時に大型バスが到着した頃には部員も全員そろっていて、楽器の積み込みを始めた。

 木管は楽だけど打楽器や大型の金管はケースが大きくてたいへん。


 譜面台の数を数えているときに、見慣れない部員が搬送を手伝っていることに気がついて見ると里沙だった。


 里沙はドラムの搬送を手伝ってから、私のところに走って来て「おはよー!みんな早いんだね」って言ってきた。


「今来たの?」

「うんチョット遅刻かな?」


「えっ・でも、部員じゃないから遅刻なんてないよ。それに手伝ってくれてありがとう」

「……うん」


 なぁ~んか、この前の見学といい今朝のお手伝いといい里沙の行動は怪しい。

 ひょっとして、お目当てがいるのかも……と考えたとき、ハッと閃いた。

 里沙が以前言っていた片思いの相手って、ひょっとして江角くん?


 江角くんを私にすすめようとしてきた修学旅行や、その江角くんがソフトボールの試合を見に行ったような口ぶりだったこと……。

 きっと、里沙の片思いの相手は江角くんに間違いない!

 たしかに離れたところにいる江角くんの様子をうかがってみると、さっきから私たちのほうをたまにチラッと見ている。


『意外と江角くんも初々しいところがあるじゃない』


 そう思ってみると、今まで目が合わないようにしていた江角くんと目が合っても余裕の笑みで返すことができた。


「ねえ千春。なんでニヤニヤしているの?」

「んっ?な、なんでもない」


 どうやら私の今の顔はニヤニヤしているらしい。


 里沙ちゃんは顧問の持田先生にあらかじめことわって、雑用を手伝う代わりに一緒にチームと同行する約束を取り付けたらしい。


 さすが積極的な里沙!

 そのまま江角くんにアタックなの?


 そして里沙を乗せてバスは会場へと出発した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。