~中学最後の大会5~
次の日の朝、学校へ行ってみると、里沙がいた。
「おはよー!里沙!!」
「おはよー!千春!!」
里沙のソフトボール部の最後の試合は昨日終わったのに、今日からは後輩の指導でたいへんなんだなと思ったが、まだ大会の終わっていない私が感心している場合ではない。
そのまま職員室に行き、早朝練習をするために体育館に向かい、八時には体育館を出て音楽室に上がった。
江角くんが朝の会を始める。
まず、朝の会までに全員チューニングを完ぺきに済ませておくことを注意したあと、来週行われるコンクールに向けて練習と体調管理をぜったいに怠らないように言った。
特に他の部活も大会があって応援したい気持ちもあるだろうけど、炎天下長時間行われる他の大会の応援に行くことがまだ大切な大会を控えている吹奏楽部部員としてどうなのか、よく考えて行動を慎むように付け加えられた。
ひょっとして私のことかな?と思ったら、江角くんと目が合ったので間違いなく昨日の私のことを言っているのに間違いない。
たしかに我が校が負けたからお昼過ぎに帰れたけれど、決勝まで進んだら帰りは夕方になり、あまり体力に自信のない私はきっと疲れただろう。
『でも、なんで知っているの?私が里沙ちゃんの応援に行ったこと』
少しだけ、そう考える時間があっただけで、すぐにコンクール曲のパート練習をするため木管楽器グループを集めて音楽室を出て中庭に向かった。
そうしないと打楽器や金管楽器の音が混ざって小さなミスを見逃してしまうから。
十時の休憩のあと、全員が音楽室に戻って全体練習をして十二時にお昼休憩。
みんな気合が入っているから気を張り詰めていたけど、さすがにお昼休憩になると昨日の疲れも出てきてぐったり。
さすがにA編成(50人以内)となると納得のいく全体練習って皆無に等しい。
どうして私たちはA編成にこだわるのだろうって少し恨んでいると急に頬に冷たいものがあたり「キャッ!」と声を上げてしまった。
振り向くと笑顔の里沙が手に持っている缶ジュースを突き出してきた。「差し入れだよぉ~」張り詰めて、そしてうんざりしていた気持ちが一気に和んだ。
「ありがとう~。里沙は部活もう終い?」
「うん!でも一緒に帰ろ!」
「いいけど、終わるの4時だよ。それまで何して待つの?」
「け・ん・が・く」
そう言って里沙は笑った。
全体練習になると必ずどこかで誰かがミスをする。
私たち木管はミスが少なかったけれど、なぜか全体がうまくいきかけたときに限ってミスが出てしまう。
終わりの会のときに持田先生から集中力を絶やさないことはたいせつだけど長続きさせることは難しいので、ここぞというときに集中力を切らさない努力をするよう言われ、江角くんからは練習量が足りないと言われ皆が落ち込んだ。
ミスをしない江角くんがうらやましい。
「ほら!ボケボケしないで早く片付ける!」
練習が終わり、ぼーっとしていたら急に声をかけられた。
「里沙、まだいてくれていたんだ」
「だから、一緒に帰ろうって言ったでしょう」
里沙とは小学校が違うから一緒に帰るといっても校門を出てほんの少し行った十字路で右と左に分かれてしまう。
普通に歩けば五分もかからない。
たった五分一緒にいるために里沙ちゃんは四時間も待ってくれたのだと思うと、なんだかとってもうれしくて、そして申しわけなく思う。
「ねえねえ。千春の担当の楽器ってオーボエっていうんでしょ!難しいの?」
珍しく里沙ちゃんが楽器のことを聞いてきた。
「う~ん。結構難しいかな、ミスも隠せないし」
曲によってソロパートも多く、それに大きく澄んだその音色は圧倒的にミスが許されない。
「なんでオーボエを選んだの?」
「うん、お母さんが見ていたドラマの主題歌かなにかで演奏されている曲が好きになった」
「気に入ったってことだよね」
「だと思う」
「ふーん……」
どうしたんだろう?
私がそう思ったとき急に里沙が私の前に出て振り返って、質問をぶつけてきた。
「じゃあ、私にはどの楽器が合うと思う?」
「えっ!里沙、楽器はじめるの?」
里沙は少し空を見上げるようにして、照れわらいして「まだ決めたわけじゃないんだけど、やってみたいなあ~って思って」
「ねえ、千春。なにが良いと思う?」
何が良いと言われても、里沙になにが合うか分からないので、印象的に言ってと前置きして「サックスかな」と答えた。
本当はユーフォニアムあたりが覚えやすいとは思ったのだけど里沙のイメージには合わなかったのでやめておいた。
まあ、難しく考えたって、どうせいつもの里沙の気まぐれだろうし。
だいいち里沙には私立の高校のソフトボール部からスカウトが来るっていううわさだし。




