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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~中学最後の大会4(里沙の準決勝の応援)~

 会場に着くと、バックネット付近で里沙がキャッチボールをしているのが見えた。

 健康的でスタイルの良い里沙が着る青色のユニフォームがすごく映えて見える。


 広いグラウンドには甲子園の野球場のような観客席もなく、学校関係者や選手の父兄たちがベンチ近くの大きな木陰に陣取っている。


 私たちはそこから少し離れた小さな木陰にシートを敷いた。

 海が近いのか浜風が吹いて心地よい。

 人間には過ごしやすい環境。

 でも目の前に置いた温度計はもう34℃に上がっていた。


 体から汗を流すことのない犬にとって風が吹いて汗が気化して熱を奪うことにより涼しいと感じる恩恵はほとんどないから、常に気温を気にしてあげないといけない。

 立っている位置が人間に比べだいぶ低い犬は、特に野外では炎天下で焼けた地面の影響も受けやすい。

 幸い今日のこの場所は日ごろから木陰なのか地面はひんやりしているので安心できた。


 茂山さんには悪いけど、里沙に私とロンが応援に来たことと、がんばるように伝えに行ってもらった。


 犬を連れているのでおとなしくしていないと、少しでも関係者や父兄に目を付けられたら即退場ということにもなりかねない。

 せっかくロンと同伴で応援に誘ってくれた里沙ちゃんや、連れてきてくれた茂山さんにも嫌な思いをさせてしまう。

 それより大変なのは私一人の間違った行動で、他の犬や猫を飼っている人たちにまで迷惑が及ぶこと。

 若干15歳の少女だけど、ここではペットを飼う人間の代表として頑張らなくてはならない。


 ロンがいつでもお水が飲めるようにお皿に冷えた水を入れてやると、まだ足を拭いている最中なのに水を飲みだした。

 それだけロンにとっては暑いということなのだろう。


 ちょうどロンも水を飲み終わり、私も落ち着いたころに茂山さんが里沙を連れてきてくれた。

 目の前に現れた健康的な里沙に、ダレるように伏せをしていたロンがシャキンと起き上がってお座りをした。


「来てくれてありがとう!」

「ううん。呼んでくれてありがとう。試合頑張ってね!」


「うん頑張る!」

 そう言った里沙は、何を思ったのかロンの前でポーズをとり「ピッチピチのユニフォーム姿の里沙もいいでしょ!ロンは惚れ直したかな?」とロンに声を掛けると、なんと正直者のロンは「ワン!」とはっきりした声で応えた。


「人前で吠えちゃだめ!」

 慌ててロンの口を押えて「里沙!ロンを挑発しちゃだめよ」と軽く睨む。


「ごめん!ごめん!」と、里沙は全然反省していないようにあやまってから言った。


「決勝の前には、ここで一緒にお昼ご飯食べようね!」と。


 里沙は走って戻って行き、代わりに茂山さんが座ると、ロンはまただるそうに伏せの姿勢に戻った。


 里沙の試合が始まった。


 体をバネのように使い、ものすごく速い球を投げるので相手の選手は誰も打ち返すことができなくて三振を次々に取り、あっという間に相手側の攻撃が終わった。


 正直こんな大きな大会で里沙が投げているのを初めて見た。

 いつも吹奏楽部は音楽室だから、休憩中に窓から見ない限りグラウンドで練習するソフトボール部なんて見られないし、そんなことをしてグラウンドを見ているところを江角くんに見つかったらなんて言われるか想像もしたくない。


 相手投手は里沙ほど球が速くなさそうで、打ったボールは一応前には飛んでいたけど全部内野手の前に転がって、わが校もすぐに攻撃を終えた。


 次の回も里沙は絶好調でピッチャーフライ以外は二人から三振を取った。

 それ以降も五回まで里沙は相手バッターに打たせず、三振を取り続けたけれど味方も相手投手を打ち崩すことができないで両者ゼロ点のまま回が進んでいく。


 六回の表の相手の攻撃で里沙は初めてヒットを打たれたけど、そのあとの選手を連続三振に取った。


 その裏の攻撃。

 先頭バッターが打ち取られたあと、次のバッターは里沙。

 里沙が打った打球は高く舞い上がり、相手チームの外野手の頭の上を越えて私たちの近くで落ちてきたボールが跳ねていて、私はロンがボールを取りに行かないように慌ててロンを押さえた。


 いつの間にか三塁ベース上にいた里沙ちゃんがベンチと、そして私たちに向けてガッツポーズをした。


 次のバッターがバントをしたけどフライになって里沙は三塁から動くことができなくて、次のバッターは三振してしまい結局この回も点が入らなかった。


 ふーっと緊張がほぐれてため息をついたあと温度計を見ると、もう35℃に上がっていて、慌ててロンの首の下に保冷マットを敷いてあげた。


 両チーム無得点のまま、最終回の相手の攻撃は先頭打者がサードゴロ。


 ワンアウトかと思ったらサードの返球が逸れて、エラーとなり一塁に残った。

 次のバッターの送りバントは里沙の目の前に転がり、里沙はそれを二塁に送球したけど、ランナーの足が一歩早くてセーフになった。


 三人目と四人目のバッターを連続三振に取ったものの、五人目のバッターが三振した球をキャッチャーが逸らしてしまい塁上のランナーはそれぞれ三塁と二塁に進塁した。


 空振りをしたバッターも、ちゃっかり一塁に走ったので「インチキだ!」と思わず口に出して言うと、茂山さんから「振り逃げというルール」だと教えてもらい満塁のピンチとなる。


 次のバッターが打ったときに、また悪送球があって一人帰って一点取られたけど、その次のバッターは三振にとり相手側に追加点を与えなかった。

 しかし、その裏の私たちの中学の攻撃はあっさり三者凡退でゲームセット。


 相手選手と並んで試合後の挨拶をしている里沙が泣いているのが遠くからでも分かった。

 結局、里沙は午後の決勝戦には進めず準決勝で敗退した。

 関東大会進出は逃したけどベスト4なんて素晴らしい結果だと思った。


 里沙は約束通りお昼ご飯を食べに来てくれた。


 茂山さんも私も頑張ったねと活躍をねぎらって、里沙は恥ずかしそうに笑っていながらロンを膝に乗せてなでていた。


 里沙は決勝戦が終わると学校がチャーターした車に乗って帰った。


 今日は頑張っても越えられない、なにか切ないものがあることを勉強した気がした。

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