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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~中学最後の大会2(大会メンバーの発表)~

 六月最後の土曜日。

 この日は大会メンバーを決める日。

 早朝からみんなが学校に来て、熱のこもった練習をしていた。

 一応、メンバーから振り落とされるのは一年生の一部だとは思うけど、これを決めるのは持田先生ではなく部長の仕事。

 そして今年の部長は江角くんだから、何が起きてもおかしくはない。

 二年生、いや三年生だって決して安泰とは言えないことは、日頃の江角くんの厳しい態度で分かっているから、みんな余計に練習に熱がはいっていた。


 当落は午前と午後、二回の全体演奏での評価で決められる。

 指揮者はいない。

 代わりにメトロノームが動いているだけ。

 江角くんだけが演奏から外れて、正面に座ってノートを広げていた。

 これだと落選者の恨みが江角くんひとりに向いてしまうので、私も審査に参加すると言ったが「鮎沢はソロパートがあるからだめだ」と言われて身を引くしかなかった。

 ここで無理に木乃美ちゃんを推しても、オーボエの最大の武器となる音色の感情表現がまだできていない彼女に私の代役をつとめさせることはマイナスに評価されることはあってもプラスになるようなことは何もない。


 午前中の全体演奏中に江角くんは珍しく何も言わなかったし、表情ひとつ崩すこともなかった。

 私たちにしてみれば、それは恐怖でしかなかった。

 今までの江角くんなら、指揮をしながら、失敗した人や音が気に入らない人は目で睨みつけるように見ていたし、あからさまに指をさしたこともある。

 さらにひどいミスを犯したときなどは、曲を止めて解散させたこともある。

 その江角くんが、一切表情を変えないで、ノートの上で鉛筆だけを動かしているのはまさに恐怖だ。

 いまいったい誰の名前が書かれたのだろう?

 もしかしたら私の名前?

 自信のない人であれば、見えないノートの文字に心を奪われるに違いない。

 つまり江角くんは何もしていないように見せかけながら、意図的に心理的プレッシャーを与えているのだ。


 お昼の休憩を挟んで、全体演奏はもう一度行われる。

 この休憩の間も、みんなは時間を惜しむように練習した。

 特に一年生が、というわけでもなく、一年生から三年生まで変わりなくみなが必死になって練習していた。

 もちろん私も。

 江角くんなら誰が落とされても不思議ではない。

 その中に三年生は大丈夫だなんて誰も思わない。

 江角くんは部長として常に音楽に正直で偽りのない姿を部員の前で見せていて、その中には誰も優遇されることはなかった。


 この大切な場面で失敗する者は、どのような場面であろうとも失敗する。

 たとえそれが誰であろうとも、きっと江角くんは許さない。


 自分は演奏しない。

 それは今までに失敗したことがないから。

 そのことは部員全員が知っている。

 これが江角くんの積み重ねてきた自信。

 これだけは誰にも敵わない。

 だから彼の決定には従うしかないのだ。


 二度目の演奏を終えたあと、江角くんが大会メンバーを発表した。

 一同に緊張が走る。


 二年生のパーカッション担当の田中さんが落ちた。

 田中さんは午前中ノーミスで乗り越えたものの、午後の演奏のときシンバルを鳴らすときに空気をこもらせてしまった。

 そしてこのミスは田中さんにとって初めてのミスではなかった。

 田中さんが落ちたのに、一年生のパーカッション担当の鈴木さんはメンバーに残った。

 二年生で落ちた田中さんが泣いている横で、選ばれた鈴木さんは複雑な表情で神妙にしていた。

 三年生は全員無事だったが、二年生は三人落ちた。

 そして一年生は十人がメンバーに選ばれた。


 しかし、その中に木乃美ちゃんの名前はなかった。



 木乃美ちゃんは泣かなかった。

 私がなぐさめようとすると、大丈夫ですと笑って言った。

 笑いながら、千春先輩も一年生のときは出ていないのだから平気ですと言い始めたが、言葉が進むほど彼女の顔は崩れ言葉が詰まるようになり、最後は私の胸に飛び込んで「悔しい、悔しい」と何度も言った。


 私は力が足りなくて謝ると、これは私自身の努力が足りなかったからで、私のためにたくさんの時間を割いて練習を見てくれた千春先輩に申し訳ないとまで言ってくれた。


 そしてひとしきり泣いたあと、木乃美ちゃんは言った。

 こうなれば、千春先輩がしたように、とことんサポートさせてもらうと。

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