~茂山さんのカフェで~
千春が修学旅行から帰ってきた日の夜は、お風呂に入ったあと美味しい夕食。
お母さんからは千春が修学旅行に行ってしまったあとのロンの家での様子を、千春からは修学旅行の話をしながら楽しく食べた。
二人の話でどちらにも共通していたのは、まだ一晩も経っていないうちからお互いに相手に会えないことで落ち込んでしまっていたこと。
それと月をながめていたことだった。
離れたところから同じ時間に同じ月を見て、きっとお互いのことを想い合って、それが力になってロンは次の日から千春がいない生活を頑張って、千春はロンのいない修学旅行でも里沙たちに心配かけることなく楽しむことができた。
食事をすませて旅行の後片付けを終えた千春はロンを誘って散歩に出ることにした。
もちろんロンは大よろこび。
もちろん千春も。
夜の散歩を心配して、ついて行こうとしたお父さんを、お母さんが止めた。
「だいじょうぶ、千春にはロンがついているし、ロンには千春がついているから」
「でも」と、お父さんはそれでも心配して言った。
「二人きりのデートの邪魔をするつもりなの?」
お母さんの言葉に、お父さんはあきらめた。
散歩に出て、いつものベンチに腰かけてロンと月を見上げた。
「ねえロン。ニュージーランドに住む美樹さんにも、このお月さまって見えているのかな」
千春はいつまでも月を見上げていて、ロンは返事もしないでいつまでもその千春の顔を見上げていた。
千春とロンが散歩から戻ると、お母さんが少しだけ暖かい水をバケツに用意してくれて、二人でロンの散歩後のケアをしてあげた。
そして寝るときにはロンも千春の部屋に上がり、いっしょに寝た。
カーテンを開けたままにした窓の上には、月が見えた。
「おいで」
千春がロンを呼ぶと、ロンはベッドに上がり千春に寄りそって横になった。
「お月さま、きれいね」
月を見ている千春の横で、ロンは千春の顔だけをじっと眺めていた。
やがて修学旅行で疲れた千春が目をつむって寝息を立てるまで、ロンはじっと千春だけを見つめていた。
次の日、千春は修学旅行の振り替え休日でお休みだった。
これは修学旅行の最終日が土曜日にかかっていたためのもの。
次の日の千春はいつもの朝と同じ時間に起きてきて、ロンの散歩に行って、朝ごはんを食べたのだけど、疲れたのかお掃除中のお母さんが気がついた時は居間のソファーでロンを抱いて二人いっしょに寝ていた。
千春もロンも、お互いのいない時間を頑張ったんだもんね。
ゆっくりお休み。
午後からは、里沙ちゃんに誘われた千春はロンといっしょに茂山さんのカフェに行った。
日曜日なので混んでいると思っていたけれど、満員というわけではなかったけれどそれなりに人がいてざわついていた。
しかも若い女性が多かった。
その中にはロンの大好きな生あしの女性もいた。
もちろん里沙ちゃんは今日も生あしで、しかもミニスカート。
きっとロンは喜んでデレデレするんだろうな。と思っていたら、不思議なことに今日は私の行くあとをついて回り離れようとしない。
茂山さんもお店の手つだいをしていたけれど、途中からはずっと私たちのテーブルに来て修学旅行の話を楽しそうに聞いていた。
帰る前に修学旅行のおみやげを渡した。
私は映画村で買ったキーホルダー。
里沙ちゃんはなんと、湯のみ茶碗!
しかもお年寄り好みなデザインの……。
しかし意外に茂山さんは大よろこびだったし、確かにこの茶碗、にあっていると思った。
一瞬、里沙ちゃんの片思いの相手って茂山さんでは?と思ったけど、目の前のわきあいあいぶりから片思いは想像できないし、二十三歳と十四歳では歳も離れすぎている。
里沙ちゃんの片思いの男性って誰だろう?
茂山さんと楽しそうに笑う里沙ちゃんの横顔を見ながら、いつか里沙ちゃんの恋のお手つだいができたならいいなって思いながらいっしょに帰った。




