~修学旅行8(月と、映画村と、頑固者)~
「ごめんね千春。実は私も隠していることがあって……実は、それで、千春とロンに嫉妬していたの」
「嫉妬……。嫉妬ってことは、もしかして"恋バナ"?」
驚いて私が聞くと里沙はコクリとうなずいた。
「誰?誰?誰??」
お湯をかき分けて里沙に急接近しすぎて体がくっついた。
「今は……まだ、教えられない」
「え~、里沙らしくなぁ~い」
確かにいつもはっきりしている里沙ちゃんらしくない。
「でも、嫉妬って・なんで?」
「だって、こんなに楽しい修学旅行なのに千春はロンのことばかり考えて離れ離れになっていることを悲しんでいるでしょう? それにきっとロンも同じだろうし。でも、私の彼は全然違うんだろうなと思って。あっ『彼』と言っても、打ち明けたわけでもなくて、まだ私の片思いだから千春とロンの関係が余計にうらやましくて」
「へぇ里沙が、しおらしく片思いだなんて考えられない。好きになったらすぐに打ち明けそうに見えるのに」
素直な感想を言うと「私も、そう思っていた」と里沙ちゃんは笑わずに言った。
「きっと彼も里沙のこと、ちゃんと見ている気がするな」
「だと、いいんだけど……」
「きっとそうよ。いや絶対そう!」
「なんで言い切れるの」
里沙は照れたように笑ってそう言った。
「ほら月!」
私は、きれいなお月さまを指さした。
「きれいでしょ?!」
「うん」
「私たちが、このきれいな月を見て何かを感じるように、きっと似たような感性を持っているはずの好きな相手なら、同じようにこの月を見て何かを感じようとするはずだと思うの。そして遠く離れ離れになっても、お互いにこの同じ月を見ることにより思いが通じる。空もそう。星もそう。同じものを見て、それが鏡の役割をして思いを相手に伝えるの」
「すごい。千春って恋の詩人みたい」
思わず里沙に抱きつかれた。
普段から、冗談で抱きついたり抱きつかれたりすることはあっても、お風呂の中で抱きつかれたのは初めてだった。
女同士とはいえ、さすがに里沙ちゃんのボリュームのある胸の膨らみを意識せずにはいられなくて、私も少しは“人”に恋でもすれば大きくなるのかなって思ってしまった。
修学旅行の最終日は、全員で京都太秦映画村体験学習!
日本の江戸時代の風景や、映画やテレビがどのような場所やセットで作られているのか見聞を深めるための学習。
こんな勉強は大賛成!
いっそのこと普段の授業に取り入れて毎週はたいへんだけど、月ごとに今月は愛知県の明治村に行き、来月はUSJに行って海外の映画作品について考えるとか、全国にちょうど月の数と同じ十二ある築城されたままの状態で残っている現存天守閣のお城を毎月見に行くとか考えるだけでワクワクしてくる。
はじめはそんな話で盛り上がっていた私たちだけど、そのうち映画村の世界にどっぷりハマり伊藤くんたちなんて剣道部の子から借りた衣装まで持ち込んできて、その気になっている始末。
あきれている私とは違い、伊藤くんたちはなぜかモテモテで、外国人観光客の人といっしょに記念写真まで撮影してもらっていた。
「ねえ千春!お化け屋敷に入ろうよ!」
楽しそうに里沙が言った。
わりと優柔不断の私にしては珍しく、そこは間髪を入れずに断った。
私は入場口で案内をもらったときから、ここにお化け屋敷があることは知っていて、忌々しく思っていた。
お化けなんて信じていない。
だからと言って、お化け屋敷が怖くないわけではない。
むしろその逆。
私は怖いのが大の苦手なのだ。
だから映画やドラマでもホラー系のものは一切見ないし、肝試しとか崖の近くとかには絶対行かないし、歯医者さんも怖いから虫歯ができないようにいつでも歯みがきができるようにフッ素入りの歯みがき粉と歯ブラシと歯間ブラシはいつでも持ち歩いている。
みんながお化け屋敷に入って行き、私一人になったと思っていたら、私の他にもうひとり残っていた。
残っていたのは江角くんだった。
どうして残っているのか分からなかった。
まさかお化け屋敷が怖いとかなんてことはないと思ったので、どうして残ったのか聞くと、班長だからだとぶっきらぼうに言われた。
ほかにもうちの学校の生徒はいるから心配ないよと私が言うと、江角くんはそれでも班員を独りだけ置き去りにしないのが班長の責務だと答えてゆずらなかった。
相変わらずの頑固者。
いくら成績がよくて、イケメンだとしても、この性格では一生彼女はできっこない。
そう思ったとき、成績はイマイチでイケメンでもないお調子者の伊藤くんが私たちを見つけて駆け寄ってきて「デートか?」と聞いた。
江角くんとは対極的なところにいる伊藤くんも、彼女ができそうにないところは似ていて面白いと思った。
そして私も、ロン以外に彼氏はできそうにもないと思って笑った。




