~修学旅行7(二日目の夜)~
ホテルに着くと玄関に出て待っていてくれた担任の持田先生が出迎えてくれて「大丈夫か?」と声をかけてもらい、私は恥ずかしくて俯いたまま「大丈夫です」とだけ応えた。
先生からは、あまり痛むようなら病院に連れて行くので我慢せず言うように言われ、江角くんも私もキョトンとした顔をして話を聞いていた。
だって、心の痛みに病院なんて先進的というか、大げさというか、優しすぎるというか……。(でも、持田先生なら、考えられる)
いったい里沙は、私が遅れる理由を持田先生になんと説明したのだろう?
京都では心のケア(カウンセリング)は、ごく一般的になっているのかと思ったら、先生が去ったあと、その陰に隠れるように私たちを待っていた里沙が来て「先生には清水寺の石段で千春が転んだことにしておいたの」と悪戯がバレた悪さぼうずのように言った。
江角くんが「くだらんことに付き合わすなよな!」と怒ったように、ぶっきらぼうな声をかけて通り過ぎて行った。
私は江角くんのその態度が可愛く思えてしばらく浮いた目で追ったあと、今度はその目を座らせて里沙のほうに向き直った。
里沙は私の目と合ったとたんに目を瞑り三十三間堂で見た観音さまのように手を合わせて「千春。ごめん!!」と言った。
里沙ちゃんらしい愛らしい可愛さにすぐに許してあげる。
いいえ、もともと悪いのは私。
修学旅行でロンに会えないことばかり考えていて、まだ普通に学校にいる時間帯からロンに会えないことを悲しんでいて、里沙や周りの友達なんていないかのように自分の殻に閉じこもっていたのだから。
遅く帰ってしまい、あわただしくお風呂に入り、そのあとは大広間で夕食を食べた。
今日のお料理は肉。
男子たちだけでなく女子も大喜びだけど、私は少し困っていた。
お肉は嫌いなわけではないのだけど、ロンといっしょに暮らすようになってから少し抵抗がある。
それは動物としての種類が全然違っても、心が通じないわけではないことがよくわかったから。
牛や豚や鳥を飼育している人たちだって、好きで殺しているわけではないこともよく知っている。
私一人が食べないことでは、何も変わらないことも。
人にその考えを打ち明けることもなく、決して強いることもないし、食べることが悪いなんてひとつも思わない。
けれども、私は食べたくはなかった。
食事が終わって皆と、お土産物売り場やゲームコーナーをのぞいていたとき里沙に袖を引かれた。
何の用だろう?私まだ殻に閉じこもっている態度なのかしら……と思っていたら、お風呂に誘われた。
宿に帰ってきた時間が他の人よりも遅かったので、ただでさえ時間的に余裕にないお風呂の時間がさらに短くなった。
そしてそれは、早く帰ったのに私をロビーでずっと待っていた里沙ちゃんも同じだった。
私たちは二人だけでお風呂に行った。
「大丈夫なの?」
心配して里沙に聞くと、ホテルの人に聞いたら私たちが貸し切りで使っていたほうの浴室はもう掃除されているけれど、一般のお客さんが使っているほうは自由に使っていいと教えてもらった。
私は里沙といっしょに、一般の大浴場に入った。
なんと私たちの使ったお風呂よりきれいで広いうえに、なんと露天風呂までついていた。
夕食時間のいまは数えるほどしか人がいなくてゆったり入れる。
きれいに体と髪を洗い、露天風呂の湯船につかる。
湯船から月の灯りが見える。
ぼーっと、その月に見とれていると、里沙がスーッと横に来て「ロンのこと?」と、のぞき込むように聞いてきた。
「ううん。月がきれいだと思って」
「あら。ほんと」
少しおばさんチックな里沙の反応が可笑しくて笑うと、里沙はすぐに気がついて「なによ、その意味深な笑顔は」と、つっこんできた。
私は里沙の問いには答えずに「今日はごめんなさい」と自分の殻に閉じこもっていたことをあやまった。
里沙は私の話を最初の言葉から最後の言葉まで一字一句逃さないほど真剣に聞いてくれたあと秘密を打ち明けてくれた。




