~修学旅行4(一日目、京都のホテルで)~
奈良からバスに乗り京都のホテルに向かった。
駅からすぐで街中にあるわりと大きなホテル。
部屋は約八人から十人が布団を敷いて寝られるつくりになっていて、そこに私たちは二班ずつ同じ部屋で寝ることになった。
もちろん男子と女子は別の部屋で、部屋のあるフロア自体も違う。
さらに大浴場が男女二つずつあって、そのうちの一つずつが私たちのために貸し切りとなっていた。
そして三百人以上の人数で一度に食事をとることができる大食堂もあり、修学旅行や団体旅行にも配慮したつくりのホテル。
もちろん一般のお客さんだっているので、他のお客さんの迷惑にならない学生らしい行動をとるように先生から釘を刺されていた。
私たちはここで二泊する。
修学旅行は全て行動予定表に沿うかたちで起床や出発、食事に入浴、そして消灯・就寝まで規則正しい団体行動が求められる。
これもこれから先にある宿泊を伴う団体での行動や、社会に出てからの行動には必要なものだろう。
修学とは学問や行儀作法などを身につけることを意味し、修学旅行は学問を修めることと見聞を広めて学ぶことを目的とすることが修学旅行のしおりにも書かれていた。
しかし現実は文字に書かれたことを理解するよりも難しい。
「千春、早く!早く!」
「あーちょっと待って! 試供品でもらったキューティクルを守るコラーゲン入りの高級トリートメントの袋を着替えの中に落としちゃった!」
「急がないと、次のクラスが入って来ちゃうよ!」
「あっ、あった、あった!」
そう。
私たちには、つねに時間という制約があり、マイペースな修学は許されていない……。
いそいで髪と体を洗い大浴場から出て、髪を乾かす暇もなく更衣室を出ると、既に廊下には次のクラスが時計を見ながら待っていた。
タオルドライしただけの髪を見られるのは恥ずかしいので誰にも会いたくはないと思っていたら、廊下には次の入浴を待つ伊藤くんがいてお風呂を終えた江角くんと話をしていた。
気がつかないでほしいと願いながら、気配を消して通り抜けようとした次の瞬間、伊藤くんに気付かれた。
「あっ、鮎沢……」
伊藤くんの声に、背を向けていた江角くんも振り向いた。
「鮎沢……」
「えっ!?」
名前を呼ばれたのはわかるけれど、その先の言葉は一体何なのよ!
気になりながらも、恥ずかしくて慌てて逃げるように部屋に戻り、持ってきたドライヤーで髪を乾かした。
髪を乾かして終わると、ゆっくりする間もなく夕食の時間。
食堂に集まるともうかなりの生徒が集まっていて、最後に六組の美緒たちが入って来た。
美緒の髪はタオルドライした状態に近くて、ドライヤーを忘れてきたのならあとで貸してあげようかと言うと、ドライヤーは持ってきているけど六組がなかなか上がって来なくてお風呂の時間が遅れて乾かす時間がなかったと小声で教えてくれた。
私たちは一組なので宿に着いてから慌ただしかったけれど、そのあと1分ずつ遅れたとしても七組では5分も遅れることになってしまう。
でも行程表ではもう少し余裕があったはずだから、もっと遅れが生じてしまったのだろう。
夕食は京都らしい懐石料理が出され、見た目も味もとても美味しかった。
すこし関東よりは薄味だったのも、地域によって味が違うこともよくわかった。
味の違いは出汁が大きくて太平洋側にある関東は主にカツオの出汁が使われ醤油辛いイメージで、それで美味しいのはお蕎麦。
そして京都は北前船の寄港地の関係で昆布が出汁に使われ、昆布には薄口醤油が合い、それで美味しいのはおうどん。
食事一つでも、地理や歴史との関係が結びついて、なんとなく修学旅行の重みを感じた。
夕食がすんで、各部屋に戻り歯磨きをして少しみんなと話して、消灯時間がきて私は寝た。
寝るときに里沙をはじめほとんどの子が、まだ話をしていたけれど、朝の四時から起きていていた私は目を瞑ると同時に寝てしまった。
眠るまでのほんの少しの時間に考えたのは、やはりロンのこと。
ロン、いまごろどうしているのかな?
ドアの前で、いつになっても帰ってこない私のことを心配して待ってくれているのかな……。




