~恋バナと、ゆううつな修学旅行のこと1~
五月下旬の土曜日、久しぶりに里沙が遊びに来てくれた。
木乃美ちゃんのことでもう手いっぱいで、全然休みが取れなくて部は違うけど里沙は同じクラスだから、お昼休みにも彼女の練習を見てあげている私に気を使っていたのだ。
「それにしても、がんばったね、千春。 こんなに熱心に指導してくれる先輩がいるんだったら、私も吹奏楽部に入ればよかったな」
「なに言っているのよ、里沙は神奈川県でも有名な選手になったくせに」
「んー……まあ、それは、そうだけど」
里沙は二年生からショートの選手として試合に出るようになり、その打撃センスと足の速さは我が中学の攻撃の目玉となっただけでなく、守備でも活躍した。
けれども試合をつくる投手は三年生が出ていたため、夏の大会は今年も県大会には出場できなかった。
しかし三年生が引退したあとの秋季大会からは里沙が投手となり相模原予選会を四試合連続完封勝利で突破して、県大会の二回戦まで完封勝利をあげて準々決勝まで進んだが、その日二試合目の試合となった里沙は後半に力が衰えたところを粘られて惜しくも準決勝進出は叶わなかった。
しかし相模原予選から六試合連続完封勝利と、七試合連続完投で相手に許した得点もたったの一点だけとあって、一躍大会屈指の速球投手として注目をあびた。
部内で、てんてこ舞いになっている私と比べると、天と地の差だ。
「ところでゴールデンウィーク中に新入部員を河原に連れて行って練習していたそうだけど、そこに江角くんも応援に行っていたってうわさで聞いたけど、それって本当なの?」
「ほんとうだよ。……それが、どうしたの?」
里沙は私の言葉にすぐには答えずに、しばらく考えたあとで私に好きな男子っていないのかと聞いてきた。
中学三年になった私たちにとって、やはり気になるのは恋愛事情。
でもこれって私にとって、いちばん避けたい話題なのだ。
だって家族といっしょでないと家も出られないロンの手前、私だけが自由奔放にアバンチュールを楽しむなんてできないでしょ?
うまくロンに内緒で彼氏と遊んで来たとしても、匂いですぐにロンはわかってしまう。
誰と誰は付き合っているとか誰が誰を好きかとか、男子であの子がカッコいいとか面白いとか、里沙も他の子と同じでそういう話が好きで色々情報を知っている。
女子の間で人気の男子はサッカー部のAくんやバレー部のBくん、それに野球部のエースで4番のCくん、バスケ部のDくんと何人かいる中で、いちばん人気なのは吹奏楽部の江角くん。
体育会系のA~Dくんはともに運動神経のいい部活の中心人物で、みな陽気なキャラクターだけど、素行が悪いとか勉強が苦手とか部活で暴力をふるっていたとか二股かけていたとかという悪いうわさもつきまとう。
吹奏楽部の江角くんだけは学年トップクラスの学力と、超イケメンの容姿がポイントで人気が高いらしい。
「でも江角くんって、結構人に対して冷たいよ」
江角くんは私と同じ吹奏楽部だからよく知っているけれど、練習のとき誰かが間違うたび、あからさまに嫌な顔をしたりする。
一年のときなんか江角くんと二人だけ大会メンバーに選ばれた同級生の加奈子が自主練習に参加していないということを厳しく指摘して泣かせてしまった。
さすがに先生に叱られてからそのようなことはしなくなったけど、部長になった今でも鬼のような目つきで下級生を指導している。
里沙が、そんな江角くんをどう思うかと聞くので、私は生真面目なのはわかるけど、人それぞれ考え方は違うのだからああいった態度を人に見せるのは見ていてハラハラすると答えた。
里沙は、ほとんどの子に江角くんのこと聞くと、イケメンだけど性格が悪いって答えが返ってくるんだけどと、私の目をのぞきこむように言った。
何を言われているのか全く気がつかない私は「そっか」としか答えられなかった。
すると里沙は「江角くんのいいところってどこだと思う?」と聞いてきた。
「う~ん。勉強もできるし、トロンボーンも上手だよ」
「そうじゃなくて性格的にみて」
「知らないわよ。小学校違うし、同じクラスにも今年なったばかりだし」
「でも、見ていてハラハラするんでしょ」
「まあ、子供みたいにわがままそうだからね」
「そうそう!そこっ!」
体を乗り出してきた里沙ちゃんの”そこっ!”の意味が分からないでいると。
「そこのところを、他の人は”性格が悪い”って表現するよ」
言っている意味が分からないでポケッとしていると、里沙ちゃんは「江角くんってきっと、千春のこと好きだよ」と言った。
「えっ!?」
私がビックリすると、ロンも驚いたのかいままで伏せていたのに、お座りして顔を乗り出してきた。
え~っ、なんで、急にそんな話になるのよ~!




