~新入部員~
年度が替わり、私たちは正式に最上級生になった。
そして今年も新たに一年生が入学し、吹奏楽部にも新しい部員が入ってきてくれた。
新しい部員の中には私が一年生のときにお世話になった春日部長の弟の二郎くんや楽器係だった鈴原先輩の妹さんの美麗さん、同級生の衣笠くんの妹の真利子さん、そして一番驚いたのは私に制服の第二ボタンをくれて卒業していった児島先輩の妹の木乃美ちゃんが入ってきたこと。
正直言って卒業した児島先輩は、指揮者を挟んで私の正面にいるクラリネットの担当者で、腕前は可もなく不可もなく性格も寡黙でおとなしかった。
そのほかに、特に印象的なこともなく、なぜ制服の第二ボタンを渡されたのかも意味不明のままだったけれど、妹の木乃美ちゃんは違った。
入部当初から何か周囲をキョロキョロとよく見る子だと思っていたけれど、一週間も経つとまるでお目当ての人を見つけたように私ばかりを見るようになり、そして近づいてきた。
見学期間終了日まで、そういった感じで入部届も出さずに、希望の楽器も特に明言することもなかった彼女が最終日に提出した入部届に記載した楽器の第一希望は私と同じオーボエだった。
あー、これは何かある予感しかしなかった。
持田先生も、これからオーボエ奏者を絶やさないで育てることや、将来的にはコール・アングレ(※イングリッシュホルンのフランス読み。ちなみにドイツやオーストリアなどのドイツ語圏ではエングリッシュホルンと呼ばれます)や、ファゴットも増やしてもっと音楽に深みを持たせたい意向もあり、今年の予算からもう一本オーボエを購入することが決まった。
木乃美ちゃんにオーボエを選んだ理由を尋ねると、さがみ風の子文化祭で私の演奏を聴いて演奏してみたくなったと答えてくれ、習ったことはあるのか聞くと、まったくの初心者だと言っていた。
オーボエは習得することが難しいと言われている楽器。
しかも我が吹奏楽部には、オーボエを演奏できる部員は私一人しかいない。
この半年間で、私は次の世代にもオーボエの奏者が続けられるように、この木乃美ちゃんに教えなくてはならない。
とても重要なことでその役を担えることも栄誉なことだけど、副部長という立場もありそれはかなり大変なことだと思った。
でも、どちらもやり遂げなければならない。
せっかく購入してもらったオーボエを、次の世代までつなげていくためにも。
その日から私の特訓は始まった。
副部長という立場もあり全体をみながら、木乃美ちゃんもみる。
メニューは秋子おねえちゃんが私に課したものと同じメニューだから、木乃美ちゃんのやる気次第だけど、そんなに手間はかからないはず。
木乃美ちゃんは最初こそリードで一定の音を出し続けたりメトロノームに合わせてリードを吹いたりするだけの練習に戸惑っていたけれど、ちゃんと真面目に指示に従ってくれている。
本当ならみんなといっしょに演奏の練習を始めたいに決まっているのに、このようにおとなしく私の指示に従ってついてきてくれているのは、きっと家で児島先輩がフォローしてくれているに違いない。
まだ基礎の基礎を練習してもらっているというのに、あっという間に四月が過ぎ、五月のゴールデンウィークが来てしまった。
この休みが過ぎると六月には定期考査が行われ、その発表があるとテストが終わる日まで部活動は中止となる。
さらにテストが終わったあと、私たち三年生は二泊三日の修学旅行に行ってしまう。
つまり定期考査の発表前までに、木乃美ちゃんを独りで練習できるレベルまで持って行かなければならないのだ。
あせっている私の様子を察した伊藤くんが、その間に副部長代理として全体の世話をみていてくれた。
ゴールデンウィーク中は、晴れた日は河原で、雨の日には私の家に木乃美ちゃんを呼んで毎日いっしょに練習した。
もちろん河原に行くときは用心棒としてロンだけじゃなく、伊藤くんや江角くん、それに甲本くんや美緒や今川さんと宮崎くんまで、都合がつけば来てくれた。
木乃美ちゃんの頑張りと、みんなの協力もあって、五月上旬には楽器を使っての基礎練習もできるようになり、五月下旬には一人で演奏の練習もできるようになってきた。




