~真夏のクリスマス2~
色々なケーキをロンに試食してもらっているうちに、ロンの好きなものが分かってきた。
サツマイモで作ったケーキが一番好きみたいで、その理由はおそらく甘いから。
全然砂糖を使っていないので素材の中では、断然サツマイモが甘い。
小麦粉をホイップしたときに少量のハチミツを入れたときもロンは喜んだけど、やっぱりサツマイモが好きみたい。
作った手前、実は毎回味見をするけれど、私もサツマイモのケーキが一番好き。
美樹さんに聞いたら、犬は大体甘いものが好きなので太りやすいそうだ。
ムムム……では、甘いものが好きな私も太りやすいってことだ。
これは気を付けなくては……。
さて、これからはこのベースにどんな飾りつけをするか……。
初めて作るクリスマスケーキのテーマは『真夏のクリスマス・ケーキ』
だから飾りつけも夏らしくしたい。
なぜ冬のクリスマスなのに、ケーキのテーマを夏にしたかと言うと、それは美樹さんをびっくりさせるため。
だって夏休みに美樹さんから送られてきた暑中見舞いには、スキーをしている美樹さんがいて、改めて北半球と南半球の季節が逆なのを思い知らされた。
そこで今回のクリスマスは家族に頼んで、あるお願い事をしたのだ。
知らないのは美樹さんともう一人……。
*
クリスマスの飾りで彩られた街を、里沙とロンと私の三人で歩いている。
「えー!?真夏のクリスマスって想像できない!」
南半球のクリスマスが真夏だということを話していたら、里沙がそう言って驚いた。
そう、私たちは生まれてからクリスマスは冬に決まっていると思っていた。
今目の前に見える街の飾りつけもそうだし、絵本や映画も全部雪の降る景色が欠かせない。
美樹さんからきた暑中見舞いでは日本の真夏に、真冬のニュージーランドでスキーをする写真だったけれど、さすがにクリスマスは向こうでも真冬の格好をするのかな。
「あっ!ほら。ここ。ここ!」
里沙が指さしたのは、街の通りから少し離れたところにあるカフェ。
オープンデッキがあって、かっこいい。
このカフェはオーナーさんも犬が大好きでペット同伴で入れて、しかもペットのためのメニューもあることを、里沙が教えてくれて今日行ってみることにした。
家の車でロンを連れて遊びに行っても、私たちがお店で買い物や食事をするときのほとんどにロンは着いていけない。ネットなんかでたまにペット同伴OKのカフェとかホテルとか見るけれど、だいたい観光地がほとんどで、日常的な暮らしの中で、そういった体験をできるところがあまりにも少なすぎる。
私たちは、意外に近いところにあったこのカフェを知り、今日初めてそこの扉を開ける。
ドアノブを持つ手が少し汗ばんで、心臓がドキドキしていた。
「愛犬とご一緒にお入りください」と、ちゃんと入り口に書いてあるけど、こんなところに来るのはセレブな人が飼っている血統書付きの犬たちなんだろうなと思うとドアを開けるのがこわく思える。
中に入ろうとしたとたんに周りから変な目で見られるのではないか。
私ならまだ中学生だからセレブたちに変な目で見られるのは覚悟しているけれど、ロンがそんな目で見られるのはたまらない。
ロンは大切な家族だから。
私がドアノブに手を掛けて止まっているのに、ロンは立って私の手に覆いかぶさってきて「早く開けろ!」って言わんばかりに押してくる。
その子供のように無邪気な態度に私も気がゆるやかになった。
店内におたかくとまったセレブがいて、私たちのことをばかにしようとも私がしっかりさえしていればロンはきっと気付かないで楽しく過ごすことができるのだ。
ドアを押すが、重くて開かないのはまだ私がビビっているからなのかもしれない。
そう思って今度は少しの間目をつむって深呼吸をした。
それでも、ドアは開いてくれない。
私は目を開けて、私に加勢するようにドアを前足で押してくれているロンに後ろにさがるように言った。
そしてドアノブを引くと、ドアは何事もなかったように開いた。
「引いて開けるタイプだったみたいね」と、里沙が言った。
ドアを引いて、隙間ができた途端にロンは私の横をすり抜けて店内に入っていこうとする。
ちゃんとリードはしているけれど、私の目で確認できない先に行かれて慌ててリードを強く引く。
引いた力でロンよりも私のほうが前のめりになってしまいドアの向こう側にいた人にぶつかりそうになった。
「すっ、すみません!」
「大丈夫ですよ。いらっしゃい!」
大きな人だった。
しかしどこか見覚えのある顔……。
私が考えている間に、ロンはその大きな男の店員さんに甘えていた。
それに気が付いて慌ててロンのお尻に手をやってお座りさせた。
「すみません、なれなれしくて」
お店に入ってまだ1分も経たないというのに、もう2度目の「すみません」
なんだか先が思いやられると、思っていたとき大きな店員さんが言った。
「構いませんよ。それにしてもよく覚えていてくれたなあ、ロンありがとうな!」
「えっ!?」
私は改めて目の前の大きな男の人を見上げて驚いた。




