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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~二度目の大会3~

 相模原支部大会が終わり、いよいよ夏休み。

 今年も去年と同じように体育館での早朝練は行われたが、今年は大会に出場する人数が多すぎるので放送室は借りずに金管とパーカッションの練習時間は一時間遅くして九時から午後の一時までとした。


「いーな、金管たち、朝寝坊できて」

 支部大会が終わった帰り道、美緒が金管の伊藤くんとパーカッションの甲本くんに、うらやましそうに言った。


「たった一時間だぞ」

「一時間じゃないわ、二時間よ」

「あ、美緒、朝練嫌なのか?」

「毎日は……正直、つらい日もある」


 伊藤くんが、だったら早朝の自主練だけ休めばいいじゃないかと美緒に言ったあと、ちらっと私を見た。

「?」

 その言葉に美緒が、去年のこともあるからのうのうと休めないと言って、私をちらっと見た。


 美緒が言った「去年のこと」とは、私が先生に頼んで既定の練習開始時間より少しでも長く、かつ涼しい時間帯に練習ができるように体育館と放送室の早朝での利用を求めたことが発端となる。

 この練習は認められたが、最初の一週間一度も早朝練習に参加しなかった佳代子を江角くんがとがめて泣かせた事件のこと。

 ファゴットの福田佳代子さんは、トロンボーンの江角くんと同じく個人レッスンを受けていて技量が優れていることから、一年生で二人だけ大会のメンバーに選ばれていた。


 この事件のあとに開かれたミーティングで、江角くんは同じように早朝練習に参加していない二年生のクラリネットのメンバーにも言及しようとして、それを察した当時の春日部長は江角くんの話をかき消すように与えられたチャンスを逃さないように参加を促すにとどめた。


 しかしこの早朝練習場を先生に提案した私は、火の粉が降り注いだ佳代子だけではなく、江角くんに指摘されそうになった二年生のクラリネットのメンバーから疎まれるようになった。


 私はそのことに対しては、あくまでも早朝の自主練習なので強要するつもりも強要する権利もなかったが、正直残念に思っていたのは間違いなかった。

 あのときの江角くんの発言は、私の気持ちを代弁してくれたのかもしれない。

 だから伊藤くんも美緒も、話のときに私を見たのだろう。



 次の日、早朝練習を終えて音楽室に上がろうとしていたとき、中庭から金管楽器の音が聞こえた。

 “あれっ?金管は九時からのはずだよね……”

 美緒と一緒に校舎の角から見ると、そこには狩野部長や江角くんたちだけでなくパーカッションの甲本くんたちもいたが、伊藤くんはいなかった。


「伊藤、さぼりかな?」

 美緒が言った。

「きっと寝坊じゃない?」と私は返した。


 結局八時半ごろには、あの自信満々に強く音を外す音も聞こえ、伊藤くんも早朝の練習に加わったことがわかった。

 “やっぱり寝坊だ”

 伊藤くんらしくておかしかった。


 その日私は十二時には帰らずに、一時まで中庭で練習した。

 伊藤くんが「ズルいぞ、朝練したくせに!」と文句を言われたが、吹奏楽部の練習時間が二段階とはいえ午後一時までと予定表に明記されているので、私は「サービス残業」だと答えて退散させると輪の中でいっしょに練習をしていた木管のメンバーたちが笑った。


 残ったメンバーの中には、大原先輩や二岡先輩などのクラリネットもいて笑っていた。

 もちろん美緒も佳代子も残っていた。

 メンバーの首には去年配った青い冷感タオルと、今年の一年生用に新しく買った同じ青色の違うデザインのタオルが巻かれていた。


 去年と同じものがなかったから仕方なかったので、学年ごとに色を変える案も出たけれど、私は反対した。

 学年ごとに色は変えたくなかった。

 このタオルは同じ思いで夏を過ごす私たち全員の共通する意思の象徴だと私は思った。

 全体主義的主張だと思われるかもしれない。

 けれども学年等いう垣根も設けず、メンバーとメンバーでない者も同じ考えを持ち、同じ目標に向かって進まなければ曲もまとまらない。

 それで今年も同じ色のタオルを購入した。


 結局私たちは、いつも通り四人で仲良く帰った。



 次の日の朝、朝練に向かっていると、いつもの角で伊藤くんが待っているのが見えた。


「おはよう!どうしたの?」

「普通に朝練、サービス残業の」

「でも音は出せないのよ」


 私の問いに伊藤くんはニヤッと笑い、手に持っていたマウスピースを広げて見せた。

「これならいいだろう? 話し声と、そう変わらないし」

「さすが、考えたわね!」

「まあな」

 伊藤くんは、えらそうに人差し指で自分の頭をツンツンと軽く叩く真似をしてみせて、それが全然に合っていなくて少し笑った。


 そのまま二人で学校に向かっていると、途中から美緒と甲本くんも合流した。


 まるで私は鬼ヶ島に向かう桃太郎みたいだと思った。

 だって甲本くんの小学生時代のあだ名は「猿」だったし、美緒は見かけによらずよくおしゃべりする小鳥みたいだし、伊藤くんの性格ってロンとよく似ているし。

 つまり私が、桃太郎さん。

 甲本くんが、猿。

 美緒が、キジ。

 伊藤くんが、犬。

 そして私たち四人は、学校という鬼ヶ島に行って、お宝をもらってくるの。

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