~二度目の大会1~
自由曲の歌劇「トゥーランドット」は、全員で挑戦する意義にかなり希望が持てる気がした。
タイミングこそ難しいものの、一音を区切って演奏する箇所がいくつもあるし、序盤と終盤の盛り上がるシーンで数の原理を使って圧せるのは大きい。
パーカッションだってあればあるほど使えそうな感じがする。
個人的には私のオーボエのソロが入るのも、うれしい。
ソロは2箇所あり、もうひとつのトロンボーンのソロは年功序列でいけばパートリーダーの江成真奈先輩が演奏すると思うが、江角くんの実力も捨てがたい。
波風は立てたくはないので意見は言わないけれど、私の耳が確かなら江成真奈先輩のトロンボーンはかなり上手い中学生レベルなのに対して、江角くんのトロンボーンは上手い高校生レベルくらいの差があると思う。
どちらが演奏しても評価が下がるレベルでは決してないから、あとは持田先生の判断次第で、どちらが選ばれてもいい演奏になることは間違いない。
伊藤くんが色々と面倒を見た甲斐もあって宮崎くんはもう新一年生とは思えないくらい上手になっていた。
もともと鼓笛隊にいたときから上手だったけど、伊藤くんのおかげで先輩たちにも早く馴染むことができて堂々としているので演奏にまったく窮屈さがなくのびのびとしているのがその最大の理由だと思う。
“伊藤くん、ナイス!”
今川さんも宮崎くんと同じように、まるで去年からいたのではないかと思わせるくらい堂々と演奏している。
彼女の場合は、持ち前の可愛らしさと社交性の高さがその大きな要因なのだろう。
容姿の可愛さと社交能力があれば万能!
見ていてとても羨ましい。
今川さんはいち早く先輩たちに認められることで、同級生の子たちも仲間の輪に入りやすいような環境を作り、一年生全体をまとめていた。
他人から可愛がられやすいとか、親しみやすいというのは人生において大きな武器になるのだと思う。
今川さんがそれを意図的に利用しているのか、それとも自然な流れなのかはどうでもいい。
全体にとって、いい環境や人間関係を構築することは何事にも代えがたい。
新入生の中では他に江成真奈先輩の妹の美奈さんが上手い。
姉妹で演奏する楽器は違うけれど、お姉さんがトランペットのパートリーダーとして頼りにされているうえに私たち吹奏楽部のマドンナ的存在だからという強みもあるし、きりっとした顔立ちが特徴のお姉さんに比べると美奈さんのほうは妹らしく愛らしい美人に仕上がっている感じ。
このふたつの異なるタイプの美人像を姉妹で分け合っているので、伊藤くんはしょっちゅう江角くんに用事があるふりをしてトロンボーンのグループにも入り浸っている。
江角くんの隣には、必ずといっていいほど妹の美奈さんがいる。
伊藤くんたらまるで家に戻った私に飛びついて、大きな尻尾をバタバタと振っているロンみたいで可愛い。
そしてトランペットの練習が始まり、姉の真奈さんに連れて帰られるところも、ロンに似ていておかしい。
上達しているのは一年生だけではない。
部全体としてすごく上手くなっていると思うし、その中でも目覚ましいのは三年生のクラリネット担当の二岡先輩だろう。
二岡先輩が上手くなったことは、音を聴き分けられない部外者でもすぐにわかる。
なぜなら、演奏する姿勢が格段によくなっているから。
前は背中を丸めて顔を下に向けた、見るからに窮屈そうな姿勢で演奏していたのが、今ではピンと背筋を立て前のめりになるときも骨盤を軸に上半身がぐらつかないようにしている。
これは楽器に安定した息を送り込むためにはとても重要なことで、特にお腹を圧迫する姿勢では腹式呼吸を、背中を丸めることで肺活量が制限されてしまい、強い音を出すときだけでなく弱い音を長く伸ばす場面でもかなり影響が出てしまう。
姿勢がよくなり上手になることで、人は変わることができる。
あれほど朝練や昼練に出てこなかった二岡先輩が、今では他の友達を誘って出てくるようになった。
これは大会に向けて、とても明るいことだ。




