~新入部員2~
新入部員の中にはトロンボーンのリーダーで、吹奏楽部のマドンナ的存在の江成真奈先輩の妹の美奈さんもいた。
妹の美奈さんはトロンボーンではなくてトランペットだった。
今年の新入部員は私たちのときより少なかった。
去年せっかく県大会まで出場したというのに、ここは公立の中学だからただ単に学校区にある小学校のなかで演奏ができる子や、演奏に興味のある子が少なかったのだろう。
結局今年は吹奏楽部全員の人数は五十四人となり、大編成の最大人数よりも一人足らない。
今年の方針は『なるべく全員参加』なので、まさに全員出ることができる状態。
しかし『全員参加』の文字の前に『なるべく』が付くことを忘れてはならない。
つまり大編成に満たない人数しかいない中で、全員と掲げてあるにもかかわらず出られない人が出てくる可能性もあるということ。
もしこれでメンバーに入れなかった人が出たとしたら、大編成にもかかわらず一年生が一年生と言う理由だけで大量に足切りされた去年とは比べ物にならないくらいの屈辱を味わうことになってしまうだろう。
私たちは、その足切りを経験したから、よくわかる。
だから私たちは、そういう人が出ないようにがんばった。
もちろん狩野部長をはじめ三年生の先輩方も一年生の面倒をよく見た。
自主練などをさぼりがちだったクラリネットの三年生も、ようやく最上級生の自覚が出てきたのか後輩たちの面倒もよく見るようになり、自分たちの練習にも前向きに取り組むようになった。
まるで一年生を中心に、私たち吹奏楽部の組織自体が躍動しているように感じた。
落伍者は一人も出せない。
だが技量のないものを大会に出すことは、目指す県大会進出は果たせない。
だから私たちは、いまやるべきことを完璧にやるしかないのだ。
「はあ~今日も疲れたね」
帰り道で美緒が言うまで、誰も話していなかった。
甲本くんは手でズボンのポケットの辺りを叩いていたし、伊藤くんもトランペットの運指の練習をしながら歩いていたし、パートの違う宮崎くんはその伊藤くんの運指を見ながら自分の指を合わせていた。
今川さんも同じように指を動かしていたし、美緒だってみんなに話しかけるまではそうしていた。
もちろん私も繰り返し頭の中で楽譜を読みながら指で追っていた。
「もう私たち、一種の病気だね」
「ああ、県大会出場というウイルスに侵されたな」
美緒の言葉に伊藤くんがそう答えた。
そう。
ただぼんやりと練習をしていたのでは、とても県大会出場など叶わない。
選ばれるに値する者たちだけが選ばれるだけ。
たかが三分の一の確率と言っても、まぐれや不確定要素で選ばれるわけではない。
だから私たちは選ばれるものになるために練習している。
それでも県大会に進めるかどうか……。
東関東大会や全国大会を目指している学校はどのような練習をしているのだろう?
公立の中学でも強豪校と呼ばれるところはあるらしい。
できることなら私たちもいつかそう呼ばれて、全国大会に出てみたい。




