~文化祭1(白鳥の湖)~
今日(勤労感謝の日)は、いよいよ「さがみ風っ子文化祭」の小中学校音楽発表会が行われる日。
会場は相模原市民会館。
全国吹奏楽コンクールの支部大会が行われた相模女子大学グリーンホールや、県大会が行われた川崎市文化総合センターに比べれば、二階席もないし小さいけれどこれでも年に1回はメジャーな歌手やコメディアンの人も来るし、小学生の頃から音楽をしていた私たちにとってはその発表会の場を与えてくれた大切な場所。
その大切な場所で私は秋子お姉ちゃんのオーボエで演奏をする。
当然、持田先生には相談して、OKはもらっている。
今回私が秋子お姉ちゃんの楽器で演奏するのには訳があった。
それは、叔母さんとアンドリューさんに聞いてもらうため。
伯父さんの方は忙しい方なので仕事の都合がつかったし、我が家の方も兄はラクロスの試合があって来られなかった。
楽器の搬入を終え、舞台の上手で待った。
前の中学の演奏が終わり、彼らの楽器は下手に回収され、それと同時に私たちの学校の楽器が上手から舞台に配置される。
楽器のセットをしているときに、下手に移った前の中学校の楽器たちが今度は舞台裏の通路を通って上手にある搬送口に向かっているのが聞こえた。
これは会場の規模の問題だけど、やはり舞台裏に搬入口があったほうが何かと便利だ。
今回私たちが演奏する白鳥の湖は全部で二時間以上もかかるバレエ曲。
白鳥の湖はバレエ曲なので曲にも明確なストーリーがある。
全体のストーリーは、悪魔ロートバルトによって昼間は白鳥の姿に変えられたオデット王女と、母親から結婚相手を次の舞踏会で決めるように言われた独身貴族ジークフリート王子との悲哀が描かれている。
今回はその中から序曲、第十曲、第十三曲、第二十九曲で構成して演奏をおこなう。
この施設にはチューニングルームがなかったので、セットが終わるとすぐにチューニングをおこない持田先生が整ったことを確認して演奏を始める。
持田先生の演出で、実際のバレエで行われるのと同じように、この序曲は幕が下りたままの状態で始めた。
曲の出だしは私のオーボエのソロから。
幕が下りているので当然会場はまだざわついていたのとこの状態では当然音はあまり届かないだろうと思い、これから始まる哀しい物語を予感させるフレーズだけど私は哀しさを表現することに意識を集中しながらも目の前に立ちふさがる幕を射貫くように強く息を吹きこんで演奏した。
ソロパートを終えて、おなじ一年生の福田さんのファゴットへとバトンを渡したとき、いつの間にか幕の向うにある会場が静まり返っていることに気付いてホッとした。
幕を上げたあとの第十曲はこの白鳥の湖の代名詞ともいえる最も有名な曲で、ここも私のオーボエのソロから始まる。
おそらく会場のみんなが期待しているに違いないと思い、少しでも長く音を届けられるように私は焦らないでひとつひとつの音符を限界ギリギリまで攻めてみた。
第十三曲はクラリネット三台との合奏が出だしで、これは湖に来たジークフリート王子が四羽の白鳥と出会うシーンに流れる曲。
当然この四羽の白鳥の中の一羽は悪魔ロートバルトの魔法によって白鳥の姿に変えられたオデット王女で、私はそのオデット王女を演じていたから誰が聞いても他の三羽とは違い、誰が聞いても私のオーボエに心が奪われてしまうように表現してみた。
オデット王女の魔法を解くには、今まで一度も打ち明けられていない愛の告白がなければならない。
ジークフリート王子は誰にも愛の告白をしたことがなかったので、舞踏会の夜オデットに愛の告白をすることを約束して別れた。
しかし二人の会話を悪魔ロートバルトは聞いていた。
舞踏会の夜、母親が手配した多くの王女や貴族の娘の誰にも触手を伸ばさずオデットを待っていたジークフリート王子の前に、ついにその時が来た。
オデットが現れたのだ。
着飾ったオデットは別人のようにも見え、友人に「アレはオデットだよな」と聞くと友人たちはみな「似ているけれど、違うと思うよ」と返した。
しかしジークフリートは舞い上がってしまい、友人たちの忠告も聞かずに彼女に愛の告白をしてしまう。
しかしその女性はオデットそっくりに変身した悪魔ロートバルトの娘オディールだった。
そのとき舞踏会の窓に現れた白い白鳥を見てジークフリートは、自分が罠にかかってしまったことに気付き、オデットは裏切られたことに気付き森の泉に帰って行く。
この物語はハッピーエンドとバッドエンドの二つの終わりがある。
ハッピーエンドはジークフリート王子が悪魔ロートバルトを倒して、オデットと結ばれて終わる。
バッドエンドは、追いかけてきたジークフリート王子が許しを乞うが、オデットは許さず人間の姿のまま湖に身を投げて死んでしまう。
最後の第二十九曲もオーボエのソロで始まるので、私はこの曲をバッドエンドのつもりで演奏した。
哀しいけれど、それが今の私の気持ちにいちばん正直だから。




