~告別式2~
秋子お姉ちゃんの夫であるアンドリューさんから、この楽器を使ってみたいかと言われて私は困った。
たしかにこのオーボエは吹きやすい。
そしてリードとの相性もとてもいいように感じるし、音もよく届く。
でも私は秋子お姉ちゃんからオーボエをもらってまだ一年半しかたっていないし、演奏に限っていえば八か月。
そのような私がプロ奏者の使う楽器を手にしているのもはばかられるのに、学校の楽器やもらった楽器もまだ完全に演奏できていないのに、いい楽器が目の前にあるからといって正直ほしいとは思わない。
事情の分かった今だからはっきりと言えることなのだけど、最初のオーボエを私の誕生日に送ってくれたとき秋子お姉ちゃんは既に病にかかっていた。
おそらく自分が演奏できなくなることも知りながら、いくつか持っている楽器の中から私にあう楽器を送ってくれたのだと思う。
だから私は選んでくれた理由がわかるまで、この楽器を使いたいことをアンドリューさんに話した。
アンドリューさんは私が返したオーボエを手に取ると、何度もありがとうと言いながら泣き出してしまい、私はどうすればいいのかわからなくて困った。
隣にいた高倉の叔母さんも泣いていて、高倉の伯父さんが「千春ちゃん、ありがとう。秋子もよろこんでいると思います」と言ってくれた。
しばらくしてアンドリューさんと伯父さん叔母さんの三人は、オーボエをもとあった場所に戻して遺影に手を合わせていた。
その光景をお母さんと二人で見ていると、お母さんは色んな人に声をかけられていた。
みんななんかえらそうな人だったので私には関係ないと思い、ここに来たときから場の雰囲気にのみこまれたまま固まって奥の椅子に座ったままでいるお父さんと兄のところに応援に行った。
「どうだった、私の演奏?」
二人にさっき演奏した感想を聞くと、お父さんも兄もすごく上手だったとほめてくれ、私はそのことがいちばんうれしかった。
告別式が終わり会場を貸していただいた学校の方や、運営をしてくれたOBの方たちにあいさつをしていると、ほとんどの人たちが秋子お姉ちゃんの同級生だったことにおどろいた。
しかもOBの人たちは兄のことをイケメン、私のことをアキに似ているとほめてくれたけど、顔のつくり的にはキリッとした顔立ちの兄の方が美人だった秋子お姉ちゃんに似ているのにふしぎに思った。
私はどちらかというと秋子お姉ちゃんのようなタイプではなくて、お母さん似のふんわりしたタイプだと思うのにふしぎ。
会が終わって会場を別のところに移動して高倉の伯父さんと叔母さん、アンドリューさんと秋子お姉ちゃんの遺骨、そして私たち家族で食事をすることになった。
私はみんなについて歩きながら、なににしようかと考えていた。
お寿司屋さんだったら普通に、にぎりの並みを注文すればいいけれど、レストランだとメニューが多くて困るからある程度お店で迷わないように決めておかなければならないと思った。
食べ物に好き嫌いはないけれど、小学校五年生のときに牧場に行って子牛と遊んでからからお肉には少し抵抗がある。
だって、あんなにおとなしくって可愛い子も、いつかは食べられてしまうんだよ!
もしも今食べているお肉が、あの子のものだったらと考えると、どうしても食べる気にはなれなくなった。
エビフライにしようか、それともカキフライ。
天ぷらのあるお店もいいなって思いながら歩いていて、連れて行かれたのは旅館のような所。
“えっ? 今日お泊りだなんて聞いていないよ……だいいちロンのご飯やお散歩、どうするの!?”
どうしよう?
私だけでも帰らなくては!
私は、それを言うタイミングを探していた。
お店の中に入ると、玄関に女将さんのような人が出迎えてくれて、奥の部屋に通された。
寝室のあるお部屋ではなく、掘りごたつ席のある食のできる場所。
先に食事を出してくれるのは有難いけれど、私は部屋に荷物を置いて顔を洗ってからのほうがよかったなと思ったし、少し時間があれば先に温泉に浸かって……いや、そう、ロンの世話をするために帰らなくちゃ!
アンドリューさんと伯父さんがトイレに行ったタイミングでお母さんに、ロンの世話をしなくてはならないから泊まらずに帰ると言うと、お母さんが「どこに泊まるつもりなの?」と噴き出すように笑った。
「だって、ここ旅館でしょう?」と私が言うと、兄が「料亭」だと教えてくれた。
なんで私だけ知らないのかと兄に抗議すると、入り口の看板にちゃんと書いてあったと言われた。
そう言えば、私はただ行列について、何を食べようかということしか考えていなかった。
秋子お姉ちゃんの叔母さんにも笑われて、お母さんを睨むとお母さんは素直に私に謝ってくれた。




